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'22.05.25 六員環の燃え殻あるいは花の骸

光覚を失ってもまだ温い

手のうちのバイオスフィア

脈打つ本能がさめざめと囁く

月の軌跡をたどって腑分け

美しくもなければ救えない顕性

鮮少なやさしさをアルコールに浸す

夏を分解する指

ひと匙の虚実の証明

夜から朝にかけての曲線

名前のない星座を戴いた天秤

暮れなずむ天球の黄道をたどって

細胞ひとつまで白鯨の吐息で創られた

零のなり方も忘れたインプリンティング

月の巡りひとつで焦土にもなりえる

六員環の燃え殻あるいは花の骸

瞼の裏でだけ羽化する幻想

空白から遠ざかる孵化

傷跡に咲く永年草

きみと私のビオトープ

背骨に刻む熱と光の幾何学

たましいの可換体に火をともす

にんげんの皮を被って擬態している

かなしみの閾値を抱きしめたままでいる

嘘を見破るためのクロマトグラフィ

あなたの怜悧な眼差しの黄金律

昨日からつづく記憶の配列

濁音をはらむメソッド

最初にひとつ残響

花言葉を切ってわける

骸のように朽ちていくDNA

1グラムに切り分けたトパーズ

わからないまま終わりつづける分裂

ミリメートル先の闇にも優しくなれない

私たち歯牙を磨いても獣にはなれない

わだかまりに溺れたホメオパシー

幕引きを証明するための力学

フレスコいっぱいの真珠

たゆみなく共鳴する

くらやみの余熱

ろくでなしの潜性など知らずにいた

明日の密度には限りがあるから

楽園を紡ぐためのロジック

うつしよの共振でも奪っていて

空虚を閉じこめたシャーレ

二重螺旋に刻まれた原罪

'22.05.20 透きとおる微睡の光さす書架

零れたミルクで描く背徳

あどけない眠りに足首をとらわれた

ひるなかの夜光虫みたいに変容する

まばたきひとつ閉じこめる怜悧

ふぞろいな脈拍を傷付けた

なみなみと結べない裂傷

ありふれた青を触ってあげようか

潮騒に溶け残る「さよなら」の音

煮崩れそうな白地図を探している

忘却を知らなすぎた裸足のうら

凍えたまま散らばる泥濘

ねむたげな色彩の明滅

透きとおる微睡の光さす書架

ざらざらの心臓に触れる手つき

錆びれた凍土でこだまする春雷

またたきの温度と解けない暗号

紛れもない夜の結び目で逃避行

なまぬるい眦に押し当てた硝子

花曇りの車窓から溶けゆく焦熱の彩度

花片ひとつままならない有限性

たましいの欠落に息もできない

かじかむ指さきでまさぐる六月

ぼんやりと横たわる灰被りの翅

ふたりのあいだに崩れゆく系譜

額に捧ぐしるしを摘み取れずにいる

シナプスの遊走とまぶしい不毛だけ

最果てと偽り電子の海で褪せていく

窒息しそうな亡霊の街と海鳴り

ふたつめの奈落で待ち合わせ

降りつもる火種に溺れる

灰のなかの星座はやわらかい

とけかけた虹彩を呑み込んだ

しらじらと稚拙なままだった

不揃いなやさしさを奪われた

あの夏の欠落と物語の終わり

シーツの波間で追いかけっこ

'22.05.18 不揃いな息をやさしく包む

風にさらわれて鳴るのは骨ばかり

透きとおる青の静脈に流れる春

この声のヘルツを蝕んでいく

剥落するかなしみ

砂上の花嵐で奪われた

不揃いな息をやさしく包む

光のかけらの散らばる標本室で

ひずんだ永遠でつたないハレーション

静謐に沈む部屋でひと匙の哀惜

この身に余る極彩のかたち

てのひらで踊る心や臓

四肢ある機能不全

醜さでできた獣の名をほしいまま

背骨に刻まれた個体番号が光る

名もなき鉤括弧ひとつ握り潰して

'22.04.13 しろく焼き上げた春の軽さばかり思い出す

長すぎる不在は偏在証明も楽じゃない

しろく焼き上げた春の軽さばかり思い出す

渇いたままのまなこをまばたいたところで何もない

膨らまない記憶を必死に手繰り寄せども忘れていく

はらはらと花びらの散る小夜めいたアスファルトをにじる

仄白い鯨幕に孤独をつつんで素知らぬ顔をしている

もう声すら曖昧なら瞳の色もいずれ消えていく

たぶん狭い陶器に納まるだけの灰になって

音楽プレーヤーからはいつも同じBPM

'21.04.13 Words Palette 05

機能不全のアンチトロイ

ナイトメアの有限性

縫合糸から手を離した

ネオン管に宿る夢

からっぽのまま繰り返す世紀

NPCとひそひそする

滲みきったらそれでおしまい

えんえんと100年経った

目覚めたときからそんな壊死

うつくしい嫌悪

内側から発する退化

うたた寝する指つかまえた

にせものの粒子をつつむ

声音も消えてまたひとり

芽吹かない種をつつむ

ただそこに有るだけの零度

味気ない晩餐

「ら」の音が欠けている

まだ右側があたたかい

ネオンカラード・ボム

黄泉までの切符はない

審判を突きつける

ワンナイト・ディストピア

囚われたまま繰り返し

フリッカー・ループ

'22.01.29 Short

絡まり散らばる感傷を湛えてまばたく

運命の輪のなかで眠たげな

青褪めたシーツの中でしか生きられない

遣る瀬なくとめどなく何処にもいない

欠けてゆくからだに残された未知

目を瞑ると亡霊の足音が聴こえるはず

いつしか燃えるような双瞳を手放す

これは遠い日の面影を忘れた罰

交わらない累月のもとで擦り減っていく

ぬるい雨で心ごと冷めていくような

'22.01.26 移ったルージュにあなたの味が犯される

煮えたぎる悪意を臓腑に刻んでワルツを一曲

移ったルージュにあなたの味が犯される

聖母さまの胎に宿るは赤黒き柘榴の実

被視配的マゾヒズム

寝苦しい夜をくるむシーツ

目ざわりな祝杯と踝を濡らす水

君の左目に映す猜疑心でさえ甘やか

あなたの肋骨のかけらが一番うつくしい形

瞳に嵌め込んだ瑪瑙は何も映さない

汚濁に凭れて沸き立つ血の巡り

薄汚れた獣性で満ち足りた

非懐疑的サディズム

柩を満たす赤椿の首からは憎悪が香る

甘い血も渇き切ってしまってお終いの嘘

あなたの眼差しの温度を紡いではいけない

'22.01.26 貪婪に濡れた火を動脈で飼いならす

さよならだけを手のひらで弄ぶ

貪婪に濡れた火を動脈で飼いならす

ぬばたまを編んで透きとおったその双眸

みぎわを游ぐ夢の輪郭

この煉獄には仮初めの暗澹

夜の胎動を掠めたら螺旋の先を

ほどけることのない紗幕しゃまくで隠したら

遠い日が匂う かの明滅が消えてくれない

おまえの舌の根でも手折っていてよ

夜溜まりを睥睨して行き止まり

肺を満たすあなたの呼気で

きわどい仮死を撫でる

夏の暮夜に色づく部屋は蒼然としている

この指は降り頻る星屑で汚れている

不滅をなぞる五指は禁忌を孕む

'22.01.26 水たまりのパレットに濃紫を溶かす

テールランプ色の雨傘

艶めき褪せていくサイレン

張りつくシャツの内側でにじむ色

水たまりのパレットに濃紫を溶かす

満天の紺青を切り裂いて銀色の針が降る

アスファルトにネオン色の刺繡をほどこす

真夏の通り雨は熱をもつ肌で理性とともに解けていく

不完全な緑の羊水で、僕らは海に還ってきた

くびれた紅い下唇を左から右へとなぞる

ブルーカナールのタイルを濡らす雨

君のなめらかな額をなでる指さき

靴裏で波打つネオンサイン

ランプの周りに咲く火花

'22.01.05 吐いた紙巻より早く落つ首切り花

削ぎ落とした眼差しで闇と交わる

たなびくけむの源で赤く燃ゆる明星ほし

皓々と金気鳴らして散るあかの火花

じりじりと焦げゆく穂先にて一線

吐いた紙巻より早く落つ首切り花

狗らしく前脚揃えてこうべは垂れずに

開ききった瞳孔へ集約する光粒子

闇を切り裂き雷光めいて一閃せよ

研ぎ澄まされた刃たずさえ駆月夜くげつや

鋭利な牙で貴様の喉笛を食い破る

'22.01.01 潮が満ちるたび蛋白石をひとつ落とした

白くかわいた骨のかけら一つ残ればいい

あなたへの嫌悪も臓腑に刻んでしまった

君には摩耗と呼べるかたちがふさわしい

潮が満ちるたび蛋白石をひとつ落とした

夜も朝も鈍色に透きとおる移ろいの兆し

ひと粒の季節も忘れてしまえば最低だけ

とけおちる頽廃たいはいの浴槽にて鱗をほどいた

ふりつもる行間にみずから沈めたいとき

つめたい中指に秘めた心の裏側をひとつ

彩度ある灰白色の燃え殻をえりわける指

交ざりあう瑕疵かしの綴り方しかわからない

夜半よわを裂いてとけてなくなりますように

しらじらした三日月をつま先で転がした

薄っぺらい夢と朝のむすび目がたなびく

'21.12.29 エンドレス・コード

情緒の揺らぎにあなたの声が沁みる

名もなき欠落も泥まみれのまま

あなたの手のひらで窒息する

湿ったまま朽ちていく羽化

私たちの間には何もなかった

解けない結び目に爪を立てた

両手に収まる21グラムの真価

冷凍庫での眠り心地はいかが

飽くまでも冷えていく指先のせいにした

エンドレス・コード

やがて土に還れない罰

交わらない嘘を数えている

17才の過ちと燃やし尽くした欲望

揺らいでは掻き鳴らす懊悩

最後には灰に尽きる罪

アンモラル・ビート

古代生物の泳ぐ空を私たちは見上げていた

真珠のような倦怠を転がして

こびり付いて落ちない形の石

しんしんと燃えている不感症

倦んでいく鼓動さえやさしい

こぼれ落ちたらそれでおしまい

あどけない瞳で終わりを見ていた

途切れそうにまたたくフィラメント

吐息の温度まで知りたかったいつかの日

'21.12.20 火溜まりにゆくための素足

骨のひとつも残さずに灼く火

ミッドナイトブルーに沈む星雫

黎明にくべても屑にはなるものか

散らばって燃え燦めく

火溜まりにゆくための素足

言の葉の純度でもはかっていて

たった手のひらの上の星を見ていた

まだ踊り足りないならこの夢の終わりまで

翳っていく昧爽まいそうで何もかも結べない

そもそもが獣のための夜だった

この両手に火をつけたがる

夜陰やいんに咲く星の生まれ

めらめらと汚れた灰になどなるな

にんげん的に燃えてくれるかい

すべての終わりを拭い去った

'21.12.15 メンヘラの国のアリス様

メンヘラの国のアリス様

マッドハッターは鉄塔から逆さまになったって

踵の切れた足でポルカを踊るの

知ってるのよ、あなたの瞳の影の正体を

26時の鐘が鳴るまで帰りたくない

硝子ケースの薔薇みたいに私を飾って欲しいのよ

履いた途端ガラスの靴は粉々になったの

あたしの胎で毒林檎が芽吹いたの

わたし迷いなく王子を刺し殺して薬を飲み干すわ

無彩色のあたしの躯をチェスの駒みたいに指先で弾いたの

物言わぬ騎士を青光りするつるぎで貫いた

目が覚めるなり彼女が言った「この人だれ?」

バラ色も溶けて落ちちゃうわ

トランプも皆んな燃しちゃったのよ

だったらキスなんていらないわ

あたし一生眠ったままでいたいのよ

痛みもなく泡になれるなんて羨ましい

好物は白うさぎのミートパイ

マッディ・ティ・パーティ(A Muddy Tea-Party)

赤い靴はとっくに脱げた後

'21.12.10 花さえも神の祈りへこうべを垂れる

渇き切ったくちびるで紡ぐ異称

祈らない白痴を棄てられない

今際のくにで四肢を呪われた

まばゆいばかりの夜

灰色の泪で満たす単眼よ

もう二度と剥がれ落ちない痕

渺渺びょうびょうとした暗夜にうずもれた鼓動

顔も見えない黎明ならやさしくいれた

なまぬるいはなむけ喰らって灰へと還す

冷ややかな轍の上で未だ見ぬ

いびつに澄み切った羊膜

氷りつく夢のつづき

一瞬のあわいを走り抜ける

午夜ごやの青い淵も粉々になって

花さえも神の祈りへこうべを垂れる

'21.12.05 350 AM

夜の狭間に不時着する

耳をくすぐる刹那の現世うつしよ

黎明は無色透明の匂いを放つ

あなたの輪郭が淡くなる時間

ボサノヴァに微睡む休日の朝

ためらいがちに骨灰こつばいを掬う指

永遠の眠りを息吹に閉じ込めて

揺蕩う夢はどこへと消えていく

トロイメライ指先からこぼれて

3:50 AM

白々した観念を前頭葉に飼っている

夜明けのヴェールに淡紫を滲ませて

闇の被膜をゆっくり捲っていく

陽光の剥片をそっと拾い上げる

ほどける輪郭とグロテスクのマリアージュ

プラスチックみたいな陶酔を瞼にそっと隠す

あなたの指先は欠けた「何か」を閉じ込める

刻んだ轍は消せず、吼える蒼は土に還るのだ

土にまみれた褪色たいしょくを抱き、がなるあかを殺すのだ

夜明けの海さえ見られれば何か変わると思ったんだ

あなたその時、ひとさじのシナモンがくるくる溶けていくのをじっと見ていたのよ

'21.12.01 朽ち果てた大地にて千年彩る不香の花よ

ふいに吐いた疑問のため息も冷めていく

いつかくらいは重なる幻影もあるだろう

千の言葉もこの胸にある氷は溶かせない

寄りそえない脊椎で火ばかり腐っていく

雪の下で灰色になった詩のように息づく

二度とは還らない間隙かんげきがこだまする別離

朽ち果てた大地にて千年彩る不香ふきょうの花よ

ほのひかる硝子の悪夢を探している日月

指さきを苛むちいさな凍傷みたいな言葉

蒼白く彷徨う獣もこと切れた無機となり

神さまが氷屑をばらまいたみたいな星々

白く吐いた息は僕らの頭上で混ざり合う

ひとつの夏のために透きとおる白痴ほど

百年かけた偏在をしてなだれ落ちる雪垂ゆきしずり

lastup:'21.11.26 '21.11 1d1t

足して二で割れば丁度いい星座

稚拙な銀河にくべるハレルヤ

錯乱を絞めるかいな白藍しらあいに染まる

脆弱な白磁の火照った肌質きじ

玩具がわりのアイロニーを踏み潰した

不幸の波紋と青色のワンルーム

劇場外に音をなした噂の尾鰭おびれ

けむりの残骸と冷たい血の巡り

謬見びゅうけんの孵化と瑪瑙のさなぎ

情熱の落下速度に似た白夜

星巡りの記憶のほころぶ鏡の向こう

過ぎ去った空虚な慟哭が恋しい

瘡蓋が耳ざわりな野望

愛憎劇の末には契約印も消えている

ゆめの質量とこぼれる白昼夢

愉快な宿命に駆り立てられた真実味

追憶する慈雨の滲んだあの夏に

綺羅の境界線に巣食っている翠眼

少年が落とした記憶の定理

傾国の薔薇ひとひらと普遍的考察

命短し首なしの夢は失落する

真珠を落とす音に答えが欲しかっただけ

廃都へたどる終電のラプソディー

こまぎれの絹絲で紡いではいけない

煮えたぎる残像が煩くて

白星のかんばせと漂白した体温

扉の向こうの遠雷と電話線

言霊を閉じ込めた便箋の頼りなさ

病気をまとって狂気のささめきごと

記憶の生き死には要らない

'21.11.26 青春は僕の足元に埋まっている

僕らがまだ誰でもなかった頃

青春は僕の足元に埋まっている

僕は反対側で待っていたんだ、友よ

思わず降りた今のが終電で馬鹿だった

あの頃の僕らきっと何にでもなれた

私たちは黎明の残夢に佇んでいた

ふたり季節をまなうらに綴って

クローゼットで舞った白銀しろがねの君

海鳴りは僕の手首の脈に続いている

脆いグラスの破片が足もとに散らばる

君の21グラムの正体を僕は知りたい

幸運は降り注ぐ塵のように過ぎ去った

碧羅へきらをまとった天使のレクイエム

いつか振り返ったときその歪さに気づいて

あやなすニューロンの末尾に不条理を添えて

がなる碧落へきらくを踏み抜けば 君は蒼茫に融けるだろう

真っ白い天使の翅は掲げたライターの火に赤々と燃える

かつて僕らにあった感情もベッドの下で弱り始めている

家賃9万のワンルームはガラス一枚で外界から隔絶された僕らの国だった

ガタンガタン、ガタタン、終電はうつつな誰かを乗せて今夜も家路を運んでいく

'21.11.18 血を流す声を囁きと呼べるか

胸には仮初めの孤独を飼っている

醜さになり損なった劣等の変種

雨がやんだら浴槽も埃まみれ

永い朝と消えない愛の明滅

宵明けのくちどけを弄ぶ

欠け落ちてまがいもの

薄ら氷の螺旋の先で

月も満ちないしらじら

人魚の髪と禁じられた唄

どこにでもある貴方の面影

血を流す声を囁きと呼べるか

うすくれないを映してほころぶ

仄白い便箋に垂らした青いインク

創世記

ゆびさき

縫いとめる

いびつな追憶

溺れる残留思念

ひび割れた靴擦れ

傷みやすい満ち欠け

背中の羽を燃やす

錆びる有刺鉄線

おわかれの日

閉じこめる

くるぶし

抒情詩

'21.11.18 青褪めてばらばらの血脈

誰も知らない狂気を臓腑で育てている

1ミリ以下に隔たれた僕の証

羊水に溺れるような陶酔を

生まれた端から地獄逝き

人の皮をかなぐり捨てる

コンマ一秒で死に絶える

青褪めてばらばらの血脈

憎悪に満ちるぬるい潮

八日目に死んでいく

ようこそ俺の地獄へ

隠し味に私の一部を入れておいたから当ててみてね

あなたのことを考えると心臓でなくて下腹がキュッとするから、きっとあたしの心はそこに在るんだと思う

lastup:'21.11.18 Short

吐き気がするほど美しい夜だった

ぼんやりした刹那を均す手つき

お終いにするにはちょうどいい時間

おおよそすべての離別をなぞ解き

なにもかを燃える星の火で失ってしまう

心臓に憂いを帯びていて

泥にまみれてやさしいふり

ここはまだ最果ての匂いを知らない街

月あかりを記したメダイユ

少なくとも再生の火はまだ満ちない

ふたりぶんの淋しさで夜をくるむ

寄せては返す泡沫の果て

灰のなかから羽化する祈り

冷たく凍るゆうれいの息吹

縫合した夜と朝のあわい

この冬は眠ったままでもいいよ

夜の深いところは何色だろうか

手のひらでつつむ周波数

己の名前も知らぬまま生まれてしまった

やわらかく剥がれ落ちたしあわせ

ひなた雨を飲み干す背徳

一片ずつはがれ落ちる花曇

ありふれた机上論に傷をつける

歯型にまみれたちいさなビオトープ

混ぜこぜにけぶるしあわせの変異体

細胞を満たす海はまだ温い

無傷のまま発火する鉱石は夢うつつ

傷ひとつ濁らせるねむたげな夜更かし

泥まみれで戯れ紡いでねぶそく

凍りついたまま失くしたそんな致死

うつくしく奪われた涯てに焼き付いたまま

ねむりのあとの雲間でうちゅうの解をもとめる

絶え間なく滲みきったら醒めるような雨後

彼方から胸底に火をつける

ゆうれいに息吹を吹き込まれた最初の日

こんなふうに欠けていく季節を燻らせて

なにものかになれず満ち足りたかった

いにしえより流謫るたくのたましいを匿う火竜の巣よ

忘却の涯てにみちを殺めて病めるとき

心臓に刺さった棘を摘み取れずにいる

ささくれた花の色とならずの獣

まぶしい犀利さいりをなでるような手触り

とけかけた導火線のかんばせ

神様の指先は凍えたまま

透明で煮崩れそうなピリオド

綴じ紐がおもたげなおわかれの日

ぐずぐずに崩れゆく創世

水槽の中でぼんやりとひかっているもの

どこにでもある爪あとと不感症

ひと匙の白昼夢に触ってあげようか

紛れもないあらすじの壊死

ふやけて息もできない体温

逃避夜行には巡らない夜

溺れる月とインプリンティング

土足でほころぶ夜は色褪せてままならない

うつくしくもはしたない嘘つき

傷みやすい色水でゆびさきを染めた

どうしようもなく摩耗した雨と傷

ふたりのあいだに横たわる追憶

窒息しそうな形の石と微熱

'21.11.12 Words Palette 04

彗星にはなれなかった

瞳の中のうちゅう

エピローグの雨後

忘却に火をつける

紛い物の傷ひとつ

うつくしく朽ちていく

ポケットに銀貨一枚

呼吸する廃材

個体番号を落とした

色褪せた押し花

心臓のあらすじ

摘み取れずにいる欠落

箱庭の冬

ノイズ雑じりの色相環

てのひらのピリオド

青の模倣

二人ならここが最果て

凍ついたまま解けない

まなざしを濁らせる

夜をくるむ透徹

灰のなかの半貴石

瞼に宿る祈り

季節欠け落ちて

泥まみれの昨日

失くした流星群

'21.11.08 まぶたに透ける脈拍の青

凍える焦土の孵化

優しくない青雨せいう

あまい三角形

ここは海底の美術館

六ペンスの解体新書

そのひとみに棲まう傷

まぶたに透ける脈拍の青

ゆうれいの嗚咽もあやふや

正気でいるにはやさしすぎた

心臓の深いところを何と呼ばうか

かみさまから盗んだスプーン

絶対零度にも満たない世界

明日の朝まで泣いていて

電子の羅列は渦巻いた

去りゆく夏の踵はつめたい

海岸線に還るならふたりで

にくい七角形

黒のための証明

やわい正義の明滅

'21.11.08 朽ちていく細胞の翠

逆行の境界線

遠雷の明滅と横顔

水星のくちづけの温度

浴槽には神話がみちている

碧い瞳の炎

埃まみれの楽園

縷々たる星たちの轍

燦然たる雨降りの土曜日

剥がれかけた沈黙をさらって

オフィリアの踵は無垢さを知らない

いくつもの致命傷から芽吹く

銀河のまたたきをひと匙

朽ちていく細胞のすい

劇毒で満たして

仮面の葬列

流星の鯨が眠っているあいだ

君のいた霧の街から還れば

雨がやんだら祈らない

沈む詩篇と羅針盤

ひかりの迷宮

'21.11.08 眠りにいざなう肉薄の火よ

月蝕のひかりでつくったナイフ

痕かたもなく噛み砕くゆらぎ

はだかの花茎がなやましい

眠りにいざなう肉薄の火よ

わたしの白骨を口移したひと

私のバスタブは満ち足りた王国

たましいをとろかすような祈り方

まぶたの上のメダイユは冷たいまま

無垢めいて狂ってしまえる迷い子たち

もう今際の闇はあなたしか知らない

何もかもを押し流してしまう退屈

この翅は背徳で色づくのだから

半分は天使の血が流れている

いつまでも消えない靴ずれ

純潔の燃え殻を撒いてしまう

かなしい回帰に目を閉じていて

星屑さえ醜い姿かたちに擬態する夜

うつくしくゆれる炎は嘘のいろ

柘榴石にも似たリキュールの硬度

かたくなに五線譜のかたちをかざしつつ

'21.11.08 信仰を均す手つきもつめたいだけ

詩環の受肉もここらで産まれなおす

偽称する双眸をなぞる痛みすら

この世のすべての忘却をもうずっと磨耗と呼んでいた

ふしだらな色彩を撒いて道連れ

敬虔に縫い付けられたなれのはて

えんえんと降りそそぐ羊水の夢

まどろみを千切って失くしたものばかり

いつしかつぼみの輪郭もほつれたまま

失格を額に刻んで渇きも蠢いている

羽化の瞬間まで隠してあげる

黎明を手折るゆびさきに深遠の粒子をそそ

今際の詩圏にて草臥れるまで喧嘩しよう

セロハンひとひら隔てたような壊死

わたしたちの刻印を塗りつぶす凶兆

祈れどももう戻れない地獄を踏みつける

地上のどこかの白雨を遠近法で弄ぶ

明け透けに芽生える赤を哀れなんて

花のようなくちづけを脊椎に

生まれたばかりで土にも還れないまま死んでいく

あの世の胎動もかつては剥き出しだった

その眼差しの色もわからないまま名前を呼べない

鏡の向こうには地中の亡骸も踊っている

いつくしき墓場にて非在の証明を

腐敗する水晶体じゃ嘘は見抜けない

燦然と箔押しされた花嵐を游ぐ

遣る瀬なき聖なる始源

十字架の沈むうなぞこに人魚の棲み家

肉薄に死のナイフがむきだした

手すさびに空白の終止符を定義する

六等星のシナプスでも切り分けて

情動になずむあなたの頬に銃口を

八つ裂きの深部が解けたとき

残り火も尽きたからもうおやすみ

てのひらの上でなお枯れてあやふや

ひとつの幕切れをくゆる八月

叙事を冷めたまま分け合う花々

繰り返す耐えがたい苛烈を撒く

未読のまま踏み荒らす帝王学

灼けただれた聖書にも似た硬質

ひとりきりでも灰になるにはまだはやい

背中合わせでひとつになるために生まれてきた

自らをまろびでて嘯笛も遠ざかる

刺さったままの甘い棘とその可塑性

祈りをこめて福音の鐘も燃えている

逆鱗の噛みあとには気づかないふり

かなしい魔物を殺めるまで

聖者の戴冠

忘れ去られたらそこでおわり

粗悪なひかりを愛すことは二度とない

星食いの最期の火

きっと不規則な拍動が小指をさらってしまうんだね

はだかのふしあわせにも泣かなかった

あなたの指はいちばん美しい裁き

透徹の森よ、まよえる虚ろを捧ぐ

信仰を均す手つきもつめたいだけ

渦巻いて噎せかえる詩のなか

あの場所で壊して置き去りにされた

ばらばらに捲れてすらいない秘密のいろ

はだかの傷跡を知らないふり

寄る辺ない観測地にてひとり

隙だらけの踝に咲く傷

あなたの呪いが世界で一番美しかった

バウムクーヘンみたいに層になった死のこと

やわらかな息の根が交わる

眠らない神の五指の救済もなく

落とした記憶の輪を数えている

今ならあれがお別れだったってわかる

焼き尽くす凍りのひばな

羽化と呼ばれる蹂躙についての記録

ぐずぐずの影すら美しい

ひとりしずかに産声を上げていた

花の骨と呼ばう薬指のかたち

いにしえの獣たちの夜

瓦礫だらけの楽園の終わりを見ていた

双眸に火をつける

ひとみに映る災禍の影

永遠の結晶はまだどこにもない

傷だらけの歪じゃままならない

そそがれる音楽にくちづけるみたいに

てのひらの中で終わる栄光

痛みですら贖罪で終わるのに

有限の落下速度でもかぞえていて

つま先の発火点で非対称

ああ君がため手折った花床かな

蹂躙するみたいに奪ってそんな終わり方

額のしるしはそろそろ錆びついてしまう頃

花隠しの冬に約束を忘れてきた

甘えたな追憶もいつまで踊り続けるか

千年を捧げて信仰を刻む

きみのために銀の牙を磨いてきた

映日えいじつをくべても燃え尽きない

煙草の火を吹き消すみたいなスコール

あなたの影で息づく宇宙

幾つもない理由を並べたただけ

凍りの砂嵐/炎雷の海鳴り

花の一生、まぼろし、境界線

水脈に抱かれる月長石みたいに

欠けない月とたましいたちの踊り

終焉の光で織った稜威りょうい

老いてはやがて森羅の国がひらかれる

lastup:'21.11.08 10,000 hits

おしまいの形を知らないからまだ遊びましょう

死体役には向かない人形

翠の眼に浮かぶ閃光

お砂糖まぶして召し上がれ

あまくとろける悪夢でコーティング

気だるげなディナーで星を食む

永遠に欠落し続ける甘美な夢

翅を燃やして失落する

白いインクで心臓に署名した

聖火を纏ってめかしこむ

まっさらな指輪を掠めるだけ

白夜を希釈したそんなささやき

ブルーミィ・グルーミィ(Bloomy Gloomy)

万華鏡みたいな部屋のなかで貴方がわらった

頬の上で綻んでいくホロを見ていたから、その横顔に浮かぶ表情を知らない

たくさんの嘘のなかで花開くもの

しあわせの音を知ったから永遠になれる

ワンルーム・ブルーム(One Room Bloom)

七等星のまま燃え尽きた

月殺しのメソッド

無菌の殺戮

窮鼠の犯意

脚本を燃やしてカーテンコールには喝采を

知らないくせにそれっぽい言葉で埋めようとしないでよ

破滅にはせめて電子の花でも手向けてくれよ

移りゆく終幕には君がさよならを告げてくれ

結末の美しさがまぶたに宿る

後ろ髪ひく面影に茜さす

からっぽのうたより君の言葉で満たされたい

さよならの先に春こえて明日を見る

まぶたの裏のむらさきの血脈

欠け落ちたひかり閉じこめる瞳

混ざりゆく味の果てに何もない

決して交わらないたましいの温度

終電に揺られゆくお前の項を流るる生きた血よ

八年前の毒薬が今さらめぐる

束の間の王座とも知らずに

運命のいたずらに弄され堕落する

祝福の鐘の音を覚えているか

幻をひたすら築いていたなんて皮肉なものだ

勝利の歌を忘れたことはない

地に落ちた冠を踏みつけた

朽ちゆく躯と奪われた夜

甘やかな劇毒と渇ききった約束

空めく遮断機、聞こえぬまま

剥がれかけた乙女の心臓

眠ったまま彷徨う霧の街

退屈を満たして器に飼い慣らす

絶頂期に手折られるならせめて爪痕を残したい

掃き溜めにかがやく琥珀だと思っていたのにね

鬱屈めいた足跡をお前の心臓へ

じっとり湿った心の焦土を土足で踏み荒らすな

幼子でもたしなめるような声で線を引くなよ

最愛にはなれずじまいで忘れ去られた

やまずの雨の週末をあなたなしで過ごさなくちゃね

置き去りのままとろかす迷い子

どうせひとりぼっちの迷宮

孤独にふけったまま空っぽの揺籃

ダーリン、今度はちゃんととどめを刺してね

枯れない心の創造主

手に入ったようで手に入らないお前にいつまでも身を焦がす

掴んだ端からすり抜ける

交わりを忘れて憂いていけ

そんなふうにお前に奪われたかった

約半分の嘘

21グラムの分量を間違えた

廃せよ偶像、傀儡のなれの果て

あなたのいない地獄へ置き去りにされた

ゆるやかな自死を患い轍の上

白に孵りゆく羊膜のうち

一縷の恋心たずさえて引鉄をひけ

この世すべての色彩の標本室

世界で一番うつくしい雫

あの日のひとしずくに魂震わせて

一生離さない右手

溢れた花々に僕の心を授けよう

秘密めいてぼくの言葉を託すよ

きらめく右頬を拭わせて

くちびるの狭間の祈りへ

やさしいナイフ遣いで満たして

はだかの心臓を愛して

選ばれない純潔を苛んで

瞳にゆれる炎にくちづけして

甘く痺れる黄金色の災禍のまなざし

傷む青

灰の鼓動

熱望の淵

天上天下の輪廻めぐり

魔術めいたピーコック

羞らいのエルナト

満爛と散り染むる花びら

僕はめぐる季節のまんなかで

燃ゆるいのちの輝きを灯して

永遠に終わらぬ夢の途中で

転回を恐れる羊たちよ

夢の道程が尊いなんてね

ゆき過ぎた常世よかそけく幻なりて

君が背を見送りて消ゆ

いたずらめいて茜さす車窓よ

君の頬にかかるひとすじに神を見る

欠落を知らずにどこまでもゆくがいい

傾げるひかりの粒子とスカート

かぐわしき白痴のまなこを謳うな

月夜に足音を盗ませるな

陶鬱たるままに輝線を凝視ながめていた

往時かみに誓いし鐘の音の再び鳴らざりし

玲瓏れいろうたる朝と夜の境目に

色彩を殺め窈窕ようちょうの火を熾せ

この燃え盛る煉獄で汝を待つ

重い四肢を繰り約束を果たせ

決して果てない真実の輝きを

薄皮一枚掠める死のやいばくぐれ

汝に根ざす激情を揺り起こせ

今が審判の刻、戦士たちよ身を捧げよ

6フィートの深淵に飽満したい

冴えかかる透徹の月光に艶めく君の正体は

まろび出でし哀感には一枝の槿花きんかを捧げよ

涙のひとしずくまで美しくあろうなんて

ゆえに、なまるぬき泥濘で朽ち果てよ

六月は遣る瀬なき失透の涯て

lastup:'21.11.08 夜長 夢十夜

ひびわれた唇に透明な紅をひく

半透明のつま先と揺れる翠雨

波紋を寄せてそんな影踏み

おろしたての赤で街を行く

僕の血潮は砕ける灰の雨

実体のない最終列車で銀河を走る

指さきの硝煙も薄れてしまう

終点には七等星のくちづけ

宇宙のさざなみで忘れ物

安らかな重力と星の海

黒く濡れた枝の隙間/刃毀れひとつないまなこ

赤く燃える穂先で描く一線/されど遥かなる隔壁

金気を帯びて闇夜を切り裂く/襟足からしたたる雨

掻き抱けど欠け落ちていく/さらば愛すべき負け犬よ

孤狼、月に吼える/この血潮は嵐のように眠らない

絶え間なく五月雨も嘘をつく

未だ見ぬ翼の名残をたどる指

かそけく鼓動と乾いたインク

溶けてしまう名と吐息の温度

馴染めない骨で息をしている

静寂が耳を蝕んで残るのはせつなさだけ

めざめてから最初の音と橙の星屑

今際の森には凍傷も癒えるらしい

朝と夜の結び目に音は眠っている

花さえも拒むつめたい夜には

きわどい嘘もブルーライトで渇いていく

八月の最後の日とポルターガイスト

さざ波のかけらが点々と落ちていた

単眼の痛みをたずさえ週末の足音

不揃いの乖離と悪魔のくちづけ

振り向いたあの子の髪が風にさらわれた

記憶の中でしか会えない彼女と春の海

潮騒の吐息が瞳の水気を奪っていく

あの子の名前はかたちにできない音

裸の足裏を砂がさざめいていく

てんしさまは一週間の休暇中らしい

明け方に結んだままほどけない呪い

窓ガラスに描いた生まれなおし

片手間に手折られし薄命の青

転調するむらさきの幸福

薄明の雨音にとらわれたまま、棄てられやしない

祈らない夜ばかり数えたら大人になってしまった

冷ややかなまなざしにもスコールの爪痕

もう二度とかえらない靴音と水しぶき

ここからまどろみまでは程とおい

指の隙間から零れ落ちて口ずさむにはもう遅い

誰にも言わないでねって甘いひそひそ声

ちいさく容量法を刻んでおくからね

つめたさより速く胸裏に届くもの

爪先でつづる黎明の光輪

'21.11.07 26時のダイアルをまわして

なにもかも錆れたお伽噺

ネオンの羊とプレリュード

ピンクのくじらとラプソディー

凍りのきりんとセレナーデ

26時のダイアルをまわして

あなたの名前ひとつ棄てられないなんて

ゆるやかな体温を閉じ込めた

うつ伏せで踊らない真夜中

最涯てに凭れたまま遊戯

皓々とよふかしの月と星

音のない夜を穿つ鐘の音

さえない真白と隠しごと

舌の上で持てあます音

星がなくてもこの街の夜は生きている

プラスチックの感傷を盗まれた

みちづれには虚しすぎる魔法

ライムソーダと花明かり

あの夏の残像と落し物

靴の踵でにじむ残光

可惜夜のささめきごと

あなたの砂漠を隠さないで

日曜日と花切り鋏

狭間に宿る白昼夢

二人称のざわめき

ワンタイム・イリュージョン

僕抜きで八月が終わる

白いカーテンと絆創膏

午後15時5分の青い春

うなじに這わすヴィナスの眼差し

今際の森で行方知れず

星と夢に擬態する

麗らかな心中日和

'21.11.01 枯れかけの愛の遍在証明

渇いた眩暈の行く末を

萎びた愛の顕在にそっと蓋を

剥がした皮下には槐夢かいむと未視感が

あなたの愛ってまるで剥製みたいね

子供じみた「もし」ばかりが積もっていく

あなたの心の輪郭を掴めないまま恋は終わる

出会ったときの温もりを忘れたあなたの指先

瞳に黄玉トパーズがさんざめくとき、あなたは何を諦めたの

燦燦さんさんと注ぐ空白感、燃え失せた熱情に瞳を揺らすの

歪な欠片を探さないで、そうやってほどこうとしないで

私たちの恋は見返りで成り立っていたのかもしれないね

最低の中にだってきっと何か意味があったなんて馬鹿みたいなこと

あなたのくれた真珠のピアス、海に投げ捨てたからきっと泡になったわ

きっとあなた、あの夜景を思い出して最悪だって私の嫌いな笑い方するのよ

お揃いで買ったブラックベリーの香水、あとは空気に溶けて消えるだけなのね

lastup:'21.11.01 Banner

世界から零れ落ちていく

優しくしてあげない

てのひらの上はらませた微熱

飴玉のように濁った深層心理

醜いままでほころぶ満ち欠け

乱反射する螺旋の視線

エンドロールには僕の名を射止めて

あなたのいない奈落にて

硝子のなきがら

最北にはきっとまだほど遠い

降りつもる染色

褪色を燃やすほころび

ふたつめの骸はひどく脆い

24と0の境界

午睡にかかる天使のはしご

ヘリオガバルスの棺

エルドラドのひと雫

ふたりで微睡む泥濘のこと

化け物のなりそこない

薄明/薄命、きざはしを駆ける

行き合いの色彩を掬う

氷輪、嶺にかかりて

風を孕み発たんとす

インスタント・オルゴール

錆びついていた嫌悪に血が通う

21 グラムの塑造

まともさを売りにするなんて狡いね

夢を沈める鯨の尾

ここで終幕を待っている

さざ波が毒を飲む

嘘の質量 × 1/2 オンス

手に手をとって宙を仰げよ

ララバイ、甘い孤毒にさようなら

あなたのいない街に夜の帳が下りる

なるべくゆっくり時間をかけて隅々まで味わって

ごめんね、きっとこれで終わりね

細いベルの遠い呼び声を

サウザンクロス駅で待ち合わせ

夜を殺してしまったのかな

声が枯れたら歌いましょう

クリームが欲しい

現世うつしよ流し

きらきらのなみだ

アブストラクト・ホログラム

陽だまりのオレンジ

きっといつでも足りないもの

南の島のアイスクリーム屋さん

迂闊な指先あそび

あなたの手のひらの蛋白石

マイナス5℃の銀盤

Holonic Residue

ねえ、今年の夏は何して遊ぼうか

半径0.5メートルの王国

未完成のまま生まれた天使だから

シュガーレス・キラークイーン

ジェリーフィッシュ・テール

永久凍土に囚われた

カラフル・ポップチューン

砕け散る羅針盤

箱舟は定員超過につき

純潔の真似事

扇情、背徳が華

誰そ彼に散り染める

まどろむ果実

お砂糖にひとさじのスパイス

てのひらの琥珀糖

ほどける泡沫の虚像

望楼の火

遊戯的情状酌量

揺らぎの向こう

展翅板のセロファン

やさしくない祈り

寂寞の乱反射に陶酔す

東邦より花風

愚か者だけが君に恋する

lastup:'21.10.29 '21.10 1d1t

電子の仮想死を夢みていた逃避行

重い臓器をたずさえて眠りのくに

白熱灯の名残を暗がりに溶かした

存在証明ができない子のおはなし

おしまいの炎でつつむミルクレープ

アンバランスも溶けて水平線になる

わるい夢もくべてしまって冥途のみやげ

星雲のかたちも知らない神であれ

脈々と抱かれる星の群れよ

常夜の泥をさらってかなしい偽りのまま

やわい湖底に沈んでしまって首枷の錆

呼吸器官につづる文学

決して汚されないともし火を掲げよ

喜劇を晒した策略の綻び

なないろの再上演には痣も消えない

欠けゆく人魚と右腕の枷

汚い現実を結んでも幾何学は実らない

傾げつつドッペルゲンガーの秤

星の火めぐりで渇くくちびる

夜の海と薄紫はくしのタフタ

星の自殺と擬態する渦

いつかの面影も聞こえぬまま愚者のうた

花冷えの王国で人形あそび

綺麗じゃない秘密も燃してしまえば灰の花

にせの咎人は血も黒い

1万マイルの涯てから星間飛行

唇音を忘れた深淵で眠りについた

完璧な劣情の戴冠式

命題を授けるみどりの帝都

月夜にきらめく翡翠の正体よ

何者にもなれる盲目の不可分体

'21.10.04 真夜中の迷子

眩むようなレプリカの宇宙そら

不確かなものに溺れる深夜二時半

どこまでも一緒なんて約束したのにね

都会の狂騒に沈むバスタブ

シナプスの千切れる音がする

僕の孤独 × 三十七兆個の情動を

末端から青く染まっていくような

夜の闇に沈殿している街の営み

夜の落下速度でも測っていて

ミッドナイト・ハイウェイ

真夜中の迷子

17歳からずっと死に損なったまま

見つからない答えは僕を狼狽えさせる

欠陥だらけな Exit コードの軋む音がする

25時、街はうつらうつらと首を傾げている

眠らない街には無数の孤独が輝いている

Our Last Train(もうすぐ最終列車だ)

明滅する視界の180度反転の果て

真っ暗な部屋の中でひとり孤独に溺れてみたの

冷えた浴槽に沈んで夜の囁きを聴こうとしたの

バスタブの底で耳を澄ませば聴こえたのは夜の心音だった

23階でワインを傾ける彼も、11階でザッピングする彼女も

真っ暗い部屋でブルーライトに染められた顔ばせは蒼褪めている

あなたの身体に海があるなら、自ずと還るべき場所も解るでしょう

'21.10.03 淑やかなる世迷言

淑やかなる世迷言

嗚呼 なんて幸せな驕慢きょうまん

徒花あだばなに宿りし一滴の白露はくろ

僕の視界で明滅する悋気りんきの情

先生、何故だか前が見えません

あなたのピエロに成り下がりたい

おぼつかない清純さを切り売りしている

機能不全の愛を抱えて途方に暮れている

踊る馬鹿になれたらどんなに良かったか

移り気な神の采配には見せ掛けの恭順を

私の躯はメラメラと火を噴いて灰になった

今日もまた140字の散文に鬱憤を綴っている

あなたを苛む災いの種をきっと来世で摘み取るの

半径0.5メートルの貴方のバリアにさえ触れられない

なんだか他人ごとに思えないんだよって言ったのにね

あなたがかいなに聖域を抱くならあたしそれを喰らいに行くわ

あなたの吐いた煙だけを吸ってゆるやかに死んでいきたい

煤にまみれた衝迫は、耳閉感に軋む葛藤はいったい誰のせい

コインランドリーでまわる服と洗濯水を眺めているときに突然僕の肩を叩く孤独感

他人の好意をライターで灰に変えるような人間は、きっとろくな死に方はしないだろう

'21.10.03 殺意は清廉なシトラスの香りがするらしい

#FEFEFE/風にはためく真っ白なシーツの波間をあなたの背中が泳いでいく

#F4F2F0/色褪せて遠くなってもなお目映い

#CECAC7/冬だけが僕を忘れない

#A9A49F/彼の右の薬指だけが誠実を忘れていなかった

#DFDBD4/しんしんと積もっていく空白

#CAC5BE/てんしさまの引っ掻き傷

#ABA59E/刺だらけの硬骨

#8D867E/欠落を編んだ十二月

#CEDEDC/わたしのことをきっと忘れないでって言えたらよかったのにね

#C9D5DD/冬の朝の光で紡いだ服をまとって自堕落な窓辺でデリダを読むの

#CFCEDE/あどけない眠りをいだくインソムニア

#DACDD4/初恋の人がくれた押し花のしおり、色褪せても捨てられずにいるの

#A8899B/一目見た時から彼女は光をまとっていた

#9997BA/ブルー・ベルは瞠目どうもくする

#6D8EA3/そのときわたし、幻の手を掴んだのよ

#72A19C/実験用鼠モルモットはクロード・モネの夢を見るか

#326164/異端の火は碧く燃える

#204B4E/どうしようもなく淋しげな消失点

#123A3E/エメラルドの棺

#082F34/からっぽの浴槽をみたす残響

#E8BFBA/創あとに触れる権利

#D5AAA5/不揃いな肖像

#B98B86/まやかしのエチュード

#9E6C67/それなりの輝きをする春雷

#C2D2E5/いつまでも未完成の僕たちは

#ACBDD1/生きながら腐っている僕たちは

#8C9EB4/かつて愛だった骸

#6D7F98/波間に踊る心臓

#FEF7F1/希釈したのこり火でも呑み込んで

#EFE1D6/これっぽちの純情ならば

#CEBBAE/不埒なともしびでも弄ぶ

#AD9687/裏側の裏側でも解こうとして

#DDADC6/ふたりぼっちで微熱を焦がす

#BD89A2/てのひらに構築する花雨

#A56F88/ひびわれた虚実でもたべようか

#8C586E/かつてはそれを恋と呼んでいた

#8FBECF/心臓は乞われたから呉れてしまった

#6D9DB0/君の真実性に僕は渇いていった

#558499/一律五百円で叩き売られていた愛

#3F6B7F/僕らに必要なのはただ一つの色だった

#AD5462/それならあたし此処で地獄つくるわ

#95424E/私の翅に燃え移った焔を見てあなたは綺麗と言った

#83353F/暴虐な愛を忘れないで

#712730/肉欲は腐り落ちる寸前が一番匂い立つらしい

#FEFDEE/剥落する季節の淵

#EEEDD2/殺意は清廉なシトラスの香りがするらしい

#CCCBA9/三月の輪郭はまだやわい

#ABA981/黄昏の最後の残光が闇に沈殿していくとき

#F5F4F2/無辜の鼓動

#E2E0DD/手つかずのまま死んでいく

#CECDC9/7:48 AM 人のひしめくプラットフォームが灰に帰す想像に溜飲を下げる

#B5B3AE/ペンキの剥がれかけた自我を黒く塗りつぶす

#E2EFEE/あえかに爪痕

#CAD8D7/しんしんと嗚咽する海鳴り

#A7B7B5/六月のシグナル

#859795/最終列車はふたりきり

lastup:'21.09.30 '21.09 1d1t

偽者ごっことオフィリアの噛み跡

化け物めいた名前と奪われたかった嘘つき

赤の夜には魂もじっとしていられない

薬指に纏う疎ましい硝煙

この身に流れている劇毒ともう半分

やさしすぎたあくびと怪物にも似た宗教

こうして最後まで朽ち落ちた火のはなし

偽の月も渇き切ってしまって腕の中

どこかで句読点を落としてきた真夜中

指と指で知らないふり、毒を盛る

子午線を泳ぐ悪夢はふたつある

月長石の花びらを編んでつくった詩集

あなたの心にはゆうれいが歩いているのね

悪辣なくちづけがなければ死にきれない

ライカよ、有限の火を燃やしておくれ

銀星のざわめきの果てで選ばれない

宇宙のさざなみをかざしつつ信じていたい

窒息気味のハッピーエンド

たましいの繭を壊せば救いはない

ぬるい空白で孤独の首切り

肺に孕んだリキュールにうとうとする

ワールズエンドの枕で夢うつつ

機械仕掛けの酸素で傷を埋めよう

ひまわりを燃やし尽くした葬列

絶対零度の申し子よ、いつかの終わりを食んでいけ

夢幻のひかりをつむぐ領土よ

三角形の終幕に縫いとめた純正

すがりつく厄災と星屑のバラード

鎖骨に啄む奇形の石膏

対岸の終焉で永遠になれる

'21.09.08 五月、無垢の残像が君の向こうで揺らめいた

四月、季節は桃色の憂鬱を携えて

五月、無垢の残像が君の向こうで揺らめいた

六月、混凝土コンクリートに咲く濃灰のうかいの花

七月、脳を圧迫するような濃薫のうくんに溺れた

八月、逃げ水は微かな匂いだけを残して

九月、鬼百合の花蕊かずいに宿る夏の夢

十月、黄昏が靴裏に積もっていく

十一月、散り花つぼみのまま枯れゆきて

十二月、息詰まりな極彩色から視線を逸らす

一月、この手に掴めない幻想ならば

二月、曇りなき虹彩に潮風を孕んだ

三月、君の薄れていく声音を反芻した

'21.09.05 流動するスイートメモリー

指先までめぐる夏の味

沈黙があわいを走り抜ける

たちまち季節を跨いで連れていく

最後の一滴まで召し上がれ

首筋を駆けあがる震え

めぐみをあげよう

きんと響くいのちの漿液しょうえき

ため息が重垂れたくうにとける

ありがとうのひと言が恥ずかしい

手持ち無沙汰にストローの噛みあと

どういたしましても目が合わない

融け残りの気づまりまで甘い

たぶんきっとそんな感じ

体感マイナス5℃

たった数百円の救済

やさしさを両手で包んだ

流動するスイートメモリー

'21.09.05 サマーサマー・ナイーヴ

憧憬を伴い永遠に焼きつくもの

あっという間にもう届かない

今さら夏が惜しいなんて

青色デイライト

風鳴りにもたれる

からんと浮足立つおと

サニーサニー・グルーヴ

きづいたら風が浚ってしまう

サマーサマー・ナイーヴ

くだける飛沫にのせて

海鳴りに抱かれる

夏色ハイライト

焼き尽くす火炎の揺らぎ

汗と一緒に流れ落ちるもの

きっと一生忘れられない青い夏

'21.09.05 僕の頸椎には梔子の種が埋まっている

僕は指先を曼珠沙華まんじゅしゃげの色に染めて

物言わぬ彼の唇に一片の勿忘草を

僕の頸椎には梔子の種が埋まっている

わたしの脊椎は朱実あけびの鎖で編んである

僕の骨を撒いた土から鈴蘭が芽吹くとき

彼の虹彩には金木犀の粒子が宿っている

わたしの皮下は柘榴の細胞でできている

彼女の髪に桃色の百日紅さるすべりをひと房飾りたい

私の前頭葉は石楠花しゃくなげの花びらで構成される

彼女の海馬には鬱金香チューリップの球根が眠っている

彼の体躯はどこかに夾竹桃きょうちくとうの花が咲いている

彼のハシバミ色の瞳には輝々きらきらと妖精の粉が映っている

わたしの喉の桜色の鱗、あなたに特別に触らせてあげる

きっと沈丁花の香りを孕んだ風が彼女をあの春の向こうに連れて行ってしまったんだろう

'21.09.04 王の火よ自由を燃ゆ

濁りの夜

午夜よ星屑

花の骨と踊る

てのひらの倖せ

沈む境界線に落つ

王の火よ自由を燃ゆ

地中の秘密と密葬

ひと摘みの劣等

色句を模して

二人称の渦

縛る影絵

'21.09.04 落日のゆくてを彷徨う蠍

花隠れの奈落であなたの柩を満たそう

灰をかぶって輝度を刻め白日のもと

あなたの指に六等星をさずけよう

怪物を偽称するのはまだはやい

なまぬるき仮死に耳を傾けた

やわい花床で傷つけられる

ここらで傾き微塵みじんになる

落日のゆくてを彷徨う蠍

佳日を焼く殉教者たちよ

幻月のつま先に火を燃やす

肋骨の脂とともに膨らまない

盗んだ六ペンスで月にトリップ

澄み切ったまなこに獣の牙を飼う

手向け花よ肺に映って紗幕しゃまくを満たす

風の異称をたずさえ頰辺ほおべには海ならず

lastup:'21.09.03 Twitter Log

砂礫にて終幕を数えている

いくつもの夜を越えて収束する

罪作りの人差しゆび

すべからく青の絶頂期に散ればよし

まばたきの隙間に宿る埋火うずめび

あなたの踝には花の骨

引鉄ひきてつの重みをきみは知っているか

雨月うげつ裳裾もすそを濡らすかみさま

絶顚ぜってんに撃ち抜かれたピエロみたいに

あなたの手のひらの救世主

まよえる星々にもやさしい

歌い終えるまで目を閉じていて

とうめいな夏を噛み砕く

液体には還れない羽化

色めきたって絶頂に死んでいけ

さびしい音だけ綴って涯てしない

藍青らんせいに染まりゆく眼差し

海鳴りから続くぼくの脈はひどく遅い

夜化粧のヴェールを指先でつまむ

婀娜めいて酒精に流し目

薄明の残滓を

沈黙を刻む秒針のおと

垂れ込めた恍惚に身を任せよ

白いいかづちに撃たれて九つの生を得る

まぶたの裏の幻影

哀しみでできた青がまたたく

切れてなかったトランプみたいな気分

眠れる呼気にふりかかる鱗粉

無影のともしび

脆い翅だけを愛でていた

手首に結んだ栞紐は褪せた赤色をしている

シュガーシュガー・メニィ

神さまが創った箱庭のなかで

回送列車で揺られる本日の反省会

アイスクリームに混ぜればみんな美味しくなるかな

怖いものはぜんぶ冷蔵庫の中へ

焼けた靴でダンスしましょう

僕らの鼓動がリンクして、声のヘルツが近づく過程

アンドリュー、僕のてのひらで眠って

平らにならされた土塊つちくれに成り果てたかつての何か、僕は車窓を流れる空白を目で送った

そうやって君は少しずつ少女を失っていく

アイスクリームみたいに全部ぜんぶ溶けて混ざっちゃえばいいのにね

もう何度 無味乾燥な夜を繰り返したことだろう

遠ざかるサイレンをただ聞き流せば

夢で見たいつかのあなたの横顔

来世は花とか蜘蛛とか口のきけない生き物になりたい

不気味な夜の囁きに耳を塞ぐ

ピエロに成り下がった彼の末路

頭上には途方もない悪夢が垂れ篭めている

夾竹桃の花びらでお茶を淹れましょう

割れた玩具 爪先で転がして

あなたの肌の匂いをもう忘れてしまった

青の天井に押し潰された私の体躯

私音楽とか作れないし

お菓子買ったら電車逃した

'21.08.24 透徹のヘルツを証明せよ

かぐわしき夜間飛行

気まぐれな心や臓の脈

星の海で灰になるがいい

波うつ更紗とおそろいの冬

名無しめいていとけなき六月

真火をいだけ、つまさきを燃やせ

黙して喰らうひばなにも似た春雷

胎動にくずおれる不毛をなぞる

眠たげなくちづけで果てる嘘

滲むまぶたといつかの氷雨

透徹のヘルツを証明せよ

花のように燃ゆる地獄

残ったのは淡い芥蒂かいたい

lastup:'21.09.03 '21.08 1d1t

ひと匙のジャムを紅茶に落としたような瞳

ヴィナスの憂いた眼差しと欠けた右腕

憎め すべてが黒になるまで

君への赤い呪いも擦り切れている

悪魔に至るまでの道程

幽界の最終列車に間に合わない

眩む群青の果てに重力の針を統べる

五線譜の上で掴まえて

光と闇に惑って眠れない

ドーナツの穴の向こう側でかくれんぼ

縷々として焦がれる黒のための嘘

こころの隅でとろかす骸の火

まがつ道化とどこにもいけない血の掟

この音は眩すぎる陰陽を赦す閃光

もぬけの昨日に本物を置いてきた

短い夜ばかりが唄う日曜に

余りある程のまやかしを食べてしまって悪い子ね

痕かたもなく粉々な感情も生きている

まがい物の薔薇をうつくしく名付ける

甘すぎるくちづけじゃお別れできない

星と夢の舞台ににせものの仮面はいらない

あやふやな一等星はいくつ堕ちるのか

終点でかがやきも廃れる死生

月蝕に祈って白骨は踊り続ける

からっぽのおもちゃ箱と心中未遂

ねむりの地獄じゃ意味も形もない

海のコラージュと雨降りの美術館

幾つもない苦楽を神様から盗んだ日

霧の街が眠っているあいだのアンモラル

歌わない火の海にも沈黙は救えない

あらゆる有象無象を切ってしまって地獄変

lastup:'21.08.16 Characters

花淡牙かえんげ

落赤翼らくせきよく

劣青石れつじょうせき

月下に愛を抱け

花を散らす粧い

星の最期と猜疑心

凍てつく脈動に欲

満天の鎖で花を編む

修惑しゅわくのまにまに零れ花

唇ひとつじゃ誓えない

コインロッカーと花隠し

さりとて融解する円周率

たおやかなまま溺るるはらわた

紅き穂先で描くさびしい一線

知らなすぎた罪業たずさえはなむけ

殉なる啓示にまみれた髪の香り

夕暮れにはまやかしも骨も遠い

レプリカさえ艶めく午前二時半

臆病者の手のひらで孵る幸福論

綾なす創生には白皙も口を噤む

恋路に溺れやがて錆ゆく終焉を

揺れる影法師を捲る指のはなし

寝台の熱伝導率と白百合の吐息

白波のまるい輪郭と秘めた体温

やわらかく曖昧も紐とけない春雨

ひそかなる倖いを射止める忘れ物

掠めるだけの数センチの遠隔性よ

憂鬱の満ち引きと喉元に迫る鋭利

嬋娟せんけんが刻まれた肖像を縫いとめて

失えど憎めず、暴かれてもなお愛し

円環をなぞる指さきは青褪めていた

比喩に隠す罪悪感からは辿れない暁

花冷えに懐いもまなざしも置いてきた

目が合えば溢れてくるものと弾けた春

白い肌に爪を立て正しさを寓話にした街

人魚の髪飾りくらいの対価でも語れない

手ずから葬り去るピリオドの成れの果て

ただならぬ恋路にゃ毒を飲んでも目は醒めぬ

夜汽車から見る彗星の行き先は誰も知らない

炭酸水の底にてけぶる感情がガラクタに成りゆく

なんだって自分の持ちうるもの以上を使えない

総べても昏き穴倉でひとり朽ちていく喜劇かな

亀裂を湛えて傷づく心臓に芽吹いた雪消ゆきげの兆し

みじかい夏だけじゃ抱えきれない脚本の向こう側

ただしいことを飲み干す過程で抜け落ちていくもの

戯画的に微笑んで人差し指の羞らいも忘れてしまう

あてもなくたどる沿岸からは薄水色の気配だけがちかしい

lastup:'21.07.31 Words Palette 01・02

環指を噛む

あの瞳の綴じ方

白皙はくせき内傷ないしょう

幼稚な靴擦れ

萎れる花床かしょう

片羽かたは什器じゅうき

一滴との隔絶

まち針と恣意

錆びるぬくもり

数えない焦熱

引鉄ひきてつを溶かす

色素の標本

微睡みの切れ端

まだらな心音

灰色の蛹

稚拙な刃こぼ

正論を結ぶ

えいえんに不在

一握の醜い芥

零れたミルク

凶暴なまばたき

どしゃぶりの聲

影踏みと青

たましいの系譜

たましいの偽称

うつろいさか回り

にんげんと偽る

破片を濁す

目配せの鋭利

花茎を食む

古ぼけた矜恃

けれどまだぬる

路傍の菫

花と落丁

頬に落ちる

なみなみと白

硝子の粒子

信仰に落つ

勝手に崩れゆく

雨声さざめく

不毛を結ぶ

琥珀の繭

極彩色の病

波間に欠けゆく

天使の無声

灰白色の星

冷たい素足

凍りの火種

lastup:'21.07.17 Characters

鯨の鱗

悪たる所以

交錯する目配せ

無垢を模した羞らいを食む

深窓の匂いと何も掴めない手

輝かしい道徳ですら甘えたな傷口

ぬくもりを纏う周波数をまさぐる

花雨のまんなかで縋りつくからだ

ひかりかがやく獅子の目蓋は黄金か

37℃の焦燥と無味めいたサイレン

息絡む偶然をひとみ眇めて待っていた

胸先三寸掠めた因業に聞こえないふり

それなりの爪あとと悼ましい引掻き傷

赦されるまでひとしれず傷痕をなぞる

焦がれる果ての壊死でさえ輝いていた

肋骨を数えて散る花の息吹も暴かれたい

さめざめしい蛍光灯の囁きと夜の秘め事

機械仕掛けのサーチライトが燃えている

エメラルドグリーンの翳りをくちずさむ

不完全になり損なったにせものと影踏み

あたためられた星屑を食べても足りない

しかたがないものを集めて口ずさむ調べ

継ぎ接ぎの硬度もほどけぬエイトビート

鳴り止まない遺伝子の海と臆病な我が儘

貪婪なほころびを添えて終わらぬ催花雨

蹌踉そうろうとして彷徨う夜は罪にも背を向ける

海鳴りの都市には散らばる亡霊の影がある

わざとかけ違えた釦を一つひとつたどる指

拙さをかき消して一輪の悪夢を魅せてくれ

4分の5孤独を孕むまなざしは濡れている

お揃いの残香にあの日の熱帯夜をほどいて

おおよそすべての虚妄に値札をつけ終えた

やわらかい皮下に隠した真理が芽吹くころ

ゆうべの傷跡を燃やして天秤に指を掛ける

一度きりの花葬に洗いたての永訣を捧げよ

にせの箱庭で剥がれかけた欠落とふたりきり

霍乱かくらん目合まぐあいにはどうしようもなく抗えない

かじかんだまま薄紙を剥がす指さきを見詰める

あたらしいなぞ解きには原初の痛みもどこか甘い

むかしむかしの終末を凍てつく心臓に捧げさせて

lastup:'21.07.31 '21.07 1d1t

寄せては返す無知の罪

隘路より宣戦を告げよ

無人の円卓

無人の円卓

焦げつくばかりの正義なら

たった一つの罰を抱いていく

雨水で満ちていく階下

心もとなく傾いでいく飢え

首すじを晒してこいねがう

毎秒焼けていく呪詛

君のてのひらは熱すぎる

翼を失ってからの方が長い

最後の被写界は褪せていく赤だった

何者にもなれぬまま貴女の瞳を忘れていく

3:05 a.m. ふしだらな熱

エンドロールならさっき済ませたよ

ポラリスは掬ったスプーンから零れたんだね

きっとひるなかの一番星みたいに

夜な夜な銀色の詩篇を編んでいる

銀河の涯てまで堕ちていく

神さまのひと匙、夢灯夜

非現実にさらわれたまま帰れない

指さきで震えるような痛覚

地平線でばらばらになって戻れない

くらがりに熾す憎しみよ

テーブル上でひとりごつ幸福論

金色の夜に不幸せを演じる

正義と悪の境界線で言い訳だけが生ぬるい

なまあたたかいカタストロフィ

優しくないきらきらと忘却する虚飾

泥と砂にまみれて今夜は踊って

思慕の重さに耐えかねたまぼろし

'21.06.12 駆け抜けろよ激情のはて

たった一つの名も棄てられやしない

きわどい渦中でつめたさに触れた

焼けた単眼を湛えて傾いでいく

みぎわにぬれる踝、花が咲く

化け物には罰さえ必要ない

駆け抜けろよ激情のはて

毛羽立つ悪意さえ美しい夜

みぎてには羽の根、花を踏む

かたどる心臓を携え錆びていく

たそがれのよどみでぬくもりに掠めた

えいえんの数え方ひとつ重ならない

'21.06.09 最後の夜さえ祈らないなら

灰色の淵で跡形もない

不揃いなささやきの硬度

土に還れないまま凍りの骸

やさしく手折って帰さないで

やる瀬なき残り火に色彩を撒く

あなたが望んだ地獄を殺すひかり

さよならの温度と沈むわきまえ

七彩に架けた夢をかたちどる

最後の夜さえ祈らないなら

小夜めいた調べを掠めた

散らばる泪を掻き抱く

'21.06.08 かなしいにおいの転ぶ浴槽

紐解く獣の綴りかたも忘れてしまう

未読のまま腐っていく星食いの火

ここは粉々のまま散らばる花嵐

目まぐるしいシグナルの果て

苛烈で指さきを焦がすひと

洛陽の暮れゆく火の傍で

青をいだくあなたの五指

かなしいにおいのまろぶ浴槽

しじまを喰らう鱗の色

こんな名前じゃ還れない

はじまりの楽園にかけた橋

なまくらなナイフつつむ温度

桃いろの逆鱗をかくす手のひら

宙を游ぐままに眩いハレーション

うつくしき花冷えの朝に行方知らず

lastup:'21.06.22 Short

静謐を忘れてもなお青し

夜明け前だけが虹彩の色を知っている

揺らめく叙情と花を踏むひと

まぶたの上の憧憬

繰り返す夜々のこと

背中あわせの感傷を花の名になぞらえる

三千世界でも謳わぬ鴉よ不退転に告ぐ

裸足のうらで春を踏む

灰のなかのあやふやな暗号ひとつ

ひとつまみの砂漠でひそひそする

花鎖をたどり奈落にくだってゆく

そのめた肌に刻まれた刹那を愛す

頭上にうずまく刻限の味気なさよ

花実も宿さず枯れていく

不可視の傷痕とくちづけ

ひび割れたまま名を呼ぶ

ふたつめの地獄で待っている

燃やす双眸

不変/誰もいない終着駅

普遍/欄干の冷めた歩道橋

褪色たいしょく、やさしさの欠けたピース

鮮色、潮が満ちゆく月の通り道

苛烈をとかす瞳のゆらぎ

にせものの花に埋もれて吐息は白く

黎明、あやなす槐夢かいむをのぞむ

混ざりあう嘯笛と星の生き死に

夜明けのタフタと六ペンスの星

やわらかな棘、ほつれる秘密

未だ咲かない白とかわいた眼

うつろな呼び声で引っ掻いてくれ

羽化すればいずれ灰になる運命さだめ

終幕はひび割れた春告はるつげにて

涸れない呪いあるいは青の手のひら

ならずの森でけだものの牙をとぐ

青き泥濘で言葉だましを苛んだ

わだかまる言の葉に茨を飾る

砂上の肋骨

この世のすべてのさよならだけを集めた銀幕

花隠しの骸に口づけうつろを呑む

世界で一番美しかった八月

いびつな残り火とおぼるる福音

若きほのおを燃やす幕間まくあい

かじかむ裸足はだしで星のかけらを転がした

あなたの一番うつくしい秘密をおしえて

ほどけない靴紐をたずさえたまま

なまぬるいナイフの切先をつつむ秘色ひそく

不定のかたちを翳すささやき

抒情詩にもなれない世紀

色相環のうちがわから考える

あどけない花の嵐のうらがわで指切りする

いくつもの電子の海でひたむきな噓だけを拾う

はじけるままに満ちないエピローグ

満月の夜に呼びあう鯨のしらべ

とおく最涯てで待っている

触れたら淡くさざめく横顔

あなたの奈落で降りつもる潜性

ねむらぬ寝台列車と夜光虫

つめたいままで青ざめていく名前

銀木犀の結晶をなでるような

夕べにはこの切っ先も崩れていく

殿しんがりを羽ばたくエチュード

はじまりの焦土であの日の体温を知る

行き止まりのかなたにて遠雷

白昼夢のくちびるは青めいた

ゆるやかな終幕にくちづけ

未明には眠ったままでいたい

その双眸にそそぐ不死の塵

未だ睥睨する鴉の正体はわからないまま

今宵はたおやかなるポルターガイスト

舌先に焼けつくさよならだけ

神も掌握できない篇章

ひび割れた音だけで創る地獄

白昼に囚われて焦げつく回路

満ち欠けと戯れる告解室

天秤に指を掛ける

薄明かりに純正を縫いとめて

彗星が朽ちていく呪い

柩の完成を夢みる脈拍

凍りのかかとで拍を踏む

嗜虐をささやく鏡の向こう

うつくしさでコーティングされた嫌悪

てのひらで白けたままの顕性

夜のあいだに変容する化け物

底なしにやわらかい暗がり

雨粒にまぜてもくるしい

枯れおちたらあまねく冷めていく

右目に閉じこめる藍

引き攣れを隠す下瞼

死に傾ぐ三分間

錆びつく呪いの溶解

かじかむ陶鬱を飼い慣らして

焦げつくサファイアの瞳

分解できないいくつかの音

魂の抗体

星屑にまみれた踵

最果てへほつれていく欠落

すべての透明のための唄

さみしさを食べて肥大していく憎悪

移ろい/虚ろい そして散っていくもの

秘密をすくう環指のつめたさ

lastup:'21.06.26 '21.06 1d1t

たぶん、おそらく、もしもだけを抱いていきたい

腐爛の花園には誰も結べない

せわしない明滅とかざす理論

あんなにいびつな贄ならば

コンクリートのざわめき、届かぬ祈り

あいにく持ち合わせの憐憫はわずかしかない

終焉に囚われたまま日が暮れる

この手綱の先にはきっと天使だった何かがいる

地獄の拡声器を通った声しか信じない

垂直のまま羽をひろげて落ちていく

いまだ魂の踊りを望むしらべ

荒涼たる心ばかりが雪解けを知っている

いずれ消えるために生まれてきただけだから

君のためだけに羽化した悪夢のはじまり

快楽の回路を育てる罪と罰

星の終幕にきっとふさわしい

凍えるほど愛おしい

粉々に散り去る刻限

燃ゆるの息吹

忘れたてのシーツに横たわる

深紅の蝋がすべて落ちるまで

情けないままで息をしていてよ

濡れ羽色のまぶた

この引き金は錆びている

浅薄なうらがわが透けている

銀と黒の対比

気の遠くなるような静寂しじまが邪魔だった

すべてを拭い去る口実

硝煙でさえ色めいているのに

すべての嘘が赤ならば

lastup:'21.06.26 '21.05 1d1t

たった二つのその手さえ持て余してしまうんだね

可哀そうにって今更言われても遅いよ

僕のお下がりでよければ罪責感をあげるよ

映画の半券を後生大事に取っておくとかそういうの

気化する幸福感に雲をつかむような

好きなところ:覚えたての横文字をすぐ使いたがるところとか

埋もれてしまった星々を数える

悪夢の見方を忘れてしまったのかい

明け方四時のパレード、またやってるね

めいめい骸をならべてほらご馳走だよ

四体四臓五腑くらいの

真白にうずもれやがてNになる

黄身を割ってから食べないでよ

葉脈のように侘しみを綴る

器用に流星を飛ばした少年

エメラルドグリーンの血清

人差し指で軽く心臓を突くように

羽化を夢見て腐っていく蛹のように

あなたの心が爛れる様を見ていた

蛾の鱗粉のようにあなたを痛がらせることしか出来ない

瞬く間に浚っておしまい

盤上で運命的な出会いをした

あなたはまだ空の青さを知らない

きっと真珠色の輝きをしていたのね

マリアナ海溝みたいな軋轢に澄まし顔がお上手

君の劇薬になって息絶えたい

君のせいで言葉の切っ先が鈍っていく

少なくとも正統派は絶対に君じゃない

美しい終わりより無様な続きが欲しかった

あなたの内側をすり抜ける風になりたい

君のまなざしに色が差すとき どこかで星がひとつ生まれた

lastup:'21.06.26 '21.04 1d1t

ヒビの仮面が外せない

どうせ最後は灰になるのだから

夜明けまで吼えていろ

脳漿をゆっくり掻き混ぜるような

「Hi, Goodbye!!」銃を構える

僕の望んだエンドロール

アダムの林檎を押し込んだ

私の知らない壊れ方をやめて

目が醒めるような群青

何も知らないままの子供でいたかったと

空を切る逆さの世界にさよなら

僕の知らない僕を知っている

ボーダーレス ・デイズ

それとなく膝を揃えて右目には劣等を籠めて

逆さまのランデブーで夜を弄する

通過点を等加速度でよぎりたい

暮れなずむ泥濘に沈む明星ほし

醜さをまとって焦燥に笑わないで

渇いたフィルムからグロテスクだけを抉り取る

美しい病だけを閉じ込めておきたいよ

君のなかの宇宙を紐解く

終末こそが美しければと君が言うから

永遠に答えの出ない命題を授けよう

まなうら、アラベスクは酷く脆く

エンディングは永遠とわにやって来ないで

鉄塔の頂からのぞむ地平線は何色か

狡猾に棘を隠して彼女は遊泳する

取り除けられた人参みたいにきっと捨てられるんだね

淋しさをそっと口ずさむだけだった

涅槃ねはんにひとり置き去りにされたみたい

lastup:'21.06.26 '21.03 1d1t

憂妄に瞳をふさぐ

あなたの吐息の温度

金木犀の香りが付きまとう

飴色になった恋心が腐り落ちるまで

不甲斐ない僕の刹那的人生讃歌

君の吐く息だけ吸って生きていたい

最終回恐怖症の彼女

子供じみた願望とささやかな爪痕

塩気の足りないワンルーム

君の虹彩を濁らせてしまった、ごめんね

もう少しだけを一体何回繰り返すの

ほどける夕べの煌めき

寂寞の在処ありか

春雷に微酔ほろよい

3Dの妄想を頭の中で組み立てている

私の心臓ちゃんと飾っておいてよね

心の抽斗ひきだしに鍵かけた

科学者は僕を見て「これはもう駄目だ」と言った

シナモンをひとさじ入れたミルクティは優しさの味がする

ブランデーを少し入れたホットミルクは安らぎの味がする

六畳半のグルーミー

あたしの頭の中に住む魔物

きっと夢をパクリと一飲みにしてしまったのね

生まれた時から劣等生だったのあたし

私の心臓、仔猫を撫でるように可愛がってくださいな

この声に救いの意図はないよ

蜘蛛の糸は地獄に続いています

どぷん

君と共に永遠に在り続ける

告白の代わりに君に心電図を贈りたい

間違いを繰り返してここまで来た

lastup:'21.06.26 '21.02 1d1t

君のその双眸を殺してしまいたい

不可逆的胎内回帰

華麗なる逃亡劇

甘美なる絶対零度の吐息

白昼夢を噛む

大きくなったら天使の輪が生えてくると信じていた

あたしの何もかも奪い去って

'21.06.02 炭酸水にまつわる20題

はじける溌恋

淡く次第にほどけゆく

群青を忘れた泡沫の果て

シュワシュワ・ポルカドット

指先に残る甘い香り

やわらかく舌先を苛む

あえかに愛おしく

夏の靴音が舌を焦がす

煮崩れた潮騒

透きとおる硝子の虚

置き去りにされた夏の音色

からっぽの音が一等うつくしい

これが倖せの味かもしれないね

ぬるい甘水はベタついて僕の指を苛んだ

青春は美しい頭をかしげ僕の後ろに立っている

淡水色うすみずいろのレンズごしに僕らは碧羅へきらの天を見る

サイダーの瓶の硝子玉が世界で一番うつくしく見えたころ

しかたがないことだけ掻き集めて凍てつく冬の朝を懐かしんだ

仔猫のまえあしみたいに、愛らしくたわむれないで

泡色の街をぼくは目をつむったまま行き過ぎたい

lastup:'21.05.31 Characters

銀星詩

死想記

至る夏

去ぬ冬

夏化粧

水樹晶

法螺舟

牡丹帯

嫌気睡

消燈月

渡し橋

角夜香

踊る爪

捧ぐ色

溶解色

聲の死

山鳴り

王の死

水銀灯

厄日紀

騒ぐ手

雪の轍

硝子の涙

星を紡ぐ

氷樹の星

死の門番

紅をさす

八月の牙

蠍座の炎

魂の介在

黎明流星

輪転徽章

硝煙の先

星の寿命

遍く原始

雪花瑠璃

機微遊戯

心象三態

幽世憂虞

私信偏愛

進路融解

曇る象牙

凍りのつるぎ

忘却の園

Nの遍在

蛹の深淵

眠りの殿

惑いの生

宵闇迫る

夢の狭間

渚に遊ぶ

泡色の街

白線を踏む

魂のつま先

軽骨が鳴る

明星の寿命

奇術師の手

花氷を織る

破線の切手

白線上の波

双頭の背中

俎上の献身

静寂の幻影

開かずの門

つま先の闇

燃え盛る罰

犬吠え大義

Nを指す森

減らぬ残基

白痕に差す

砂礫の桎梏

揺らぐ肌質きじ

去ぬる明星ほし

艶めく汚点

偽りの真明

揺らぐ照応

下界の肉声

春暁に飽く

晩餐者たち

そばだつ恣意性

創をつくる

花海の末裔

片翼の楽園

かしずく暁

真っ白な嘘

海辺の誘惑

人斬りの美学

綿々たる血脈

タナトスの踵

暗鳴する輪廻

もたげる猜疑

烟る喧噪の目

成層圏に告ぐ

鈍足最終列車

冬の首を曝せ

果敢なき演算

醜さをつつむ

うそぶく淡い

晩霜に名乗る

破鏡に満ちる

ひそかに倦む

届かない祈り

一片のミルク

展翅板の思想

水無川を泳ぐ

異能の純文学

人殺しの定理

右頬の無秩序

虹かかる渓谷

境界なき肉塊

孵化する悪意

仮称、艶めく

神聖さの抽出

裁きの夜更け

瞬間のすべて

不揃いな比翼

通じ合う右手

尾を噛み合う

けだるい体温

隘路より告ぐ

みだらな横顔

俎上の謎解き

肉薄の三秒間

めざめの寝息

涙色に溶けて

海に沈む星々

宵色に染まる

頸椎をたどる指

土星の知恵の輪

嘯く夜の呼び方

シーツの海鳴り

夜毎にひしめく

たまゆらの水泡

研ぎ澄ます美学

化石に肉づけよ

まつられる奇譚

射止める発火点

あかつきを呑む

透明な吐息だけ

ひたむきな略奪

立ちすくむ灯台

赤銅いろの純真

右心室の焼き印

燐光のしつけ糸

マルクスの眷属

拝啓墓の底より

油をそそぐ饒舌

左心房の展開図

ニコラスの饗宴

光芒を射止める

はしたない裸足

細胞に宿る記憶

72時間の攻防

なまくらな盲目

四隅に宿る宇宙

定まらない薬指

心臓に芽吹く蝶

縷々として黎明

空白を埋める白

昔日に火を灯す

地獄まで道連れ

エメラルド都市

水面みなもに焦がれて

砕け散る星の音色

知らないくちづけ

隔壁に火をつける

洗い流せない呪い

晒せないメダイユ

たましいの黄金比

がらんどうの水槽

誰もしらない細部

明けない夜の構造

追憶と妄想の境界

やがて重なる鼓動

まだらに響く琥珀

もう燈らない灯台

さすらいの花屋敷

初めから黒でいい

麝香猫の揺りかご

しるしをください

永遠に醒めない病

繰り返す夜々の話

翠の眼の化けもの

かじかむ人差し指

ためらうくちづけ

ひと口で平らげた

てのひらの星くず

たった五分の贖い

背中合わせの孤独

灰色に紅を垂らす

南より便りふたつ

スクランブル憂鬱

ラズベリーソルベ

綱渡りのカノープス

結末には肉片になる

抱えきれない着火点

ねむれない夜のこと

やがて消えゆく水滴

不死の瞳は翡翠いろ

今は思い出せぬ痛み

未明にゆらぐ廃都市

栄華の褪せた展示室

地獄まで続く薔薇園

ゆくてには愛がある

二度と還らない救済

今日は鱗粉が降る夜

埋まらない数センチ

枯れおちた花に祈る

ふたり分のしがらみ

劣等をほしいままに

あなたの名前の神秘

呼気をたしかめる掌

神さまでさえ祈る夜

連なる夜の波間より

展翅板に刻を留める

灰色の百合を燃やせ

君しか知らない鼓動

にせものの嘘は何色

きみの獣性をあいす

雨のやわらぐ夢の跡

みずからの牙を折る

失くした右目が痛む

君の影に棲まう面影

波止場、物憂い夜半よわ

踏青とうせいをふちどる創あと

歳月をって月とする

無貌の楽園で夜に遊べ

かつて天使だった肉片

やわい爪で傷付けたい

パーマネント・ブルー

この両手にはあり余る

散々かき回しておいて

もとより奪われた異心

浅き眩暈に沈んでいく

あなたに夏を奪われた

右頬に刻まれた喪失感

一寸の闇を嗅ぎ分ける

自ら掘った穴に埋まる

レディ・メイドの憂鬱

コバルトブルーの祈り

誰よりも愛おしい贋作

凪いだままで涙が出る

累々と満ちていく絶望

月の扉は開いているか

やわいままで夢を見る

神の涙が凍土をとかす

夜がもつれて朝になる

烟る狂騒に吼えていけ

蝶々結びに名を連ねる

儚いと烙印を押される

残り香の推移をたどる

夜の息吹に鴉がとまる

一昨日のほむらをいだ

藍青らんせいをやどす神の吐息

末路まで呪われた安寧

今夜ばかりは傍にいて

さくらは青い夢をみる

野辺の草花より烈しい

地獄の月はいつも円い

肉体の介在を恐れる夜

背中の裂傷に口づける

あなたの眼差しが怖い

耳をすます潮騒のおと

輪郭のやわらぐ傷あと

この結晶には棘がある

まるまると肥えた欲望

わたしの喉もとの硬骨

つめたい指さきの記憶

秘密めいた指先あそび

世界をまたぐ鬼ごっこ

ラッキーセブンスター

明日24時に待っていて

夜の結び目にくちづけた

棘だらけの耳たぶ携えて

炭酸の抜けたような声音

月の潮を泳いでいきたい

迷えるたましいの染色体

消耗品の名など呼べない

ここには思考も花もない

あなたと私の最大公約数

結ばれぬまま散っていく

形容できない七つのおと

かつて抒情詩だった世界

不夜にしか居場所がない

サファイアを縫いとめる

明日は闇に色めいていく

いびつな春を縫いとめる

なんにもなれないひかり

季節の淵より鈴を鳴らす

今日は右頬が欠けている

やがては無名の化けもの

幾星霜、漕ぎゆくままの

二度とは満ちない可換体

しらじらと明けていく夜

海鳴りさえ白けていく街

欠けゆく右手のシグナル

あと一粒の痛みしかない

名もなき朝と夜の腑分け

いびつな夢に鍵をかける

黄金のゆめに蜜をかけて

累月のたもとより紐解く

魂の三分の一をください

ほろほろと煮崩れる諦念

名も知らぬ花が賛美する

明日のためのエチュード

剥落する天使だった記憶

やわらぐ薬指に毒を刺す

あるいは遠い創造の記憶

この泥濘で傷を舐め合う

あなたの汚いうつくしさ

彼はやわらぐ夜の支配者

指先をあなた色に染めて

毒舌的エクスペリエンス

天使になれない肉塊のこと

怪物をねむらせてしまう毒

夜の閑静をひとみに刻もう

神さまの血潮は透明らしい

ぼくの真名は誰もしらない

まばたきひとつで殺す精神

錆びゆく明日を憂いてみよ

居場所をなくした心の在処

白でも黒でも生きられない

ペトリコールを引き連れて

たましいの輝きごとの啓示

ほんの靴先のディストピア

正気のまま置いて行かれた

冴え冴えした瑠璃を摘まむ

ちだまりに沈む明日の明星

ただよう孤舟が涙でみちる

うちがわから透けている嘘

わたしを構築する五つの欲

まぶたに宿るひかりの粒子

たましいは再生不可のもの

春雷に撃たれて真名を戴く

船着き場には私の席がない

クローゼットに満たす安堵

てんしさまも夜はねむたい

隘路には諦めが満ちている

憶えていよう灰になるまで

ぼくの血潮には火がやどる

君のために永遠になりたい

君の落としてしまった記憶

この祈りは月まで届かない

もう思い出せないかの名前

電子レンジで温めた言の葉

この謎かけは空っぽのまま

不平等な明日を駆けていく

この街に沈む夕陽は正しい

新しい明日を盗んでしまえ

いばらの冠をあげましょう

残り火に腕を翳して彩った

オフィーリアと余暇の微睡

水溶性の静謐を綴じこめる瞳

死の国の王座は千年空のまま

あなたの瞼に青が透けていた

濃紫の国では陽はのぼらない

夜溜まりでは吐息は凍らない

あなたの醜い切っ先を愛そう

この終幕は残酷だから美しい

しょせんは泥から生まれた子

心臓にルージュで別離を綴る

ひび割れた体躯を引きずって

ぐらぐらしながら生きている

かたちのないまま死んでいく

あなたの言の葉をかがり縫う

紙を泳ぎ文字を食べるさかな

あなたの呼気に降りつもる海

飽き性なかみさまが創った星

海底にあしあとを残していけ

昨日に刻まれたままの消失点

儚いまま散っていくよろこび

エメラルドの羽はひどく脆い

メロウなダンスじゃ踊れない

舞い散る灰を編んで夜にした

肋骨のかけらから春が芽吹く

透きとおる最果てに届きそう

とどめなく痛みが引き攣れる

捨て台詞が喉仏にこだまする

たましいの縫合あとは何色か

八月の記憶ばかりを忍ばせた

眠れる街に深々と気配が降る

はじまりの泥濘にて、幕開け

夜明けを飼っている眼裏にて

魂のじっとしていられない夜

残響さえ昨日を憶えていない

未明の波打ち際に忘れてきた

明日の感傷は檸檬色のひかり

君の忘れてしまった花の名前

ピジョン・ブラッドの類似品

紺青だけを食んで眠りにつく

曇りないまなこで謎をかける

彷徨ううちに今日を失くした

つま先ではらわたに線を引く

この夜に惑ったまま帰れない

お前の燃える瞳を星にしたい

からっぽの匣で熟れていく時間

眦にこびり付いてきらめく純情

黄金の果実を夢みる明日の泡沫

夜の嗚咽は誰がなぐさめるのか

この泥濘はひどく生ぬるいから

ケルキスの錨はくちづけで眠る

ガラス張りの心室にかがやく紅

ちょっと窮屈な窓枠に腰かけて

心臓に埋める造花を選びなさい

フラスコの底から結末を考える

ここは限りなく透明な円環の上

あなたには決して届かない咆哮

あまりにも淋しいゆくえ知らず

三センチくらい浮いているひと

誰にも知られず腐っていく楽園

季節の境目には星が流れてくる

幸福は箱のなかで熟れていくか

けものみちを通って異形になる

あなたの哀しみを匿ってあげる

あなたを埋める穴を掘っている

月の見えない夜は惑ってしまう

ぼくの心臓には蔦が絡んでいる

虚実の放つひかりはひどく弱い

あなたの嘘は赤銅色のまま沈む

飛べた頃の記憶を刈り取られた

仕方がないものだけを愛でる指

何ひとつ正しさなど知らぬまま

額に葉っぱを乗せて生きている

今宵の秘密にはいまだ手つかず

フリックひとつで消される存在

あなたの瞳に混じるジャムの色

檸檬が爆弾なら林檎は何だろう

白地図はめざめないまま今を失う

青い波のまにまに彼のおもかげを見る

天使の死骸は凍ってしまうらしい

死の国でも一緒になれないらしい

月光を浴びてただれていく六員環

満ち足りたかったみずうみのこと

原始の記憶をひとみに宿したまま

一錠分のやさしささえ欠けている

不器用なナイフ遣いで切り分けて

あなたの眦に宿る理由を知りたい

ことばを食べても空腹は満ちない

地獄には月が二つあるって本当?

俎上で裁かれるときを待っている

あなたの心臓にラベルをげよう

胸の裡に花弁を携え祈りを捧げよ

夜を揺らしてしまう星のざわめき

かたく結んだ靴紐はもつれたまま

月の満ち欠けとともに膨らむもの

無色透明のまま形を失っていくもの

あなたのくびすじに飼い慣らす無垢

とめどないシナプスの銀河で踊って

しんしんと降りつもる詩篇のかたち

未熟な真理をいたぶって刹那に踊る

春の嵐がすべてを浚ってしまうこと

ゆびさきの甘い痺れを遊ばせていく

眠れ、たましいの咆哮を打ち捨てて

陳腐な結末にはくちづけがお似合い

無謬むびゅうの色あいを祈りと名付けていた

痛がりな私の皮膚は一等やわらかい

祈りのミルクは琥珀いろをしている

食べごろに棄ておくなんて人でなし

あなたの言葉の残滓を抱いてねむる

ぼくの地獄に天使は讃歌をうたうか

これは名前を持たない五線譜の呪い

屑かごは四角く余った思考の行く末

ばらばらの嘘に混ぜても重ならない

君のたましいの有限性を紐解くために

真珠のような孤独を君の瞳に見つけた

あえかなのこり火呑み込んで灰に帰す

やわらかな棘を懐いて彼女の夢を殺す

あなたの心の凍土に淡紫のばらを捧ぐ

かつての貴方のなきがらを掻き抱いて

拝火をいだき虚栄を燃やせ異端どもよ

決して冷めない微熱を携えて夜に踊る

うつわを満たす薄明の花びらをほどく

あなたの黒いひつぎを百合で満たそう

天の川で一番うつくしい星をください

薔薇だけを食めば天使になれるらしい

はじめから三角にうまれ落ちたかった

わたしの知らないわたしを飼っている

かつてこの国を満たしていた花片たち

黄金の火にみちてかの夜を越えていけ

あなたに初めて呼吸の仕方を教わった

水溶性の哀しみに砂糖を混ぜてみたら

無涯むがいをわたる足跡は煮崩れた月光のよう

すべらかな穢れ携え胸の虚に耳を傾けよ

せいひつだけを閉じこめた森に棲みたい

希釈したところで愛の重さは変わらない

でたらめなところに口づけて咽いでいる

星座のまなざしは三十五度に傾いでいる

ありあまる言葉ばかりが捨てられていく

すべての始まりが一縷のひかりだったなら

濁世の裏側で倦んでいくふたりぶんの祈り

どうしようもなく輝き方を忘れた星の末路

縫合した夜を焦がして不埒な色彩と戯れる

あなたの告げるさよならが最もうつくしい

寂滅にふたりきりならきっと生きてゆける

土星の輪をくさびのように繋いでしまった

この庭の土にはあなたの骸が埋まっている

ふたしかな泥濘で裸のかかとが冷たかった

原始、ひかりの国とやみの国がありました

何処までたどってもこの地獄はふたりきり

君に捧ぐ言葉はすべて終着駅に置いてきた

かたく閉ざされた楽園は取りつく島もない

土曜日は暮れ落ちゆく陽の中で人待ちする

バラの花びらだけを食べて生きていきたい

君が夜を匿うなら僕は夜明けの埋火うずめびを愛そう

時と雨と勿忘草を編んだ炎色をまぶたに飾る

倦んでいく夏の狭間に君のまぼろしを忘れた

引掻き傷にこれっぽっちの無垢を飼い慣らす

あなたの視線が標本室のひかりと混ざりあう

この夜をつくる因子をすべて食べてしまおう

とめどなく溢れていく絶望にこころ奪われた

みずからを死とは知らずに生まれてくるもの

宝石は夜に生まれ、そして未明に死んでいく

朝と夜のコラージュから生まれるひかりの惑い

シーツの海を泳いで銀色の海ぞこで真珠を拾う

くらやみのヴェールを被ってお祈りしましょう

ぬるい夢も醒めてしまって何処にも行けないな

冴えたる月光を編んで真夜中のヴェールにしよう

あなたの21 gの容れ物がなぜかこんなに愛おしい

ろくでなしばかりが生命の輝かせ方を知っている

独りぼっちの昨日よりふたりぼっちの今日がいい

紺青を漕ぎゆく方舟はこぶねのその行く末を暗ずるまじない

たしかにあの夜、僕はゆうれいとシガレットキスをした

脆くひびわれた体躯を引きずって生きても死んでもいない

永遠の残す爪痕はきっと透明だからひと目には分からない

'21.05.25 甘酸っぱい54題

約束/この先何年経っても、あなたの変わらぬ道標になれたなら。
シロツメクサの花冠をこっそり飾ると、驚き顔で振り向いて「⋯⋯ありがとう」とはにかむ。

砂の城/まるで少年のようにはしゃぎ合う。
二人でトンネルを掘っていると、温かい体温に突き当たったのでぎゅっと握り返す。

満天/美しいものや楽しいことは真っ先に見せてやりたい。
キャリーケースを引き摺りながら夜空を見上げていると「危ないよ」と笑んだ声で言われた。

ホットミルク/平凡で温かみある日常を愛おしく思う。
似ている動物を聞いてみると、思案顔の後に「猫かな」と目を細めて笑う。

沈丁花/河川敷を抜ける風が声を攫ってしまう。
乱れた髪を正そうとすると、横から伸びてきた手がそっと耳に掛けて離れた。

銀木犀/あなたとの様々な初めてを覚えていたい。
初恋は叶わないと言うけれど、例外もあるのだといつか伝えたらどんな顔をするだろう。

朝焼け/あいつの輪郭を柔い光がなぞっていく。
コップ一杯の水を片手に、穏やかな寝顔を眺めるこの時は「世界で二人きりでいい」などと陳腐な台詞さえ言えそうだ。

花瓶/形あるものはいずれ壊れてしまう。
いつか離れるような運命であっても、見えない引力で惹き合う二人であれと願う。

木枯らし/言語化できない感情が増えることを嬉しく思う。
もたもたと魚の骨に苦戦していると「ん」と差し出される手に、甘やかされているなぁと擽ったくなる。

初恋/極彩色の光に掌をかざしてみる。
横顔ばかり見ていると「バレてるよ」と口パクされ、恥ずかしくなって俯いた。

ポラリス/僕らが居なくても世界は回っていくけれど。
拙くても、使い古されていても、愛を叫びたい瞬間があるのだ。

肉まん/わざと遠回りして家路をたどる。
一歩一歩脚を投げ出すような歩き方をしていると「何やってんの」と呆れたような声音で笑われる。

共同作業/手先に見惚れていると「手止まってるよ」と促される。
水っぽいパスタを「⋯⋯下手くそ」と柔く笑われながら完食する。

花火/隣りにいられる幸せを噛み締める。
空を見上げたまま偶然触れた小指を絡ませると、照れ臭くて同時に吹き出した。

指先/二人きりの思い出を積み重ねていく。
財布の底でくしゃくしゃになったレシートを引っ張り出すと、大昔一緒に食べた事が懐かしく、思わず見せに行く。

真夜中/ささやかな我儘を愛おしく思う。
均等な半分こに失敗すると「⋯⋯大きい方食べてもいいよね?」と無邪気に笑う。

サイダー/春は別れと出会いの季節だ。
人は声から忘れていくと言うので、飽くことなく他愛ない会話を慈しみたい。

以心伝心/ちょっと抜けている所も好き。
今考えてる事当ててやる」と意気込むのに乗ってみると、頓珍漢な回答をするので「よく分かったね」と頭を撫でる。

白い息/まっさらに生まれ変わっても再びあなたと恋がしたい。
整理整頓を手伝ってもらうと「物を捨てたって記憶がなくなる訳じゃない」と的外れな慰めをされ、思わず抱き着く。

宝石/虹彩の色合いを飽くことなく眺めていたい。
瞳や唇、手指の形一つとして同じ部分はないのだけれど、それが愛おしくて少しだけ切ない。

逃避行/新しい街に着いたら何をしようと楽しげに言う。
寂しくなるねと尋ねると、少し考えてから「独りじゃないからいい」と微笑まれ、汗を握った拳を緩めた。

絆創膏/壊れ物を扱うような触れ方は面映ゆい。
注意を怠り鍋から火を吹かせたのに、叱られるより先に「怪我はないか」と案じられ胸が締め付けられる。

ちよこれいと/買い物袋をプラプラさせて並んで歩く。
近所の階段に差し掛かり、小さい頃はじゃんけんで遊ばなかった? と懐かしんでいると「やる?」と悪戯っぽく聞かれる。

レモネード/天気予報によると夜から雨脚が強まるらしい。
何でもない風を装って雨宿りに誘うと「傘忘れたから」と逸される視線、鞄からチラリと覘く折り畳み傘。

青い春/CDショップで新曲をチェックする。
ヘッドホンを着けてやり「どう?」口パクすると頷くので、音量つまみを行ったり来たり悪戯すると、笑いながら肩を叩かれる。

クリスマス/限定のフラペ○ーノはかなり甘い。
怪しまれないようプレゼントの希望を探るため、タイミングを伺っていると「多分同じこと考えてる」と耳打ちされる。

半分こ/久々に二人で休日を過ごす。
部屋を片付けたらジェンガが出てきたので、負けた方がアイスクリームを奢ると決めて本気で遊ぶ。

メロンソーダ/喫茶店で珈琲を注文する。
甘いものは苦手だけれど、相手が好きなものが気になってひと口貰うと、やはり少しだけ顔を顰めてしまう。

テスト明け/ショッピングモールをぶらぶらと見て回る。
「眼鏡が絶対に似合う」と言うので見繕ってもらったフレームを試してみると、満足気な笑顔で頷く。

マフラー/突然遠出したくなって誘ってみる。
2月の海はまだまだ寒いが、風に煽られながら砂浜を裸足で歩いてみる。

初雪/どんな場所でも空は繋がっているなどと陳腐な台詞を思い出す。
夜になると雪が降り始めたので、何となく声が聞きたくなって、窓越しに眺めながら電話する。

温もり/泊まっていけば? と久しぶりに誘われた。
最寄りの一つ手前で電車を降り、手土産のビールを買い、思わず弛んでしまう顔をどうにかしなくては、とのんびり歩く。

春一番/貴方のくれる水を吸って生きたい。
生まれ変わったら何になりたい?と聞かれ、アオスジアゲハと答えると、何だそのチョイスと優しく笑う。

雨上がり/片耳ずつ音楽を共有する。
上機嫌の鼻歌が聴こえるので「いい事あった?」と聞くと「新曲がかなり良くて⋯⋯」とイヤホンを引っ張り出す姿が微笑ましい。

キャンパスノート/一緒にいる口実を探してしまう。
集めた課題を職員室まで運ぶから手伝って欲しい、と伝えると一瞬だけ驚き、破顔して頷く。

新緑/木洩れ日を受けた白いカーテンが風をはらむ
ノートの切れ端を回して絵しりとりに夢中になっていると、いつの間にか傍に立っていた先生に二人して叱られる。

扇風機/氷で冷やした素麺が美味しい季節になった。
麺を茹でながらふと見ると、まな板を使うのを面倒がって掌でトマトを串切りしているので、思わず吹き出してしまう。

照れ性/人差し指で両眉を下げてみせる。
何その顔と聞くと「困った時のお前の真似」と揶揄われたので、指で口角を上げ「俺といる時のお前」と言うと口をぱくぱくして赤面する。

十五夜/団子もススキもない月見酒をする。
月に一つだけ持っていけるとしたら何にする? と聞かれ、咄嗟にお前と答えそうになり、それはあまりに恥ずかしいので適当に誤魔化す。

練習/さくらんぼのヘタを蝶結びできる奴はキスが上手いという話を思い出す。
やってみると全然駄目で、二人並んで真面目にモゴモゴしているのが段々可笑しくなってくる。

ホットコーヒー/遠慮がちに家においでよと誘われる。
好きな匂いに包まれていると、秘かな緊張で凝った身体が少し和らぐ。

夜風/会えたことが嬉しくて話が尽きない。
自分の話ばかりしている事に気付き、ふと口を噤むと「続きは?」と柔く微笑まれ、心臓のあたりがきゅうと切なくなる。

桜並木/並んで歩くのが照れ臭いのか半歩前を行く。
靴紐が解けたので「後で追い付く」と告げて結び終えると、こちらを見守っていた顔が思いのほか優しく、咄嗟の言葉に詰まる。

朧月/深夜ほど食欲が増す。
コンビニ行くから着いて来いと言われたので、揶揄うつもりで「デートのお誘いですか?」と聞くと「そのつもりですが?」と返され思わず照れる。

赤ワイン/テレビで世界の観光地特集をやっていた。
旅行するなら何処へ行きたいかという話になり、人気の台湾もいいしヨーロッパも捨て難い、などとあれこれ想像する。

蝉時雨/炭酸が苦手だと明かすと目を丸くする。
「慣れると癖になるんだけどなぁ」と美味しそうに飲むので、思わず一口貰うと弾ける泡が舌を焼く。

イチョウ/見るとはなしに水筋を見下ろす。
欄干の上で組んだ腕に顔を埋めていると「はい」とだけ言って飲みかけの缶コーヒーを手渡され、そのまま交互に飲む。

ベンチ/二人して終点まで寝過ごしてしまう。
コンポタとお汁粉の缶をそれぞれ買って回し飲み、口の中がカーニバル! と笑っているうちに、体がぽかぽかしてくる。

キッチン/ゆっくりと熟れる時間を両手で包めたなら。
座ってれば?と促すと首を振り、カウンターに並べたアボカドを興味ありげに指で弾いている様を、微笑ましい思いで見守る。

微睡み/ソファに並んで座り、借りてきた映画を再生する。
いつの間にか寝落ちていたことに気付くが、寄り掛かる体温が心地いいので寝たふりを続けると、優しく髪を梳かれる。

好き嫌い/カウンター席しか空いておらず並んで座った。
無言で伸びてきた手が、苦手らしい茄子をせっせと皿へ運んでくるのを、文句を言いつつ嬉しく思う。

ギブス/怪我にかこつけて甘えてみる。
病人は大人しくしてな、と世話を焼かれて喜んでいると、理由がなくても甘えていいのに、と優しい口調でねだられる。

背中合わせ/刑事ドラマを一緒に見る。
もし俺が道を外れるような事をし出したら? と尋ねると「殴ってでも連れ帰る」と食い気味に言われ、自分の居場所を見つけた気がする。

ラッキーアイテム/朝からツイてないこと続きだ。
軒下で曇天を睨んでいると、よければ入ってく? と傘を差し出され、喜びと気恥ずかしさとがない交ぜになる。

lastup:'21.05.24 Short

あなたに口づける災いがありますように

うららかな浸水

怜悧さを月に忘れる

ざらざらの物語のまま

遠ざかる此岸の匂い

月蝕に憂う潮の満ち欠け

薫る恒星の狭間で

白濁の月を均す

皮下に刻む個体番号

わたしの胸に潜む異形

おぼつかない断絶、くずれていく

星と砂の可塑性をほどく裸の足

ただ眦をなぞるだけでいい

虹彩を思い出せないまなざし

この永遠の行く先を綴る

ねむたげな春をそそ

淡い明滅をゆるす

蜃気楼をかざす

はばたきの理論

あなたのいる地獄は博愛に欠くか

車窓に閉じこめた不夜の街

液化していく神話性

ざらつく悪意の隔壁

甘やかな不詳を飲みこんでいく

この世の地獄にまみれていく

まどろむ春の魔物

ばらばらの劣情は約分できない

獣性を殺してはいけない

まだ途上の半貴石がさんざめく

さりとて得難い思い出でもない

未明の裂け目にわだかまる

一等いびつでありたかった

機能不全のやさしさを未だ抱えたまま

まだ さいわいに会えていないのに

とどめを刺せない、贋物だから

一世紀忘れ去られた凍原

ちょっと窮屈な退化

混じりけのない黒曜のよどみ

こんなに冷たい幕間まくあいなら

死神ほど脆い気配はない

凍ったまま褪せていく季節

赤と黒のあわいに宿る腐食

あまねくふぞろいな喪失

ひたむきな悪夢をあげよう

壊れるままに青を宿していく

欠けたままのピースを飼っている

やさしさを取り零す片割れ

蒼茫とした災い

やがて死にゆく粒子の呪い

夕べのまどろみを熾す

虚栄の深度をはかる

不知火しらぬいから抽出するひかり

うつくしいものだけを真実にしていたい

醒めゆく夢のまたたき

燃え盛る天使を凝視みつめていた

傷口に活ける槿花きんか

さめざめとやわらかな嘘

まぼろしの剥片

翡翠を溶かした泡となる

決して壊れぬ言の葉

眩しさを忘れた黎明期

交じりあう星色の哲学

いさり火を食べてたゆたう

すべてを間違えてたどる子午線

欠けゆくエメラルドの塑造

白めき燃え滓になっていく

一挙手一投足にゆれる心

彩りを忘れ またたきを食む

不完全しか踊れぬパレード

緩衝液にとけゆく昔日

天国にも地獄にもなれない深淵

やがて失いゆく現世うつしよの彩度

死者の悲しみの証明

花冷えの朝にいだく凍土

またたきの隙間に散って精彩を欠く

何万年も失い続ける普遍

暗やみの温度に捧ぐ色あい

無知の軋轢に軋むこころ

繰り返す夜の願いでつくる結晶

星の火から紡ぐ代償

知らぬ間にくすんでいく明日

凍りの残り火

苛烈さを閉じ込めるひかり

しららかな不透明

正しさを失う砂礫にて三時

にせものの標石を落としていく

叶わないねがいだけでできた鎖

きみだけが知る楽園のありか

劣等、さざめき、紫水晶

かじかむ孤独の息づく処

やまない花嵐の渦中

月と花の揺りかご

しるしに惑う星鏡

不可視のひかりを織りなす不変

白々と添えない模倣

空白をささやく赤色

色を失う夜明けと光度

陰影の萌すさいはて

こわれた心の交点

飽和して散り散りになる運命さだめ

プルシアンブルーのくじら

えいえんの可塑性について考える

やがて朽ちゆく楽園のさが

終わらぬ春の創世記

芽吹かぬ種中の化学反応

水底みなぞこに沈む午後の書架

車窓に揺らめくあま色の月

あなたの呼気につづく花園

自由落下の恋情についての考察

羊群の夢遊病者

誰にも知られずひっそりと青褪めていく

この終幕は置き去りのまま何もない

憧憬に結ばれし旋律

いつかの奇譚に忘れ去られていく

消えない傷をつつむ花片

亡者だけが欲するひとしずく

傷痕の残る運命さだめには

不死だけが知る体温

ほんの数千年で収束していく一瞬

花に埋もれて死ぬ春の常夜

lastup:'21.05.12 Short

花茎を食む唇のいろ

引き攣れを包み込むひかり

赦しと罪状の落下速度

冷たい砂漠で惑う

えいえんを捧げる半夏生はんげしょう

樹氷の梢に いたましげに宿る静けさのかさ

闇の中に沈殿する音の重なり

海ぞこのように青々と透き通る標本室

いまだ神の粘土をその身に宿したまま

ためらいがちに歩みをとめた青い春を振り返る

わたしの静脈には死への羨望が流れている

ブルービロード・コースト

転輪上のマリア

乾涸びた金魚みたいに哀らしく

こんなにさびしい箱庭なら地獄がよかった

終着駅に忘れてきた言の葉

すり減りながら生きている僕らのこと

わたしの銀河は六ペンスの輝き

上手に口にできない七つのおと

きっと真夏とはぐれてしまったんだね

虫食いだらけの尾を引く流星

薄氷だけを食べて息づく詩篇

インスタント・ノスタルジィ

錆びれた心根を紡ぐ

二重露光の夜を縫いとめる

越冬すれど芽吹かず

枯れおちた恋心を手向けようか

終わりを予感した箱庭の夏

貴方のまたたきの色を教えて

泣くときまで崇高さを失わないなんて可哀想

星屑を拾う匙は消えてしまったらしい

形而上に宿る瑕疵かし

水溶性の心の破片が溶けのこる

鮮血の弾丸で撃ち抜いて

芥蒂かいたいは塵となりて

夜明けの名残りの腑分け

セピア色の明晰夢が実る

縺れて縋って独りきり

胡桃の殻みたいに硬い音を奏でるね

あなたに凭れて午睡に浸りたい

ソーダフロートひと掬いだけの甘さ

ここはあなたの選んだ断頭台

腐り落ちてもなお枯れて 誰にも悟られず燃え尽きていく

天使が落とした琥珀糖が流れ星なのね

あなたの言葉の輪郭に触れたい

踏みつけてもなお固く閉ざされて

翠雨に濡れし徒花のぐずついた眼差し

あなたがぼんやりしている合間に枯れてしまったよ

こんがり黄金色の虚栄心

万華鏡の向こう側の世界は逆さまか

三日も止まない五月雨と残留思念

濡れそぼつ墓標にハイドランジア

やさしさの原材料

夜の縫い目にそっと星屑を忍ばせる

花実も宿らない幾つかの過ち

夜と朝の隔壁に耳を澄ます

神さまも午睡の時間

つつましい瞬きの隙間

いびつな運命論を弄さないで

君の水晶体が最もうつくしい

口にする度色褪せていくもの

瞼の裏の暗やみ

午前三時、汽笛が鳴る

天使の輪が蛍光灯なんて知らなかった

あなたの腕の引力

夢の跡がまなじりに残る

彼の岸で鐘のは鳴るか

いつか君の声を思い出せなくその日まで

死滅回遊魚みたいに晩夏を生きたかった

一週間で消えてしまう引っかき傷なら

息継ぎが一等下手くそなんだね

冷たい指先を握らせて

偶像を後生大事に抱えてしまう人

人でなしなんて詰れたら良かったのにね

君の体温と同じ温度を探している

割れ物みたいに触れなくたって壊れないのに

孤独のない国では皆んな孤独

青の縁どりで蠱惑が色づく

季節がひと巡りするまで擦れないで

整うまで崩していて

灰色の空の続く先にあなたがいる

きっと戒めを忘れた人だから

心臓の滲む音を聴きとって

聖者に口なし

無貌のセレナーデ

なまくらな幸せを消費していくだけ

ぼくの中で泡になっていった紫水晶アメジストの言葉たち

置き去りにされた地獄より

ダンボール一箱分の幻想

崩れ去る明日をただ見ていた

何も生まれない楽園

最果てより汝を呼べり

冴えかかる銅鉄色の光で手袋を編む

あの河川敷で食べたポトフほど美味しいものを知らない

すみっこで起こるアポトーシス

消せないペンで名前を書いておいてね

いたづく太陽/稚拙な月

ためらいがちな救い

ささやかな創世

さんざめく虚像

稚拙なさよならが痛々しかった

寒さを理由にしても良いのなら

いびつな脈拍を手にとって

ひび入りの幸せをまだ捨てないで

独りよがりの虚構、犯行声明文

エントロピーの増大に任せてぐちゃぐちゃになっていく

永久凍土に閉ざされた夢

願い事の重さに耐えかねた星

無痛の苦しみを教えてあげる

排水溝に消えていったノイズたち

お伽噺よりロマンチックにエンディング

累月、白と翡翠のミルフィーユ

僕の恋は輝度マイナス120カンデラ

あなたがあなたでない世界

君の傷口に爪をたてる

腐敗臭の漂うこの恋に

神さまが留守の間に

有刺鉄線の向こうから差し出された手のひら

君への呪いを白い皿の上へ

優しい世界の絵空事

寂しさを全ての理由にしてしまいたいよ

奈落の底で孤独を分け合っている

そうして全てが黒になる

シナリオ通りなんてつまらないわ

月光の届かない深さまで

天使の輪を落としてきた

さよならは殊更ゆっくり言ってね

今は砂まみれの翼で飛びたい

君なしのロマンス・ストーリー

いずれ腐り落ちる花の盛り

銀貨六枚分の幸福

瞬きよりも早く落涙より遅く

40デニールくらいの強さの繋がり

逆さまの空をカラフルな傘が覆ってしまうよ

目を閉じているから手を引いて

なりそこないばかりが集う街

月になれないなら星のようなものになりたい

何もかも遅すぎた夜明けが来る

存分に狂っていこうぜ

死者の国が見つからない

錆びたカトラリーで掬う冷めた安らぎ

カラスの群がる肉塊に成り果てたくはない

揺りかごから墓場までが遠すぎる

猫の額で構わないから関心が欲しい

明滅するはミラーボールの心臓

かがり縫いで幸せを縫いつないで

君の言葉は難しすぎる、必要なたった二文字も言えないくせにね

歯形つきの言葉

雪でさえ腐敗を止められない

霜焼けみたいに貴方を蝕む痛みになりたい

夜と昼の哲学

皮下にひそむ悪意

春の海には海豚の祈りが満ちている

こんなに美しい青なのに

ここには黒い屍も白い墓もない

曇天に呪うあなたの不幸

死の揺りかごは天蓋つきらしい

寂しい嘘しかつけないひと

此処ではない何処かのこと

せめてもの子守唄が夜更けをやさしく包むとき

焦土にぽつり立ちすくむ水銀灯

古びた時計の滲んだ文字盤

絶望は少しだけ微笑みを浮かべている

二色刷りの運命論に驟雨しゅううが降りそそぐ

あなたの言葉に心震えなくなった感傷

冴えかかる月は上白糖でできている

まるでドーナツの穴みたいに

あなたの懺悔と後悔で生まれた黒い海

がらんどうの花瓶を人差し指で弾く

言葉が形になって降り立つかわたれ時

幸福の定義を唱える祝福

北斗七星のひしゃくで掬う青い心臓

ほろほろと煮崩れた忘れ形見

さざ波で作ったタフタのドレス

瓶の底に残った幸福を救えずにいる

どうか終わりをわたしに魅せてね

琥珀糖ひと欠片分の安寧

あなたの孤独を半分こにしてあげる

氷の炎をやどす人

言葉にならない感情を君は知っているか

あなたの選んだ奈落に着いていく

見慣れた筆跡を指先でなぞる

手のひらで粉々になった蝶みたいに

貴方のための罪と罰

僕が神さまになったらクリーム色の綿あめを空に浮かべるよ

あなたのディテールを瞼の下に閉じ込める

いつか優しくしてくれたらそれでいいよ

カフェオレに溶かしたちょっぴり苦い思い出

鈍色の牙を研いで待っている

花曇りの午後、あなたの眠たげな声

優しさの凍る国でそれでも慈しみたいと

崇高とか名声とかそういうもの全部置いていきたいよ

対岸の火があなたの瞳にやさしく揺らいでいたこと

此処に置いていきたいものは全て食べてしまった

君の左目に宿った光が木洩れ日の中で揺れていた

僕の秘密は一番星だけが知っている

錆びついた空色をひたむきに彩った

カラシナのように眠ったまま起こさないでね

無痛のディストピア

今際の春

lastup:'21.05.05 Illustration

祈りを捧げ、生け贄を塑造せよ

白百合の眠る棺

虚飾の首飾り

Escape Velocity

鬱金香の横顔

優しい絶望

煌めきの残滓

蛍光色の軋轢

健やかな回帰

寄る辺ない欠損

あどけない祈り

Midnight Children

lastup:'21.04.28 Dust Box

大根だらけの夕食パーティ

君が生きづらいならぼくが許すよ、それじゃ駄目かな

駄目なんじゃないかな

あなたの人生に振り返るほどの価値はあるか

何かを選ぶとき、選ばれなった方を想像して息苦しくなるが、それは偽善でしかないのか、誰かの命運を握る重荷を背負う気概もないからなのか

何も選択したくない、できない

狂騒のど真ん中ふと正気に戻る死にたい時間

いっその事とどめを刺して頂戴

私たちの間で堆積していく息苦しさの正体は

誕生日にもらった時計の電池をいまだに取り替えられずにいるの

あなたが枯らしたサボテン、まだベランダで捨てられずにいるのよ

火をつけない煙草を箱に戻す仕草、もう何度目だろう

そんな目で見ないで、私に罪責感を植え付けないで

ダメな子 できない子ってあなたに許されたかった

出来ないことばかりが積もっていく

だって私人間一度目だし

萎びた時が経つのを待っていた

あなたの肯定が私の首を絞める

あなたが知的に見えたの、その細いフレームのせいね

君の静脈に口づけがしたい

これが最後なんてね、じゃあね

僕らみんなプログラムされてたってこと? ⋯⋯わからない!

Empty Life(空っぽの人生)

何の取り柄のない私の唯一の利点:生きていること

夕立に打たれて黒い液晶握りしめて

君も天使の街においで

どす黒いインクが胸の裡を満たしているの

Wasted Time(君との時間は無駄だった)

You dropped down through the air(君は空から舞い降りた)

アルコホールじゃ孤独は救えない

Offer the Withered Flowers(枯れた花を手向けましょう)

あるべき所に在る言葉はあなたを救うけれど、そうじゃないものは?

可哀そうにってあなたに哀れまれなくても私は全然生きていけるし、そんな見せかけの同情じゃちっとも腹は膨れない、それより私の傘知らない?

ご覧の通りこのざまさ

傷つけようとしてごめん、君に消えない痕をつけたかったんだ

あたしの名前は「おい」じゃないし「お前」でもないの

俺の言葉をいちいちリトマス試験紙に浸すみたいな真似やめろ

Take Me to Sukhāvatīスカーヴァティー(極楽浄土に連れてって)

誰も愛せず愛されず憎めず憎まれない、ぼくは空気だ

甘ったるい呪いで僕の心臓は潰されていく

黒い夢の中で絶頂しようぜ

出来ない子と諫められたい、叱られたい

パリのペトリコールは僕に寂寞を連れてくる

鼻腔に充ちたどこか懐かしい匂いに僕は目を細めた

あなたの手に触れた時、走馬灯みたいに初めて目が合った瞬間が頭を過ったの

自分が口付けた部分を避けてグラスを渡したのに、どこから飲むかつい確かめてしまうのよ

自分が不幸に思えて泣いてるの? そのヒロイン思考笑えるね

聞こえよがしに「〇ね」って呟くのやめて

私の言葉何一つあなたに届いて来なかったのね

あれもこれも全部ボツだと思うとウケる

あなたの背中を「邪魔」って蹴っ飛ばしたい

鏡に映ったあたしをあたし以外の誰が愛してくれるというの

ド派手な逃走劇で世界を欺こう

五月蠅いからって金糸雀の首を絞めたのよあなた

「疲れてる」「忙しい」が口癖って笑える

生憎 即席の愛しか持ち合わせてないわ、はばかりさま

綺麗なものが好きなくせに僕が生み出す言葉はとても汚い

人間の皮を被ったけだものだったのよ

フォロー・フォロワー0人の鍵垢に毎日「死にたい」って呟くだけの仕事がしたい(時給1100円)

なんにもできない、したくない

際限のない承認欲求に次々餌をやる仕事

正しさを振りかざして脳内麻薬満たしている奴、車に撥ねられて重症になって欲しいよな

あなたの白目の蒼く透き通っているところが好きだったの

壁に耳あり障子に目あり、畳に鼻あり?

手をこまねいているあなたと、髪を掴んで叫び散らすあたし

言葉の墓場だと思うと何でも言えるよな、何? 気が大きくなるの。

やめたやめた、全部やめだ

あなたの翅にどす黒いインクを垂らしたい

展翅板に翅をひろげて留める時のあの、プツッとした感触がしばらく手に残ったままだった

僕ら光って質じゃないし、影って言えるほど控えめでもない

'21.03.24 あなたのいない夜が明ける

とめどない無彩色の軌道にあなたはいる

死の放つ燐光はそれはそれは美しいという

誰も知らない系譜

未熟なまま腐り落ちた私の恋心

きっとわたし、蠍のように百ぺん身を焼けはしないな

あなたのいない夜が明ける

四隅から欠けていくスマホの保護シートみたいなあなたの不完全さが憎かった

ルームNo.508

稚拙な私たちの「さよなら」

甘美なる死の囁き

私のことをきっと赦さないでね

飼いならしたはずの孤独が牙を剥く

なたの声が思い出せなくなって幾年が経ったが、何より恐ろしいのは等身大の姿が年々失われ、美化された偽物ぎぶつがまるで当然かのような顔をして私の中で真実に昇華されていくことだ。あと数年もすればまるきり代替品が取って代わってしまうのだろう。そうなったときに何の感慨も抱かなかったら、自分がひどく薄情な人間だと言われたようでそれが恐ろしい。

たい石の監獄のような焼却炉に棺が運び込まれていき、わたしは乾いたまなこをゆっくりとまばたき、いかにも沈痛に瞳を潤ませる参列者の中のごくひとりであるかのように、礼服から取り出した白いハンカチをまなじりに押し当てた。

のまま液体になりたいなどと纏まらない思考を手繰り寄せ、黎明のまどろみの中に横たわったままの私の頭のすぐ横を、あなたが昨日の朝、とうとう欠けてしまったと嘆いていた不完全な爪の足が引きずるような足運びでゆっくりと去っていった。

'21.03.11 食にまつわる30題

扁桃アーモンドをかたち取る瞳

きっとこの珈琲を飲み干す頃には

ビスケットでちょっとかさついた声であなたが言った

ワイングラスに透かして見る劣情

渋谷の喧騒をナイフで切り分けて

憂愁は震えるゼリーのように

退屈が卓子テーブルでエプロンを掛けられるのを待っている

氷菓子アイスクリームを舐める青い舌先

舌先をちょっとのぞかせて「ちべた」って、言えてないよ

口ひげできてるよ、って教えてあげない

はじける泡に溺れたい

半分この大きい方をあげる

青色のドロップが出たら君に告白しよう

極彩色の欠片を光に透かす

てのひらに夢の剥片

飴玉みたいに記憶を瓶に詰められたらいいのに

チョコレートのワルツ

我夢ガムと一緒に惰気を噛み砕く

カステヰラひとかけ分の慈悲

ちょっと味の濃すぎた青椒肉絲

塩辛い倦怠を絡めて平らげた

甘ったるいタルトタタン切り分けて

わたしパイナップルって大っ嫌い

愚かしい貴方にはひとかけの憐憫を

七つのメニューからお好きなものをどうぞ

毒々しく色づいた享楽にナイフを突き立てる

混合酒カクテルに恋の隠し味

果蜜シロップ過多の恋

蜜瓜汁酢メロンジュース

酒精アルコールに溺れた彼の末路について

'21.03.09 死ねない怪物

死ねない怪物

継ぎ接ぎだらけの蠍の心臓

靴底に湖を飼っている

芸術的な割れ方をした黒い液晶で、歪んだわたしの顔がアシンメトリーな笑みを浮かべた

屈託のない懊悩

風に転がっていく空き罐みたいになりたい人生だった

焼き増した言葉、使い古しの葛藤

止まない雨中、軒先で一時間もしてしまう雨宿りのような

黒焦げの心臓が悲鳴をあげている

安息を殺して免罪符を得る

ピアスの穴の数だけ「ああ、生きてる」って思えたんだよ

左右非対称なものがひどく可哀そうに思えた夜

あんしんとかやすらぎとか、そういうもの

ふと「死にたい」って言葉が零れる時:薄暗いバスルームで頭を洗ってる時とか、見慣れた自分の顔と向き合って歯を磨いている時とか

毎夜枕を濡らしていました

ある朝床に貼りついていた私の熱帯魚

飽和気味のぼくの幸福容量

嘘じゃないよ、ほんとだよ

すべての言葉に「※個人の感想です」ってつけて生活したいじゃん

君が赤に染まった手首を投げ出していたバスタブで胎児のように丸まった夜

ノイズじりの慈愛を飲み干して

ちょっとコンビニ行こうみたいなノリで心臓を止めたい

わんこそばみたいに皿に盛られた倦怠を平らげていく仕事

たぶんリセマラに失敗した僕の今世

23時にコンビニで108円(税込)のパン買って、ヘンデルがポケットから零した石みたいに外灯のポツポツ照らす閑静な住宅街を歩き食べしているときに、ああ、死にたいなあって本当に思うんだよ。

安全ピンで開けたピアスホールのしこりみたいな感触を、そこに穴が存在することを確かめるみたいに気づけば触ってしまうの。

車の通り過ぎるときに立てる風が、土瀝青アスファルトに叩きつけられる雨粒に白く波打つようにさざめきを与える。

無色透明のそこにあるだけで存在証明できるような、空気みたいな存在になりたかった。

子どものころ、一生に人間が呼吸する回数は決まっていると聞いて、家族が寝静まった頃、なかなか温まらない布団の中で百秒間息を止めることを何度も繰り返していた。そしてこのまま永遠に寝息を殺せたらいいのに思っていた。

子どもの時から最悪の条件のイメージを想像してしまう質で、例えば一時間ずつ何かしらの10gずつを提出しなくてはいけない部屋で、髪、唾液、排泄物、あらゆるものを絞り出した後にどの部位から切り落としていくべきかとか、そういうの。

'21.03.07 折れた秒針には一片の沈丁花を

折れた秒針には一片の沈丁花を

等加速度的落下の終末に無彩色の夢を見る

コペルニクス的転回によれば絶望もまた喜劇のようで

浴槽には寄る辺ない倦怠とこぼれた灰が詰まっている

逸脱した自己愛の延長には超常的欠落を添えて

幽愁をはらむ日没の残光の中、僕は胸の前で指を組む

世界終末の日、僕はひとりバスタブで退廃に溺れたい

深層水のガラスの向こうで彼女は気圏を望む

おとを失ったカナリアは無声の挽歌レクイエムを謳う

煙を喫む仕草に紛れて気鬱を吐き出した

崩落する白き巨塔の上から彼女は地上に手を振った

孤独の底をすくう神の指に救済を求む嬌声を

ネオン咲くアスファルトに哀哭の雨が降る

滑稽な寂寞が部屋の隅で僕を睨んでいる

腐臭漂うわたしの肢体は成層圏を夢想する

僕だけを置いて回り続ける歯車に一滴の劇薬を

風が吹けばいずれアカシアの花があなたに宿る

夢遊病者は狭間の夢を見るか

私たちの愚かさと腐臭に充ちたこの部屋の一角で

錆色の寂寞をティースプーンで掻き混ぜる

鯨が波間で跳ねればこの地球ほしと木星は少し近づく

大嫌いな君の軽忽さに反吐を飲んだ

白々しい悲しみをまな板の上でこねくり回している

致命的欠落を抱えた私の行く末についての考察

深々と降り積もる侘しさにぼくは今夜も耳を塞いだ

「優しい人になりたかった」と呟くあなたの両眼をそっと塞ぎたい

セピア色の感傷は夕暮れの斜陽と一緒にやってくる

七十億の孤独が息づくこの星で

神の積木あそびで創られた世界で今日も寝起きする

うつつに囁く死が意識の深層から手招きしている

'21.03.05 自己愛の塊

浴槽を退廃で満たす

少年Aの恋

潜在めいて半端に隠された君の虚言そらごとも、全部ぜんぶ、ああ、騙された

トルストイもシェークスピアも私の憂鬱を取り去ってはくれない

逃げるのも才能だとあなたにこそ認めてほしかった

下水を泳ぐダイヤのピアス

瞳に映った退屈の情

青い果実のまま腐りゆく

鬱屈した心情を君のせいにさせて欲しい

水のやりすぎで枯れてしまったサボテン

自己愛の塊

妄幻症の憂鬱な朝

鉄葉ブリキの心臓

愛を乞うキッチン

陳腐な言葉を焼き直して与える仕事

心臓のケロイドに爪を立てる

扁桃体のゆっくりと圧死していくような

燐寸三本分の憐憫を

いたづく自尊心にセロファンで蓋する

幼気いたいけな瞳を裏切る

ばらばらになった扇情

奪い奪われて愛憎子午線

愚かな私の無駄な足掻き

自分可愛さに軋轢に目をつむった

ポップソングの焼き直し

自惚れだけで生きてきた2✕年

画一的不一致により

美徳で飯は食えない

まるで健康体のくせして何も成せないダメ人間

マリオネットに成り損なった私の生き様についての考察

「あなたは反対側に綺麗にねじ曲がっているのよ」。君の声が頭の中にこだまして、僕はいく度も振り向きたい衝動を殺してやらねばならなかった。そんな、ある晩夏ののこと。

クロユリの花でできたこの二重のらせんをゆっくりと手繰っていき、僕は、今日もなんの接点もない呪縛に渇きをいだく。

いつまでも消えない衝迫が、繰り返し繰り返しやって来ては僕の思考を上塗りしていく。

積み上げた積み木を爪先で弾いて壊すお遊戯あそび。(そんなんじゃない。)

倦怠立ちめるワンルームに充ちているのは、息の詰まるような憂鬱と少しの哀れみ。

予防線を張りすぎて、どれが本当の感情なのかよく分からない。傷ついているのか、それとも「普通の人間はこう感じるはず」をなぞっているだけなのか。

無菌室生まれのわたしの自尊心が研究者たちによって外界に連れていかれ、瞬く間に灰になった日のこと。

白痴めいた君の笑み、僕は期待外れな心の隙間に蓋をして浴槽から水を汲んだ。

愛すれば愛されると信じ切っているその単純さ、おめでたい事ですね。

'21.02.28 君の焼死体の上で踊りたい

君の焼死体の上で踊りたい

少年Aの告白

浅ましい君を愛せる唯ひとりの僕

ああ、どうか君が卑しくありますように

正当性に溺れていく君の自己欺瞞、僕は込み上げる反吐を呑み込むのに精一杯だった

君のなかで真実に昇華されていった抜け殻たち

誰そ彼、君の虚言そらごとに騙されてしまった哀れな人たち

偽善と腐敗したヒロイズムと劣等種に抱く憐憫と

狂言に一滴の真実

「可愛い」を焦がれる君の疑いもしない澄んだ目、ああ憎らしい

すべては僕の胸裏のできごとなのですが

肉薄する発火点

少女Bの怠慢

雑駁した願望をどうか殺さないで

ああ、どうかあなたがいじらしくありますように

そんな喰い尽くすような眼で見るのなら、いっそ殺してくれても構わなかったわ

あなたの中で死んでいく涅色くりいろの言葉たち

薄明、あなたの瞳で燃えさかる憎悪

焦燥、衝迫、ただれた思想

愛憎に一滴の正気

「赦し」を乞うあなたのどこまでも黒く澱む瞳、ああ愛らしい

すべてはわたしの願望の見せる幻覚なのですが

これが僕らのハッピーエンド

雑踏のさざめきから逃れるように耳に押し込んだイヤホンで五月の蝿が今日もたぐいない愛を歌っている。愛、哀、相。しき君が今日も世界一不幸せでありますようにと祈りながらコートのポケットに両手を沈めた。

僕が君宛てのラブレターを書くならそれは、こんな一文から始まるだろう。

君のその混じりけのない美しさを閉じ込めた黒い瞳もまっすぐ通った鼻筋も、十二月の教室で冬の透きとおる午後の陽射しの中、ゆっくりとページを繰る白い指も、みんなみんな燃えちまッて、残ったのは君を君たらしめる魂の抜け落ちたただの脆い固形だった。

醜く焼けただれた識別不可能な代物に僕はそっと口づけて、腐っていくその亡骸とワルツでも踊ってみせようか。負のエントロピーをもう二度と召すことはない、君の行く末をきっと笑ってみせるよ。

灰に塗れた骨の破片たち、両手に収まるほどの壺に納められて冷たい石の中に閉じ込められる哀れなかつて“人”だったもの、そんなつまらない代物に成り下がるくらいならいっそ、君の明日を僕におくれ。

肉の焦げる鼻をつく臭い、舞い上がる火の粉、君の細くなっていく悲鳴⋯⋯。惨劇の不詳を嘆く人々を横目に僕は今日も今日とてたゆみなく君を愛するのさ。

'21.02.27 かつて神だった獣

悠遠の時を疾駆せよ

ほどける肢体

雷霆らいてい轟く

星霜せいそう降り積もりて

曖昧になりゆく影の輪郭

心臓に根ざした曼珠沙華まんじゅしゃげの花

太古の昔、竜の言葉を解したころ

無花果の実がひとつ腐り落ちるとき

完熟した寄る辺なさを胸のうちに飼っている

かつて神だった獣

冴えかかった赤錆色の街が夕闇に沈みゆく

魂の所在という終わらぬ究理の旅

神の粘土を宿したわたしの体躯

氷輪が静寂にくちづけるとき

つつましき磧礫せきれき崩しのあそ

当所あてどなく常闇とこやみを彷徨う

泥濘に沈むさかな

浄化される灰色の環状線

満ちゆく魂の介在

風花かざばな舞い散りて

漁火いさりびを宿した子ども

玉緒たまのおに火をつける

燃ゆる鬼灯ほおずき

浪費する不穏な第六感

まぶたの裏にとも現世うつしよ

人の子よ、永劫土に還れ

死がわたしの頭をゆっくりと撫でるとき、わたしは赤銅色のため息をひとつ、長くしずしずと吐いて眠るように息を引き取ったのです。そうです、まるで百合の花の活けられた寝室で揺り籠にねむる赤子のような安らかさで、わたしは永久とわに瞳を閉じたのです。

'21.02.26 あなたの瞳の無垢

今際の際にはあなたに名を呼ばれたい

瞳の中に極光オーロラを飼っている

白昼夢のうす皮の向こう側

薄明、夢の残滓

あなたの瞳の無垢

瞳に名残り雪の肖像を描く

不知火しらぬいを掴まえるような恋をしている

宇宙の秘密をひも解く

つま先浸す余波なごり

夜明けの赤らみさした頬

あなたの心を満たす焦土

心臓の把手とってを両側から引く均衡を保っている。

河川敷を抜ける風が声をさらっていき、どこからか漂う沈丁花の香りがいつまでも鼻腔にとどまった。

あなたの声の響きを思い出せなくなって久しいが、あなたの身体の部分的なディテールをふとした瞬間におもってしまう。それは欠伸を咬み殺すときのちょっと間抜けな唇の動きだとか、うなじに二つめた黒子の位置とか、シガレットをつまむ右手の人差し指の微妙な曲がり方、朝日に透ける赤みさした耳の、かすかに生えた金色の産毛、腰のあたりに白く薄く引きつれた傷痕だったりする。

月曜の慌ただしい朝に始まって金曜の21時、列車で家路を揺られる草臥れたあなたの閉じた瞼に透ける細かな血管を、毎日ただしく帰ってくるあなたの、まっとうに仕事をしてまっとうに疲れて帰ってくるあなたの、日曜日、鋏を当てて髪を切っているときの俯いたうなじの下を流れる、あなたの身体に目に見えて溜まっていきここに集結して脈を打たせている血の流れを思って、生きた肌の匂いを吸い込み、汗で光る首筋の下でどくどくと脈打つそれに私の喉仏はふるえ、咥内にあふれる唾液を飲み下す。

たとえば、胡桃の食べ過ぎで鼻血を出すような間抜けさに笑ってしまうような、「⋯⋯そういえばさ、洗剤そろそろ切れるかも」。突然の寝言にくすっと笑いが込み上げてしまったり、大分ぬるめに淹れた珈琲コーヒーに牛乳を足してやっと飲める猫舌とか、あなたの不完全さをいちいち心のうちに取り上げてはゆっくりとなぞる時間は、きっと「しあわせ」とか「やすらぎ」と同じかたちをしている。

稜線にわずかに残った夕日の切れ端を瞳をすがめて見つめるあなたの、金色をすこし垂らした寂寞のまなざし、その中でさんざめく光の粒子たち。

カーテンの隙間から火光かげろいがその穂先をあなたの横顔に薄く伸ばしたとき、そのまなじりをゆっくり落ちて敷布に吸い込まれていったひと筋の雫。

'21.02.25 硝子のかけら

硝子よりも繊細な私の心臓

歪な部屋のかけら

青めき透きとおる花びら

白波に五色のさざれ

血で縁を染めた硝子のかけら

光のくさび

砕け散る安寧

硝子球に宿る音色

いたづく亀裂の心

混じりけのない暁の光芒こうぼうを閉じ込める

無彩色の劣情

標本棚の硝子が朝の穏やかな斜光を反射して静まり返ったへやをきらきらと照らしてみせた。

十年前に買い揃えたグラスはある日粉々に割れ、切れそうな糸の上を渡るようなこの泥濘で誤魔化し誤魔化し先送っていた終幕をうっすらと予感したこと。

床に飛び散る光沢つやめく破片の中で、あなたの瞳が泣き出す寸前のような不思議な揺れ方をした。

乱反射する六角形のへやで、移ろう極彩色の星鏡を身にまとう。

'21.02.20 氷雨を食む

その蒼ざめたおも象嵌ぞうがんされた澄んだ目

かいなから溢れし石楠花しゃくなげに鼻先をうずめる

突兀とっこつたる白い塔と螺旋のきざはし

つやけく紅き実をたなごころに閉じ込める

輪をもがれた天使は風に唄う

かさを帯びたる月光のごとく

遠方おちかたよりその名を呼べり

言の葉の紫水晶を摘む

憂愁と倦怠の六畳半

こうべを垂れ指を組む

睫毛を伝いし雫

茫洋たる逃避

野辺のべの草花

夜半よわの宴

波の

現実ありよう

なぎさ

花葬

柘榴石ガーネット

人待ち顔

氷雨ひさめを食む

幾年いくとせ君を待つ

人影に誰何すいかする

君の心に炎をそそ

怯懦きょうだに濡れた君の瞳

燐光を放つ明星ほしを射る

少女と青年が共在する瞳

鶯の諸声もろごえ、草花のさざめき

暮れ落つ秋のに目を眇める

暗い衝迫と身を裂くような葛藤

白百合に結ばれし黒い繻子の切れ

仰臥ぎょうがするその顎を指先でなぞりたい

黒い棺に横たわり少女おとめの笑みを湛えて

稜線にわずかに残った夕日の切れ端

君の頬で最後の黄昏がひと筋輝く

羽をもがれた天使に讃歌を贈る

黄色いの葉が枝先で震える

夜の香りに隠れ背徳に耽る

しぶきをあげゆくいさなの尾

かわらざる君のまなざし

すみれまいはじらいて

瀬音に耳を澄ます

朝もやに溶ける

波路なみじを越えて

両人ふたり樹翳こかげ

ある午後

大理石なめいし

挽歌ばんか

花雫

環状線

無明むみょうの闇

カトラリー

二重螺旋の鎖

夜霧立ちめて

未生みしょうの命を宿しかいご

やがて別れゆく運命さだめ

月桂樹のかんむりをいただく

再び帰るときはあらじな

森の梢に降りかかる雪の

月朧なる夜気に包まれたなら

瀟洒しょうしゃなバルコニーを這う常春藤きずた

昼の光の消え去ろうとする黄昏時

吹きすさ雨中うちゅう跳泥はねを飛ばして走る

白色の夾竹桃で淹れた琥珀を飲み干す

'21.02.14 ねじれの位置

植栽の影に息づく夏の淀みに片足を浸す

夏の群青が深い藍色へと沈んでいく

落陽はうら寂しい公園の向こう側へと消えた

ジャングルジムのいただきに君臨していた頃

ねじれの位置

ひぐらしの哀声あいせいと落つる影法師

選ばれし氷菓

逍遥しょうようするサテライト・チルドレン

誰かの思考が鈍色にびいろに染まっていく

立ち入れない線を引かれた

これだけ一緒にいても他人でしかないのか

視界の端にちらつくあいつの影

メランコリー、煮詰めて甘く

継ぎ接ぎだらけ

薄いビニール一枚に覆われているような日々

どことなく息苦しい

缶の温度は外気とすっかり同調してしまっている。

投げた缶はゴミ箱の縁に当たって転げていく。

甘ったるい清涼飲料水を好まない彼の喉は乾いていて、ゴミを捨て直している馬鹿を横目に、唇を舌先で湿らすに留まった。

えりの伸び切ったTシャツの裾を片手で煽る××の、うなじから生まれた汗の粒が背中を通って腰へと転がり落ちる。

機械的な店員の声と無機質な電子音、煌々と嘘を許さないLEDの光、真っ直ぐアイスコーナーへ去っていく片割れ。

無個性の白いビニール袋には、ぬるくなり掛けた缶ビールが二本と薄い小箱が入っている。

溶けだした甘い液が棒を伝って手を汚す。

東京の夜空は反射する雲が鈍光どんこうを放っている。

ジャラジャラと財布の中で小銭が踊っている。

何かが棲みついている○○の黒い眼差し、そのとき××の中に生まれた衝動は、暴力性に近いけれど異なるもの。

××はうっすらとまぶたを上げて、黒い襟足からのぞく肌の匂いを肺いっぱいに吸い込む。乱れた呼気を吐きながら舌先で転がる汗を舐めとり、薄い皮膚の下に脈打つ血の流れを思って、溢れた唾液をまぶすように噛みしだく。

壊れゆく予感を胸の奥にしまう時の密かなざわめき。

どれだけつなぎとめても戻らない欠片、どこへでも付きまとう過去の匂い。

ぼけたまま手に取った箱から新しい一本を抜き取ろうとすれば、それはあっさり潰えた。

眠らない東京砂漠に登って八年が経ったが、だんだんと摩耗していく中、凍てつく早朝のベランダで新しい箱を吸っているときだけが生きている。

湯船の縁の灰皿目掛けて振るった灰が外れて、湯を汚し、思わず舌を打った。

「」
いつまでも耳の奥にこびりついて離れないあいつの乾いた声、目の笑っていない薄い笑み。

なにげない言葉の切れ端が過去を連れてくる。

け落ちた何かを拾いあげようと、掻き集めて掻き集めて気づけば八年が経っていた。

くだらない会話が絶えたとき、相手の考えていることが読めなくて、そこに横たわる空気だとか、去っていく車のヘッドライトの残光とか、誰かを家へと運んでいく終電の四角い窓の並び、探るような眼差し、ランドリーのガタガタと眠気を覚ますような音、なにか物言いたげな唇、そういうものをただ互いになぞって、なぞるだけしかしなかった。

そうして今夜も何ひとつ本質に触れぬまま、××はシンクに凭れて無感情を視線に乗せる。

水滴がシンクの底を叩く音が鈍く耳に響く。

の憂鬱なキッチンで茹でたパスタ、言わぬ言葉を絡めて咀嚼した。

風に舞い上がるレシート、広告、にんじん百九十円。アパート1LDK十万。

理じゃない、無理なんかじゃない、そう言い聞かせて、欠けた部分をテープで止めるような日々を過ごしている。

八年かけて知ったのは、どれだけ肌を合わせて奥深くまで入り込んでも欠け落ちた何かは欠け落ちたまま、互いの何ひとつも分かり合えはしない、そんなことだった。

月の教室に吹き込む風がけやきの梢を揺らし、風に膨らむ白いカーテンに木漏れ日がゆらゆらと揺れていた。ページのまくられるパラパラという響き、校庭から響くホイッスルのが眠気を湛えた教室の空気を微かに切り裂き、
『でも ほんとうの幸せってなんだろう』
『僕 まだわからないよ』
『二人で一緒にほんとうの幸せを探そう』
音読する○○の声がその合間をたゆたっていく。

珍しく起きて耳を傾ける××は何かを考えるまなざし、そのときすでに薄暗い未来の予感は始まっていて、その延長線上にどれだけ近くにいようと埋められない今があること。

ふたり、どこまでも一緒にいたところでねじれの位置は直らないまま。

'21.02.13 情動的カスケード

Glow of Fireflies

Dusk and Dawn

終わりのない序章に、始まりのない終焉に。

情動的カスケード

慟哭の海に月は沈む

の人の横顔はいつでも正しく前を向いていて、俺は時折、その真っ直ぐ通った鼻筋の形を辿ってみたくなる。しかし、こんな疚しい心を彼に抱きつつ、言葉を交わした事は数える程しかないのだ。

夏の日差しを受けた白いシャツが風を孕んで優しく形を変えた。隣に立てば長い睫毛の影が、その頬に落ちている様まで見ることができるだろう。木漏れ日が斑に彼の肌を染めていた。

てを赦され、守られ、与えられて、そうして生かされてきた俺は身の程知らずにも切願する。記憶の底の黒い瞳を、慈愛の声を、あなたに愛されて再び名を呼ばれる日を。

きっといつでも愛していた。一瞬でも忘れたことはなかった。お前の手を引き薄汚い路地裏を駆けた日を、寄り添い眠った凍てつく夜を、記憶が擦り切れるほどに思い返した。

記体の文字の上を所々インクの擦れたような跡が汚すのは、書き手が左利きだからだ。

主を喪った部屋は生前訪れた際と何も変わらず、古びた本と家具磨きの蜜蝋の匂いがした。

に吸い付く濡れた唇の厭らしさに、内腿の肉が期待するように震えた。

シャンデリアの粒が隙間風に微かに揺れ、象牙色のマントルピースに置かれた装飾品が、炎にキラキラ反射した。

ワインレッドの情欲がゆらゆらと燃え、石壁に2つの黒い影を映し出した。

細い黒髪の下から覗く蒼い眼は濁りなく若々しいのに、纏う空気の妖しさに男は何かに呑まれていく錯覚を覚えた。

紅い布から覗く白い肌と、男が落とす優しい口付けが何とも卑猥な折り合いを見せていた。

りに漂う濃厚なバラの香りが、身体に纏わり付く。香りを掻き分けるように歩きながら空を見上げれば、冷たく見降ろす月と目が合った。

宵、俺は二つのものを失う。甘さは残酷な刃を包み、虚しさはぬるい幻影を切り刻む。

曖昧な感傷に浸っていた××は 声を掛けられて初めて、相手が自分を見つめていたことに気付いた。

の暗がりにそっと秘密を置き去りにする様な。思わずという風に、××が口を開いた。

ーテンから差し込む光がその肢体を暴く様を他人事のように眺めながら。俺はまどろみからだんだんと覚めていく余韻に浸っていた。

その時の俺はまだ、人を愛する心というのを理解出来なかった。

'20.10.26 溺れるスピカ

アルビレオのひと雫

西へ沈むエステラの街

紅茶とジャムとエトワール

愛すべきカプートニク、その終末

フロップニクのかた

グラン・シャリオの木蔭

スターゲイザー、夢を呑む

スプートニクに捧ぐ歌

水面みなもへ堕ちたフォーマルハウト

君はポラリスをいだけるか

メテオ、僕の願いを連れてって

青白く燃ゆシリウス

嫉妬するカノープス

春めく車窓と溺れるスピカ

そして気圏へ傾ぐベガ

窒息するカペラ

てつくリゲル

夜空で紅茶を作るとき、夕闇のベールを3グラムとプロキオンをひと欠片、そして紫の雲を少々

哀鳴あいめいするべテルギウス

飛翔するアルタイル

震えるデネブ

片割れのカストル

アンタレスは君に惑溺する

レグルスは懊悩おうのうする

悔恨のグローセ・ベーア

魅惑のアマ・デトワール

───君はヴィエルジュじゃないだろ?
───私は山羊座よ
───ハッ

選ばれしクドリャフカ

Via Lattea

アンドロメダの祈り

オリオンの秘密

'21.02 夢見る羊と百の嘘

原稿用紙十枚を埋める懺悔を君に捧ぐ

'20.11 鏡の中の夜長

姿見合せ

向こう側で肥大していく醜い生きもの

残響のカレイドスコープ

ジャバウォックに宜しくどうぞ

L’âme qui s’est égarée dans un miroir(鏡の中の彷徨える魂)

指紋だらけのアイ・ラブ・ユー

触れた手のひらの温もりが奪われていく。

Short

やわき春暁の円環をいただく

倦怠渦まく午前四時

ジュークボックスを泳ぐいさな

アンコールは望まない

36度2分の純情

飛び散る鮮紅色に片目を閉じよ

青と白のベクトル

白紙のレクイエム

出さない手紙

黒鍵に散るは梔子の花

蛍火を包み込んで

人類史と誰がためのサルベイション

うるわしのユータナジー

無神論者は軽忽きょうこつな夢を見る

縹渺ひょうびょうたる独善的レクイエム

臨界点に臨むベランゾール

鳴らぬ電話はただの石

桃色は憂鬱に溺れて

拝啓 世界一馬鹿なあなたへ

遠くまぼろしは透けて

レゾンデートル、応答せよ

硝子越しの恋

終わらぬ復讐

酩酊を殺す毒

生命散らせよ

モラトリアムに心酔する

秒針は薄氷を刻めるか

Mr.サラマンダー、お迎えはまだですか

プルーストの栞

沈黙する深海魚

悪いひと

泡沫的終末論に悪態をつく

幼気いたいけを殺し画一を得る

縫合痕に落涙

混成的エゴイズムの具現

遍在/偏在的レゾンデートル

試験的彼女の取扱説明書

忘れじのディストピア

変わらぬ日々を日常と言う

軋轢あつれきに目をつむって毒を撃て

君の輪郭を眼裏まなうらに閉じ込めたい

陰雨に濡れる侮蔑の眼

累卵なる午前三時、街角にて

余蘊ようんなく喰らい尽く

君の濁りなき虹彩に熱情を宿したい

慈愛をめて共存を奪え

けぶる煙雨に踪跡そうせきを濁す

君の猜疑に黙殺される

汝、甘言を忘るべからず

罪跡に白百合

炎天に

灼熱は与奪を許さない

残痕に爪を立てる

弾痕にくちづけ

蝟集いしゅうを散らし路地裏を駆ける

爾後じご、死んだように生きてきました

なびく星を射殺する

死体なら理不尽を享受せよ

双頭を担う

内股に噛み痕

無味乾燥の旬日じゅんじつを喰らう

玩弄がんろう者は黎明れいめいに遊ぶ

諦念と遊び退屈と踊る

幽天に昇る

食傷気味の倦厭けんえん

ワインレッドの絶望をかん

鮮烈の花色を

晩秋、死におくれのレクイエム

皓皓こうこうたる月が茜を殺す

群青に溺れる

純潔なる狂気

不浄なる呵責

自嘲に深紅を差す

今暁こんぎょうの別れ

加点式愛玩定法じょうほう

驟雨しゅううにかすむ有明ありあけの月

甘美なる獣欲を殺せ

払暁を呑む

吟詠する星屑たち

臙脂のマフラーを捨てられない

唐紅、純情に燃ゆ

偶発的密会のススメ

東雲しののめ沖天ちゅうてんする

秋陽の散る日

白く夕月ゆうづきのかかりたる

成層圏を夢見る羊は艱難かんなんを舐める

ジョン・ドゥは逍遥しょうようする

ベッドの下の私の怪物

水葬にすアストランティア

なぞなぞの残骸と悪夢を見る

牙を抜かれた遊星を胸のうちに飼っている

Cold Blooded

胸にいだくエルドラド

累加する子供じみた偏愛

エメラルドの瞳の魔物

心臓ひとつを分け合って生きてきたのね

冷たい唇に羨望の眼差しを

熱の箱

嗜虐の心得

虚飾の揺り籠

アクアマリンの憂い

上弦の蜜/上限の密

やっぱり触れたい、と彼は言った

くれないの雫

夢見心地なアプリコーゼ

明日を忘れたアラベスク

加速度的恋愛落下速度

仮想的密室殺人

喝采に一礼

渇望のデストルドー

蹴っ飛ばせよ情動のカスケード

オルタナティブ・シュプレヒコール

罪責感が口づける

飽食ぎみの晩餐

陽炎かげろうを食む

俺も来世で踊りたい

緩慢な五月雨

ためらう人差し指

薄明はくめいに溶ける

ミラーボールの心室

お前に優しく手折られたい

人の献身に胡座をかくな

色褪せない感情を教えてくれ

背中合わせの感傷を知る

カーテンコールは終わらない

愚直なあなたに愛されたい

今夜限りで他人になる

獣のような眼で見るな

一線を超えた先にお前がいる

このまま貴方だけを奪い去りたい

黒いネクタイは息が詰まる

愛する人の還る場所になりたい

ひと欠片でも重なる感情はあるか

不器用ながらに愛したかった

身代わりにでも使ってくれ

殴り愛でマウントをとれ

惚れたが負けとは言うけれど

あなたの血肉になる

耳障りな声で嗤って

シュレディンガーの恋心

寂しいこども

見えない楔

不釣り合いな感情

迎えにおいで

38度の記憶

真白ましろい墓

噛みたい指

味気ない朝食

甘ったれたラブソングでも歌ってろ

戯言アレルギー

無益な妄想

できない約束

不完全な鼓動

隣で星を数えたい

キメラの恋

ロクデナシ2匹

柔い眼

愚者の愛

さよならは言わない

蜃気楼を踏む

憂鬱な食卓

子猫の眼

心臓を止めたい

皮肉屋の末路

空を泳ぐ魚

冷たい微笑

道化になって踊りたい

聴こえぬ心音

遮断機を降ろす

鱗粉を拭う

骨のダイヤモンド

終演そして開幕

置き去りの純情

飛んで火に入る

寂寥感が牙を剥く

鼻梁をなぞる

背骨をたどる

不格好な一人遊び

恋情を摘み取る

堕落と献身

消えない轍

馬鹿な男

汗ばむ薬指

黄昏に染まる

甘やかな過ち

自虐家と常套句

ガラスの心臓

累卵の縁

美しい共犯者

機械仕掛けの鼓動

Middle

濡れたアスファルトにネオン色が溶ける。

痛みから生まれる恐怖は安寧より重く私達を縛る。

アスファルトに散り染める花を靴底でにじった。

もやのようなかさを帯びる月を仰ぎ、白い呼気を吐き出した。

燦爛さんらんたる旭日きょくじつに目を眇める。

夜露で色褪せた水銀灯が身をすくめて闇に立つ。

磨きこまれた門柱が透徹した月光に黒光りする。

乾いた血痕を靴先でにじる。

砂を噛むような味気ない毎日を送っている。

燦然さんぜんと輝く街明かりに手を伸ばす。

旧遊の地の想いを馳せる。

人肌の温もりが手に馴染む。

ゆらりと立ちのぼる劣情に思考を焼かれていく。

肌が月光を弾いて薄暗い部屋の中で白く浮かび上がる。

朧月に滲む黒影を追い掛ける。

落ちた赤椿の首を爪先で押しやる。

紙で切れた指に赤い玉が滲む。

ピンで展翅された蝶の鱗粉が妖しげに瞬く。

濡れた前髪を払い、指先で鼻梁をなぞる。

翼の名残という骨の膨らみを甘噛みする。

むせ返るような花の芳香に目眩がする。

夏の夜は理性の薄皮を一枚ずつ剥いでいく。

睨む眼が、薄闇で獣のように爛々とする。

手負いの獣のような荒い息遣いが響く。

底の読めない瞳を熱っぽく見つめる。

微かな震えを楽しむようにゆっくりと指先を舐る。

生い茂る葉と夜の香りに隠れ、背徳に浸る。

気だるげに差し出された手に軽く口づける。

点々と並ぶ灯りが異世界へ続く入口のようだ。

揺らめく蜃気楼に目をすがめ、額の汗を拭う。

窓から射し込む月光が床に紋様を描く。

耳に痛いほどの静寂の中、必死に息を殺す。

濃霧の中あてもなく彷徨う夢を見た。

隠し持った粉末をさり気なくグラスに落とす。

期待と緊張とがじっとり下腹を焦がす。

よれた写真のしわを伸ばし、じっと見る。

一瞬の沈黙の後、どう取り繕うか思考を巡らす。

鋭い音を立てて砕けた硝子が床に散る。

水滴が頬を叩く感触で朦朧とした意識が浮上する。

婀娜っぽい流し目に誘われ、ふらりと後を追う。

目尻を拭う温もりに頬を擦り寄せる。

仄かに期待して鳥籠を覗くもそこは伽藍堂だ。

刹那、奥底に追いやった記憶が脳裏をよぎる。

晩夏の空に入道雲が亡霊のように立ちはだかる。

脆弱な結晶に触れれば一瞬で溶けてしまう。

吐いた息の白さに寒さが一層沁みるようだ。

誰かの声に酩酊した脳を甘く揺さぶられる。

轟く雷鳴は何か良からぬ事の前触れのようだ。

枯れ落ちた花からは死の香りがする。

秋めく湖畔はどこか物寂しく映る。

哀愁漂う秋空に夜の帳が下りていく。

一面の銀世界が眩しく、思わず目を瞑る。

抗えない衝動に従って無声音で名を呼ぶ。

脱力したまま、膝裏を伝う汗を感受する。

ランプの傘をなぞると埃で指が薄汚れる。

月光に浮かぶ尖塔は黒い魔物のように物々しい。

まんじりともせず、水に変わった湯船で夜を明かした。

傘もささずに何処いくの。

学生時代に思いつきで書いた手紙を未だにとってある。

汗をかく麦茶のコップを指先でなぞる。

暑いとぼやく声を寝転がったまま聞き流す。

ドライヤーの音の向こうで何やら喚く声がする。

約束を反故にする旨の言い訳が電話ごしに酷く遠い。

会話の絶えた部屋にテレビの笑い声が虚しく響く。

嫌われるより、無関心でいられる方が余程つらい。

体を重ねれば情が移ると言われている。

出来たての傷から赤い血を舐めとった。

口を開けばネガティブなことばかり溢れる。

最近話題の映画をふたりで観ませんかと誘われた。

生存確認が結婚式の招待状なんてどんな冗談だよ。

そういえば今日の星座占いは最下位だった。

汗で湿った髪をくしゃりと掻き混ぜるのが好きだ。

いつもくだらない事で突っかかってくる嫌な奴だった。

呼び止めてきた男が誰だったか、記憶の底をあさる。

隣に横たわった男が柔い手付きで髪を梳く。

人として大切な何かがすこんと抜け落ちたような男だ。

初めて触れた頬はとても冷たかった。

浅い切り傷ほどじくじく痛む。

月並みな告白と返答で始まった関係だった。

ふいに懐かしい声を聞いた気がした。

猫を撫でる手付きが思いのほか様になっていて驚いた。

あんたが真っ赤な椿の花を咥えるところを見てみたい。

何事もないような澄まし顔で酒を煽る横顔を盗み見る。

ペンを握る指が意外に長くて感心した。

目が離せない人間というのが世の中にはいるものだ。

初っ端から何かと神経を逆撫でする奴だった。

切れた電話をぼんやりと見やった。

思えば数日前から何やら落ち着きがなかった。

調子外れな鼻歌は最近流行りのバンドの新曲らしい。

こんな時あの人ならどうするだろうと何時も考える。

第一印象はお互いあまり良くなかったと思う。

目的のない待ち時間は酷く退屈だ。

先生の手は魔法の手だとはしゃぐ声が好きだった。

今年の桜もあっという間に寿命を終えそうだ。

目が覚めた時、台所から聴こえる音が心地いい。

殴られた痛みで愛情を確かめる。

そんなに気に食わないなら失恋ソングでも作ってろ。

近づくほど手に入らないと思い知る。

あなたに許される境界線を確かめたい。

調子付くから優しくしなくていいよ。

あなたの遺骨でダイヤモンドを創りたい。

気を引くために子供じみた悪戯を止められない。

掛け違えた感情は修正する機会を失った。

消えていく鬱血の痕が寂しかった。

罪悪感であんたを縛れるなら道化にでもなってやる。

あなたに忘れ去られることが死ぬほど怖い。

首を食んだ犬歯が肉を裂く妄想をする。

憧憬と恋愛を同一視するな。

行けもしない旅行をあれこれ想像した。

滲んだ声を背中越しに聞き流した。

アパートの室内に風鈴を吊るす気弱さが好き。

濡れた紫陽花ごしに顔も見ないで別れを告げた。

満開の桜が誰よりも似合うひとだった。

使わない二人分の食器を捨てられずにいる。

知らない顔で微笑まれて 立ち入れない線を引かれた。

真っ直ぐな眼差しを受け止めるのが苦しかった。

やり直したいと縋る声が情けなく滲む。

皮膚一枚で隔てられた他人であることが煩わしい。

知らぬ女を連れているのを見かける度 胸が痛んだ。

物にも人にも執着しない貴方が怖い。

報われない感情をあなたのせいにしてしまいたい。

移り気なあんたを引き留める術を知らない。

言葉がなくともこの関係に確かな証が欲しい。

同じ墓に入りたいとか言ったらきっと笑われる。

貴方の一瞬でも預けてくれるなら構わなかった。

お前の知らない所がないように染め直して。

寂しい思いはさせないと豪語したのが馬鹿みたい。

気まぐれな男の一挙手一投足に振り回されている。

顔を合わせれば口論ばかり 会わなければ気に掛かる。

正反対なのに妙に惹かれ合う不思議な関係。

お前だけだよと嘯く口が憎らしくて掌で塞いだ。

知らない表情に遭遇する度 据わりが悪くて困る。

歳を重ねるほど臆病になる。

壊れた腕時計をいつまでも捨てられずにいる。

猫になって足元に丸くなる妄想が止められない。

切れ長の眼が猫のように細まる様が愛おしい。

別れた日から好きでもない煙草が手放せない。

剥き出しの感情は熱くて苦くて煩わしい。

知られたくない秘密ほど ばれた時の妄想は楽しい。

行き過ぎた献身を求められるほど溺れていった。

傷口を抉られるほど生きていると感じる。

痛みを擦り寄るような恋をした。

あいつが居なくてもそれなりに楽しいけれど。

祈るような目で見られることが何よりも苦痛だった。

夕焼けに染まる金髪をいつか触りたいと願っている。

あなたの初めて、あるいは最後の人になりたかった。

Long

町の中心には鯨の骨格標本のような不思議な建物がある。背骨を両側から支えるアーチが等間隔に並び、大聖堂のような造りをしている。

先生の手のひらに零れた紅い果実はその割れ目から艷めく小さな粒を覗かせており、子供らはめいめい手を伸ばして木の実を口に含んだ。

あの空に飛ばした僕らの反抗分子は白い切先で夏の青を切り裂いて、きっと君はその割れ目に落ちていったんだろう。

紫陽花が色付く季節になると、胸の奥深くに沈めた痛みが鈍く蘇る。

私たちの関係を表すなら黄昏の光が妥当なのだろう。花盛りを過ぎて夕暮れに差し掛かった男に、人生の青い春を謳歌している青年が囚われる時間。

ぱっくりと割れた腹からまだツヤのある肉色が覗いていた。

自分の名前の由来になった曲を数年ぶりに聴いたとき涙が溢れてきた。なぜなのかは分からない。生前一度も聴いたことがない父親の歌声に何処となく似ていた。ひとつ、思い至ってドキリとしたのは、父親の声を殆どもう思い出せないことだ。これは結構堪える。

口のに嘲りの笑い、君の驕慢きょうまんを皆が陰で馬鹿にしている。

おもは蒼ざめ、ふたつの象嵌ぞうがんされた眼だけが輝々ぎらぎらと鮮やかだった。

禁欲主義をてらったところで隠しきれない欲気が表層に滲んでいるのだ。

僕が道端で野垂れ死にしてもいいような屑になる前に君が颯爽と現れて首を掻き切ってくれたなら、やっぱりもう一度惚れ直してしまいそうだ。

ピンク色の肺を汚すため、深く息を吸い込んではニコチンにまみれた煙を吐く。一連の行為を「緩やかな自殺」と呼んだのは確か唯一の兄だった。デリカシーの欠如を体現したような男だが、なかなか洒落たことを言うものだと妙に感心したのを憶えている。

お前は犬だろう? 食い意地のはった、どうしようもない汚い犬だ。下水道で寝起きして、そこらの路傍で野垂れ死んでも誰も気にとめない存在だ。

悪趣味だと思った。試されていると思った。弟は何も語らない。代わりに、常に怯えを含ませていた。それは誘いをかける時に微妙に合わぬ視線であったり、矢継ぎ早に連ねられる言い訳だったりから滲むのだ。彼は何より俺の拒絶を恐れているようだった。

その男は黒猫のようだった。しなやかで気まぐれな黒い獣。ゆらゆらと揺れる尻尾が思わせぶりで、だが気安く触れさせない。男の歳は20代後半だというので、猫と呼ぶにはいささかとうが立つ。しかし黒豹などと例えてやるには、どうにも隠しきれない粗暴さが邪魔だった。

「お寒くなって参りました」前を行く女中の後頭部で乱れ一筋ない黒髪が黄熱灯の光に艷めいているのを、凝と見ていた。

まがきの向こうでは女たちが白いかんばせを涼しげに表へと向けていた。

黒い河の水は月明かりを輝々きらきらと弾き、全てを白へと閉じ込める冬の中でそこだけ生きているようだった。明日の朝にはここも凍ってしまうのだろうか。

欄干から身を乗り出して黒々とした水を見つめれば、早朝に浮かぶ白く膨らんだ自らの肢体がありありと目に浮かぶようだった。そしてその光景は心を安らかにした。

特に意味もなく手首を握って膨らんだ血脈のゆっくりとした響きを感じ取ろうとすれば、目の前で喚く声もくぐもって聴こえる気がした。

一度入ってしまえば夜が更けて湯が水へ変わっても出るのが億劫になるのがバスタブというものだ。ふやけていく指先で水を掻きながら、額の髪を後ろへと掻き上げた。

色褪せたモビールがくるくると回っているのをバスタブの中から眺めていた。割れた硝子から射し込む陽の中で塵が煌めいている。

群れて咲く紅い曼珠沙華の中で一際目立つ白色は「白一点」とでも言うのだろうか。

一昨日の雨ですっかり金木犀の花も落ちてしまって、何処へ行っても香っていたあの花の匂いはもうしなくて、僕だけが一昨日の感傷に取り残されている。

湿った土の匂いは身体の底に眠る創造の記憶にきっと結びついていて、雨の日の地面が濡れ冷やされていくときの匂いを必要以上に嗅いでしまう理由もきっとそのせいだ。

たなごころに蝶を閉じ込めただなんて、なんて可愛らしい表現をする方でしょう。

生まれ変わったら何になりたい? 僕はね、青い蝶になって潮水を飲みに、白い砂浜へ翅を休めに行きたいよ。

翼の名残に接吻して。そしたら飛べるような気がするんだ。十三階から飛んだ彼女もきっとそう思っていたはずだよ。

頭が真っ白で、腹の中は真っ黒で笑えるくらいおめでたい人ね。はばかりさま。誰もあなたみたいな人は好いてはくれないわ。

真っ白の五線譜を指先をなぞったって一音も湧きゃしないよ、僕の中の音楽は枯れてしまった、誰にも授ける言の葉のひとつもありゃしない。

僕は間引かれる側の人間だから君の悩みのひとつも分かりゃしないよ、それでも声を聞きたいと思うのは思い上がった願いなんだろうね。

なんで生きているかなんて分からないよ、死にたくないって浅ましい一心で生にしがみついているだけだからさ。

アスファルトに散り染める花びらを踏みつけていく人々、滲む桃色、ああ今年も春が来た。

空を泳ぐいさなはきっと飛沫を上げながら青色に沈んでいくのだろう、その時顔に吹き付ける潮水は幾ばくか、轟く波音は何処までも。

君の言葉は桎梏しっこくとなって僕を繋ぎ、何かをする気力をすべて奪っていく、抜け殻のような僕に寄り添って世話を焼くのが君の生き甲斐かい?

三年前に深い科に落ちてから罪悪感は薄れるばかり、僕の前頭葉はすっかり泥濘に沈んでいる、まるで死んだように生きていきたい。

獣の息は腐った血肉の匂いがする。人と獣が対等になるには人が野生に還るしかなく、薬で命を生かすこと、着飾ること、職を得て評価されること、サービスの対価にお金を払うこと、繊細な感傷に浸ること……“人が人であるため”の、文化的で健全で人間らしいとされるものは全て、同時に人が野生に還ることを拒むものだ。

すっかり呂律の回らない口元は白痴めいて笑まい、君の婀娜のなにかを媚びる眼差し、僕は全てに知らないふりをしてコップに水を汲む。

裸足で駆けていった校庭の焼けるような砂の熱さ、指の間を抜けていくざらつく土、青い抜けるような空と欅の揺れる枝、プランターに植えられた朝顔の苗。

あれが欲しい、これが欲しいってあんた強請るだけで私に何も与えてくれないじゃない、お生憎さま、その程度のおためごかしに引っかかる女じゃないわ。

××が死んだ。血液内の酸素濃度が下がって血圧が下がり、呼吸が弱くなり、それから全てが止まるのはあっという間だった。

夏休みに入って数日後。幼馴染の部屋で我が物顔で寛いでる俺に、あいつが「あのさぁ、」と切り出した。

寮のルームメイトを起こさないよう明け方部屋に忍び込み、音を立てないよう鍵を締めるのに尽力した。

はくはくと開く口は、必死に広がろうとする肺は、一様に酸素を求めて足掻いた。息が、出来ない。

名前も知らない女をこの胸の裡で何度も何度も殺した。

一週間が経った。騒ぐ世間は美味い餌にありつけたとばかり、電車内の広告も露店の雑誌も一様に毒々しく染まった。

コインを投げても表が出る確率は1/2じゃない。何故ならこの世に存在する賽もコインも、無傷なものなどないから。

あなたの唇が俺の名を紡ぐ度、何故だか切なさに心震える。だから俺は、衝動のままにその首に腕を絡め唇を塞ぐんだ。

ホテルの一室に入ったら、バスルームに消えて行く背中を見送る。余計な言葉は交わさない。

靴の踵が潰されて間抜けな音が廊下に響く。ポケットに突っ込んだ手がガムの包み紙を少し裂いた。

世界には78億344万7993人の人間が存在して、ほら、この一瞬で7970人になった、7975人、81人、あっという間に7987人だ。

「もしも必要ないのなら、」○○は一旦そこで言葉を切った。緊張を紛らわせるかのように渇いた唇をひと舐めして湿らせる。「××の死んだ心臓を、俺にくれないか」

××には心臓が2つあった。何を言っているかって? 言葉通りの意味だ。

気配を感じて右を向くと、思ったより近くに××の顔があって軽く仰け反る。ぬらりと黒い瞳は闇を湛え月光に淡く煌めいた。

終幕こそが美しい。演劇や本はそれを擬似的に教えてくれる。

目はなるべく合わせない事だ。不思議に揺らめく青味がかった緑を見たら、きっと錯覚してしまう。

××は普段から髪や頬に触れたり、指を絡めたり、甘く優しい戯れが好きだ。それは大抵彼の気分であって、特に意味のない行為なんだろう。

「それ」は、ひどく醜悪だった。 「それ」は言うなれば欲望であった。その歳の青年には珍しくもない衝動だったが、「それ」の本来あるべき姿ではなかった。

うだるような暑さに拭っても拭っても噴き出す汗。部屋に籠った熱気を縫って逸らすことの出来ない視線に、一種の強迫観念と言いようのない興奮を覚えた。

鬱蒼としげる森は遠目にも近寄り難く、捻れた木々は日当たりの悪さにいじけてしまった様だった。人の通れる道などもちろんなく、獣道と思われる跡が切れ切れに続いている。

××は身体の節々の鈍い痛みに目を覚ました。冷たい床から身を起こそうとすると、首と手足に繋がれた鎖が音を立てる。

僕は生温い水の中にゆらゆらと漂っていた。そこに時間は無かった。感情も無かった。ただ彼が与える物を僕は吸収していった。

特別なんていらなかった。才能なんて欲しくなかった。十六年かけて築いた小さなテリトリーで、ただただ「普通」でいられたのなら。

ホームルームが終わると共に、収まっていた喧騒が一気に蘇る。清掃のために一斉に机に椅子を上げる音、部活の準備で慌てて教室を飛び出すクラスメイトの声。

人より特に優れているわけでも、劣っていたのでもなかった。僕にとっての平凡はしかし、あの日一瞬で壊されたのだ。

帰り道、コンビニで購入したアイス片手に家に向かっていると××が唐突に言った。彼とは最寄りが同じなのだ。

低く心地の良い声が式辞を述べる。聖堂にて厳かな入学式が行われていた。

壁一面に嵌め込まれたステンドグラスから差し込む光が、椅子に座って教えを請う生徒達の上に艶やかな陰影を投げかける。

入学から二週間が経つと少しずつ新生活にも慣れ始め、同調し合う者、反目し合う者、寄り添う生徒の輪が少しずつ形作られていく。

ブラインドの隙間から差す光が空中を舞う埃をキラキラと輝かせる。一歩外に出れば殺人レベルの暑さに見舞われるが、ガラクタばかりの割りに落ち着いた店内は快適を保っていた。

カチャカチャと食器の擦れる音、鼻腔をくすぐる食べ物の香り。パタパタと誰かの足音。それはだんだんと大きくなって、ガチャリと扉が開いた。

退屈で教室の窓から中庭を眺めていた。庭師がいるのだろう。丁寧に手を入れられた花壇は鮮やかな色彩を誇っていて、見ているだけで甘い香りが鼻腔を掠めた気がした。

「……×、…××………××××!」「っ、はい!」物思いに耽っているうちに当てられたのか、教師の怒気を含んだ声に現実に引き戻された。

僕は昔から冷めた子供だった。どれだけ無駄な力を使わず物事をこなせるか、そんなことに全力になる奴だったのだ。

重厚な絨毯が足音を吸収する。かそけき灯に照らされて、回廊に立ち並ぶ石像達が不気味な陰影に浮かび上がった。

天井まである大きな窓から足元へと透徹した月光が伸びていた。季秋漂う中庭も、今は冬の黒々しい河のような晦闇かいあんに沈黙している。

扉を押し開ければ冷たい夜気が頬に触れ、銀白の月光に染まった庭は秋めくというより、異界への境界を曖昧にさせるような面妖みょうな気を含んでいた。

近づくほど大きくなる噴水の音を背景に、彼は花壇に咲く薔薇に目を留めた。まるで生を謳歌するかのように大輪の花が微風に揺れる。

昔からこちらを伺うような視線には慣れているつもりだ。そこに込められているのは無責任な関心と少しの畏怖。

「あいつは悪魔の子だ」初めに言ったのは誰だったか。噂は尾ひれを付けて広まり、俺と遊ぶ子供は一人もいなくなった。

窓の外では深紅や白の薔薇が咲き誇り、木漏れ日が斑に地を染める。凍てつく冬を目の前に命を謳歌する草花には目もくれず、教室では単調な日常が繰り返されていた。

子供らしさを捨てることを強いられ、まさにこれから同じ形に思考を刈り取られようという生徒たちは、この狭い空間でただ身を焦がしていた。

神秘的な物語も授業では文法がどうの、動詞の変化形がどうのとつつき回されて色褪せてしまった。××は欠伸を噛み殺して頬杖をつき、斜め前の席を見やった。

洋燈ランプの炎がたまに爆ぜる音とページをめくる音だけが部屋の中に響いていた。時計の針が深夜一時を指そうとしていた。

橙から黄、黄から白へと、その身を尖らせて沖天へと昇る月が石畳を這うステンドグラスの色合いをゆっくりと変えながら、深々と夜を積もらせていった。

噴水のへりに腰掛け、子供のように足をぶらぶらと揺らしている。彼の細い栗色の髪が月明かりに透けて金色に光っていた。

あの朝、遠くから見つめた孔雀色が僕を真っ直ぐ捕らえて離さない。ちらちらと細かい光が踊る。瞳孔の周りは深い蒼翠に縁取られ、瞳の外側に向かって放射状に淡く染まる翡翠色。

鋭い蹴りが脇腹に入り、受け身を取り損ねた俺はあえなく地面に沈む。独特の匂いの染み付いた白いタイルに、鼻から垂れた血が点々と散った。

子供が一人遊んでいる。三才ほどの年で、先ほどから頭の回りを飛び回る蝶に興味を惹かれた様子だった。

昔寝た女が面白い咄をした。恋愛は砂時計に似ている。頭が空になるにつれて心は満たされていく。まるで落ちゆく砂が片方の空間しか満たせないみたいに。

綺麗な物は遠くにあるから綺麗ってどこかのポップソングでも歌ってるじゃん? 見ているだけで満足出来なくなった時点で、君はあらゆる奴に負けてんだよ。

温かいのに少し切なくてドロっとしていて、居心地悪くゆっくり胸を締め付けてくるような……この感情が何か、あんたなら分かる?

彼の手が頬に添えられる。ゆっくりと胸を締め付ける“何か”は友愛とも、優しさとも違う。それはもっと仄暗く、パレットの絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせたような……得体の知れないもの。

私たちがまだ無知だった頃、人智を超えた存在を愛し愛されていたときが確かにあったのだ。そして、苦しみを与えられて初めて知った、「彼」を畏怖することを。

目の前で何か喚き立てる声を聴き流しながら、思考と感覚がゆっくりと乖離していくのを感じていた。

張り出したバルコニーから月光に染められた薔薇園が黒と銀に縁取られる様を見るともなしに眺める。幻想的な夜は彼の毛羽立った心を静めてくれる。

××の右手は、華奢なデザインのグラスをくるくると悪戯に弄んだ。その度にとろりとした琥珀色の液体が波打ったが、彼の関心は全く別の場所にあるようだった。

静かな靴音が近づき、背中に声が掛かる。「少しは愉しんでる?」人の気配に振り向き掛けた××は、声の主に気付いて固まった。

とある街の奥まった中心部、寂れた商店街の一角に“○○”という店があった。とは言っても申し訳程度に下げられた看板に気付く人は滅多にいない。

降り注ぐ雨が窓を洗う。久しく乾いたままだった大地が水を欲しているかのように、強い風雨が止む気配はなかった。刹那一筋の稲妻が轟き、薄暗い室内を鋭く照らした。

お前意外と口悪いのなと呆れたように笑われるのが好きだった。

夜の街に消える母を引き止めたくて、真っ赤な口紅を残らず折っておくような子供だった。

ポップソングを焼き直したような言葉だけが上滑りするようだ。

拝啓××さま 僕が真面目くさって手紙をしたためるなんて意外に思うでしょうね。

告白する気概などないと高を括っていたから、告げられた瞬間逃げそびれたと思った。

まさか庇護すべき相手に牙を剥かれるなんて考えもしなかった。

いじらしい態度で隙をつくられると、何時ものように打てば響く返事ができなくて困る。

深みに嵌るのは不味いと警戒するほど、気づけば視線はその男に吸い寄せられる。

過激な歌ばかり聴き好んでいるくせに、いざ口論で言いたい事の一つも形にできない。

「頭沸いてんじゃねぇの」と投げた台詞に自分でダメージを受けた。

名残惜しげに鎖骨にかじりつく馬鹿を、容赦なく引き剥がす。

名前を呼ばれたような気がして、心地よい微睡みから引き戻される。

見上げてくる瞳が澄んでいて、何故か責められているようでイラついた。

「頭の悪いセッ○スがしたい気分なんだよ」と身も蓋もないことを言う。

気まぐれに擦り寄って来たくせに、こちらから手を伸ばせばするりと抜け出ていく。

「酒飲む時もお行儀いいのな」と褒めたら、なぜか拗ねられた。

疲れた体を湯船に沈めたものの、今度は出るのが億劫になってしまった。

知らないものを知らないと言いきれる素直さが羨ましかった。

笑えない冗談と受け流そうとしたら、なぜか声が震えて焦った。

感情を読み取られまいとするかのように、煙草に火をつける彼の口許をぼうと見る。

探り当てたケースには煙草が一本もなくて思わず舌打ちした。

体の隅々まで明け渡してしまうと、こんな事まで許せる自分に驚いた。

彼岸花は血を吸って赤くなるのだと子供の頃に教えられた。

訃報が届いた時、ラブホテルで行きずりの男と寝たばかりだった。

ひとつが満たされれば次が出てきて、飽きるということを知らない。

酔ってとろんとした瞳で見られると、仕舞い込んだ願望が暴れそうになる。

別にお前じゃなくてもなどと平気で嘯くのがおかしかった。

染み込んだ香水を煙草の臭いで誤魔化せると信じ切っている、その単純さが憎らしい。

潮風に奪われる瞳の水分を、ことさらゆっくり瞬きする動作で取り戻そうとした。

肉体に邪魔されず融け合うなんて甘美な妄想を止められずにいる。

貪欲な身体と引け腰な感情が全く噛み合わなくて、少し笑った。

いつの間にか部屋に増える私物が嬉しくて堪らなかった。

冷めきった味噌汁を手持ち無沙汰にくるくる掻き混ぜる。

愛されている自信がないとか、情けない悩みを自分が抱くとは思わなかった。

「願望を押し付けて美化するのも大概にしろ」が最後の会話だった。

不在票を受け取ると、あいつの家に置いた私物を取りに行く口実を失ったことを知った。

顔を思い出せないほど月日が経ったが、あの視線や縋るような目は忘れることができない。

煮詰めた果実のような声と言ったら、詩人かよと鼻で笑われた。

可愛くない奴と吐き捨てたら、お前がなと舌打ちが返ってきた。

大して親しくもない泥酔した知人なんて、お荷物以外の何でもない。

激情も度を過ぎれば一周まわって何も感じなくなるのかと、この歳にして知った。

最近は服に染み付いた煙草の臭いを消すのも面倒になってしまった。

天邪鬼も過ぎればただの我儘だと、気づいたのがあまりに遅かった。

病人は寝てろと真面目な調子で布団に押し込まれたのが、今更常識人気取りかと癪に障った。

意外に器用な指先は慣れた様子で刃物を繰って、林檎の上でしゃくりと赤い蛇を作る。

付き合う時、半人前同士が集まれば一人前になるねとよく分からない口説き文句を言われた。

雨に混じるよく知った匂いを気づかれないように吸い込んだ。

投げつけられた言葉よりも、冷めきった二人分の食事に胸が痛んだ。

あいつの靴先が砂利を抉る様を見るともなしに眺めていた。

還る場所の異なる二人が互いの止まり木になりたがった。

くだらないと吐き捨てた「恋人らしい事」にどうしようもなく憧れている。

愛だの恋だの、互いの汚ねえ所さらけ出してなんぼだろ。

薄暗い過去を背負い、背徳に微笑んでいる妄想がしっくりくるような男だった。

羨望も焦燥も劣情もひっくるめて愛とか言っちゃうチープな恋愛が俺達にはお似合いだ。

お前はひとりじゃ何も出来ないねと構われるほど嬉しかった。

会えない年数分変わっていくのなら、今夜後ろからそっと首を絞めてしまいたかった。

もし俺が調子こき出したら、蹴飛ばして路地裏にでも捨て置いてくれ。

可愛げのひとつも魅せられないくせに、よくまあ恥ずかしげなく不平ばかり口にできるよな。

知ったような口を利くくせ、想いのひとつも背負う覚悟はないんだな。

疲れた顔で「もう終わりにしたい」と言われたのに、何と返せばいいのか分からない。

傷痕の一つでも残してやればよかったと、今さら嘆いたところで遅いけれど。

対等である筈なのに、あんたに逆らえない自分が情けない。

都合のいい存在として遊ばれたくても、鼻につく恋情が隠しきれなかった。

あんたの罪悪感を煽るため、とうに治った後遺症が辛いなどと平気で嘯く。

「大丈夫」と線引きされてしまうと踏み込む勇気がたちまち消えていく。

貴方といると自分の中のみずみずしい感情が吸い尽くされる。

外見を褒められると、他に言及する所がないのかと穿った見方をしてしまう自分が嫌だ。

そんなに柔らかい肌が恋しいなら、さっさと女の所へ行けばいい。

面倒そうに生返事されると、掻き集めた気力が途端に離散する。

引き止められることを期待して家を飛び出たから、肩透かしを食らって靴の踵を踏み潰す。

差し出された手は信用できないと拒むくせ「愛されたい」と洩らす身勝手さに反吐が出る。

男の趣味が致命的なあんたに「生き様が素人」とか扱き下ろされたくない。

全然褒めていない声音で「さすがだわ」と吐かれると、胸の痛みが誤魔化せない。

狡猾さを無垢で隠したあなたは、今夜も完璧な装いで狩りをする。

プライドに躓いて、離別を先送る泣き言のひとつも出てこない。

あなたを手中に収めた後も満たされない承認欲求が疼く。

都合よく掌で転がされるのに愛着を抱き始めたので、戻れないところまで来てしまったんだろう。

人の痛みが分かるなどとしたり顔で語るに落ちる。ご都合主義の鈍感さで随分生きやすそうですね。

言い訳でも並べればいいものを、プライドが邪魔をして誤解を解く術がない。

裏切りは許せないけれど、あんたを手放すには掛けた時間と労力が重すぎた。

家から蹴り出され、手持ちもないので今夜は何処にも居場所がない。

「愛してる」で全てを許されたい貴方の小賢しさと、それに依存している自分が嫌いだ。

爛れた関係から這い上がる可能性を聞いたら「ゼロに何掛けてもゼロだろ」と返ってきて唇を噛んだ。

友人ですと紹介される度、どうしようもない焦燥をあなたに打ち砕いて欲しいと願う。

行く先々で粉をかけて廻るあんたの首根っこを掴み、口に噛み付く妄想で自分を慰める。

人間の才能はないけれど、もしするなら後追いだけは失敗しない気がする。

まともな会話も無く、お前が何考えてるかなんて1ミリだって分かるはずないじゃないか。

虚栄心ばかり頭でっかちなお前のため、理想の恋人を務めるのもそろそろ虚しくなってきた。

約束も守れない奴が、たまの失敗を鬼の首を取ったように責め立てんなよ。

僕には貴方が一番でも、貴方にとっては大勢の中の一人でしかない。

ふたり暮しも楽しかったのは二ヶ月程度で、今は部屋に横たわった停滞感で息が詰まる。

罪悪感に苛まれ色々買い与えられても、本当に欲しいものは金じゃ手に入らない。

後暗いことは隠そうとするほどドツボに嵌るって、知らないなんておめでたい奴。

罪悪感を煽れば思い通りになるのだと、幼稚にも信じ続けてしっぺ返しを食らってほしい。

穢された体ではもう触れる資格もないか問うたら「そんな事ないよ」の答えを裏切る震えた手。

匂い立つ花盛りに群がる蝶を払っても払ってもきりがない。

愛があれば何をしても免罪符とか、お手軽感動ストーリーかよ 反吐が出ら。

あんたと出会い改心したところで過去の所業は消えないので、いつか対価を支払う日を憂鬱に思う。

無下にされた恋心と、行き場を失った言葉たちにせめて墓でも建ててやりたい。

血の通わない暴言ばかり吐くので、その腹をかっさばいて艶やかな肉色を確かめたい。

あんたの鉄面皮を砕けるなら、いくらでも一過性の嗜虐に身を任せたい。

今さら無欲を気取ってみたところで、自分のものにならない薬指から目が離せない。

金の切れ目が縁の切れ目らしいので、蜜を吸わせる間に甲斐性なしの退路を塞ぐ。

好意を向けられると、誰であれ気持ち悪いと思ってしまうのを止められない。

今生の貴方は運命じゃなかった人、ならば来世来世また来世に期待しよう。

身の程をわきまえろと牽制され、瘡蓋を剥がすような恋愛あそびしか知らない過去を恨む。

君が好きなのは愛される自身だろうけど、狡い僕はわざわざ教えてやらない。

背徳感でさえ扇情のうちが華、鬱々として今さら何処へも行けないな。

泣けりゃ名作とでも勘違いしてる所とか、君自身の言葉を借りれば「短絡的」。

涼しい顔で「好きだ」などと騙るので、寄る辺もない劣等感で一人相撲する。

近づき過ぎて幻滅するより、理想のあなたを見たいように愛でていたい。

同一化なんて見果てぬ夢を見れど、肉体はもちろん思考でさえ距離を埋められない。

試し試されの関係は、横断歩道の白線だけ踏むように猜疑と好奇で忙しない。

自分の機嫌も取れない同士の恋愛は、二人分の肥えた自己愛で生臭い。

口先ばかり達者なあんたは、悪趣味な自己満足の上でワルツでも踊ってろ。

探り合いを小出しにするような距離感じゃ、ふいの沈黙がまだ重い。

なかなか始まらない話に手持ち無沙汰で、普段見向きもしない埃を拭うなどしてみる。

手遊びにラブホのライターを弄りながら、写真の一枚でも撮っておけば良かったと歯痒く思う。

そんなに他人に興味がないなら、水面に映った自分にでも見惚れてろ。

××年前のアルバムを形見に貰っても、出会う前のあなたを今更知ったところで虚しいだけだ。

僕に欠片も依存せず、楽しげに生きるあなたを妬ましく思う。

手が届かないほど魅力的とはよく言うもので、不知火を掴むような恋ばかりしている。

人生最後の日だったらなどと、お膳立てがなけりゃ優しく出来ない意気地無し。

嫌な予感が拭えなくて、無意味に喋り倒すのを止められない。

我慢できず覗いた横顔があまりに無機質で、玉砕を確信した。

一番近くで見ていたのに、交わらない価値観で隔たるたびに遣る瀬ない。

変わっていく様を傍観するくらいなら、よく知る貴方のままで虚抜うろぬきたい。

あなたから初めて貰ったネクタイピンをいつまでも棄てられずいる。

草木も眠る丑三つ時、会えない夜にあなたが安らかであればと願う。

「優しい人だね」という褒め言葉が、猫かぶりな僕には皮肉にも嬉しかった。

理想と現実の齟齬は錆び付くばかりで、きっと今更分かり合えないんだろう。

一瞬のうち濡れそぼつ背を見送って拒まれた傘に視線を落とした。

いくら焦がれようと、お前にとっては頭数合わせしか能がない緩衝材程度なんだろう。

お前が望めば今夜道連れになったって構いやしないけれど、きっとそんな覚悟もないのだろう。

焦げ付くような眼差しを呉れるなら、髪でもどこでも触れてくれれば良かったのに。

期待するほど傷つくと知れば、後ろ姿ばかり視線で追い縋るようになった。

過剰に甘やかすほど、自分にはまだ存在意義があるようで嬉しかった。

何処まで許されるのか知りたくて、だんだんと度の越えた献身を求めていった。

別れてから貴方が吸い始めた煙草の銘柄に意味を探してしまう。

嘘の質量ひとつ釣り合わない俺たちに、重なる感情などある筈がない。

屈折した恋情は、僕の気まぐれで右往左往する君を見て満たされる。

ささやかな肯定感を欲しても、フリック一つでまた使い捨てにされるのだろう。

僕は何故、あんな人に褒められようと思って必死に生きてきたのだろう。