眠りにいざなう肉薄の火よ

月蝕のひかりでつくったナイフ

痕かたもなく噛み砕くゆらぎ

はだかの花茎がなやましい

眠りにいざなう肉薄の火よ

わたしの白骨を口移したひと

私のバスタブは満ち足りた王国

たましいをとろかすような祈り方

まぶたの上のメダイユは冷たいまま

無垢めいて狂ってしまえる迷い子たち

もう今際の闇はあなたしか知らない

何もかもを押し流してしまう退屈

この翅は背徳で色づくのだから

半分は天使の血が流れている

いつまでも消えない靴ずれ

純潔の燃え殻を撒いてしまう

かなしい回帰に目を閉じていて

星屑さえ醜い姿かたちに擬態する夜

うつくしくゆれる炎は嘘のいろ

柘榴石にも似たリキュールの硬度

かたくなに五線譜のかたちをかざしつつ

眠りにいざなう肉薄の火よ