透きとおる微睡の光さす書架

「零れたミルクで描く背徳」

あどけない眠りに足首をとらわれた

ひるなかの夜光虫みたいに変容する

まばたきひとつ閉じこめる怜悧

ふぞろいな脈拍を傷付けた

なみなみと結べない裂傷

「ありふれた青を触ってあげようか」

潮騒に溶け残る「さよなら」の音

煮崩れそうな白地図を探している

忘却を知らなすぎた裸足のうら

凍えたまま散らばる泥濘

ねむたげな色彩の明滅

「透きとおる微睡の光さす書架」

ざらざらの心臓に触れる手つき

錆びれた凍土でこだまする春雷

またたきの温度と解けない暗号

紛れもない夜の結び目で逃避行

なまぬるい眦に押し当てた硝子

「花曇りの車窓から溶けゆく焦熱の彩度」

花片ひとつままならない有限性

たましいの欠落に息もできない

かじかむ指さきでまさぐる六月

ぼんやりと横たわる灰被りの翅

ふたりのあいだに崩れゆく系譜

「額に捧ぐしるしを摘み取れずにいる」

シナプスの遊走とまぶしい不毛だけ

最果てと偽り電子の海で褪せていく

窒息しそうな亡霊の街と海鳴り

ふたつめの奈落で待ち合わせ

降りつもる火種に溺れる

「灰のなかの星座はやわらかい」

とけかけた虹彩を呑み込んだ

しらじらと稚拙なままだった

不揃いなやさしさを奪われた

あの夏の欠落と物語の終わり

シーツの波間で追いかけっこ

透きとおる微睡の光さす書架

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