悠遠の時を疾駆せよ
ほどける肢体
雷霆轟く
星霜降り積もりて
曖昧になりゆく影の輪郭
心臓に根ざした曼珠沙華の花
太古の昔、竜の言葉を解したころ
無花果の実がひとつ腐り落ちるとき
完熟した寄る辺なさを胸の裡に飼っている
かつて神だった獣
冴えかかった赤錆色の街が夕闇に沈みゆく
魂の所在という終わらぬ究理の旅
神の粘土を宿したわたしの体躯
氷輪が静寂にくちづけるとき
つつましき磧礫崩しの戯び
当所なく常闇を彷徨う
泥濘に沈むさかな
死がわたしの頭をゆっくりと撫でるとき、
わたしは赤銅色のため息をひとつ、長くしずしずと吐いて
眠るように息を引き取ったのです。
そうです、まるで百合の花の活けられた寝室で
揺り籠にねむる赤子のような安らかさで、
わたしは永久に瞳を閉じたのです
浄化される灰色の環状線
満ちゆく魂の介在
風花舞い散りて
漁火を宿した子ども
玉緒に火をつける
燃ゆる鬼灯の焔
浪費する不穏な第六感
まぶたの裏に燈る現世
人の子よ、永劫土に還れ
かつて神だった獣
星霜:年月
曼珠沙華:彼岸花
氷輪:氷のように冷たく輝く月
磧礫:河原の石
風花:晴れた日、風が吹き出す前などに舞うように降る粉雪
漁火:魚を誘き寄せるためにたく火
玉緒:命
現世:この世