────氷雨を食む────

その蒼ざめたおも象嵌ぞうがんされた澄んだ目

かいなから溢れし石楠花しゃくなげに鼻先をうずめる

突兀とっこつたる白い塔と螺旋のきざはし

つやけく紅き実をたなごころに閉じ込める

輪をもがれた天使は風に唄う

かさを帯びたる月光のごとく

遠方おちかたよりその名を呼べり

言の葉の紫水晶を摘む

憂愁と倦怠の六畳半

こうべを垂れ指を組む

睫毛を伝いし雫

茫洋たる逃避

野辺のべの草花

夜半よわの宴

波の

現実ありよう

なぎさ

花葬

柘榴石ガーネット

人待ち顔

氷雨ひさめを食む

幾年いくとせ君を待つ

人影に誰何すいかする

君の心に炎をそそ

怯懦きょうだに濡れた君の瞳

燐光を放つ明星ほしを射る

少女と青年が共在する瞳

鶯の諸声もろごえ、草花のさざめき

暮れ落つ秋のに目を眇める

暗い衝迫と身を裂くような葛藤

白百合に結ばれし黒い繻子の切れ

仰臥ぎょうがするその顎を指先でなぞりたい

黒い棺に横たわり少女おとめの笑みを湛えて

稜線にわずかに残った夕日の切れ端

君の頬で最後の黄昏がひと筋輝く

羽をもがれた天使に讃歌を贈る

黄色いの葉が枝先で震える

夜の香りに隠れ背徳に耽る

しぶきをあげゆくいさなの尾

かわらざる君のまなざし

すみれまいはじらいて

瀬音に耳を澄ます

朝もやに溶ける

波路なみじを越えて

両人ふたり樹翳こかげ

ある午後

大理石なめいし

挽歌ばんか

花雫

環状線

無明むみょうの闇

カトラリー

二重螺旋の鎖

夜霧立ちめて

未生みしょうの命を宿しかいご

やがて別れゆく運命さだめ

月桂樹のかんむりをいただく

再び帰るときはあらじな

森の梢に降りかかる雪の

月朧なる夜気に包まれたなら

瀟洒しょうしゃなバルコニーを這う常春藤きずた

昼の光の消え去ろうとする黄昏時

吹きすさ雨中うちゅう跳泥はねを飛ばして走る

白色の夾竹桃で淹れた琥珀を飲み干す

氷雨を食む

突兀とっこつたる:高くそびえる

きざはし:階段

かさ:光の輪。ときどき太陽を囲うようにできるドーナツ形の光。また、その現象。ハロ

誰何すいかする:呼び咎める

怯懦きょうだ:意気地がない

諸声もろごえ:様々な声

繻子しゅす:サテン

あらじ:そうではあるまい

瀟洒しょうしゃ:すっきりとしゃれている様子