Number of Characters

03

花淡牙かえんげ

落赤翼らくせきよく

劣青石れつじょうせき

鯨の鱗

銀星詩

死想記

至る夏

去ぬ冬

夏化粧

水樹晶

法螺舟

牡丹帯

嫌気睡

消燈月

渡し橋

角夜香

踊る爪

捧ぐ色

溶解色

聲の死

山鳴り

王の死

水銀灯

厄日紀

騒ぐ手

雪の轍

04

硝子の涙

星を紡ぐ

氷樹の星

死の門番

紅をさす

八月の牙

蠍座の炎

魂の介在

黎明流星

輪転徽章

硝煙の先

星の寿命

遍く原始

雪花瑠璃

機微遊戯

心象三態

幽世憂虞

私信偏愛

進路融解

曇る象牙

凍りのつるぎ

忘却の園

Nの遍在

蛹の深淵

眠りの殿

惑いの生

宵闇迫る

夢の狭間

渚に遊ぶ

泡色の街

05

悪たる所以

白線を踏む

魂のつま先

軽骨が鳴る

明星の寿命

奇術師の手

花氷を織る

破線の切手

白線上の波

双頭の背中

俎上の献身

静寂の幻影

開かずの門

つま先の闇

燃え盛る罰

犬吠え大義

Nを指す森

減らぬ残基

白痕に差す

砂礫の桎梏

揺らぐ肌質きじ

去ぬる明星ほし

艶めく汚点

偽りの真明

揺らぐ照応

下界の肉声

春暁に飽く

晩餐者たち

そばだつ恣意性

創をつくる

花海の末裔

片翼の楽園

かしずく暁

真っ白な嘘

海辺の誘惑

06

人斬りの美学

綿々たる血脈

タナトスの踵

暗鳴する輪廻

もたげる猜疑

烟る喧噪の目

成層圏に告ぐ

鈍足最終列車

冬の首を曝せ

果敢なき演算

醜さをつつむ

うそぶく淡い

晩霜に名乗る

破鏡に満ちる

ひそかに倦む

届かない祈り

一片のミルク

展翅板の思想

水無川を泳ぐ

異能の純文学

人殺しの定理

右頬の無秩序

虹かかる渓谷

境界なき肉塊

孵化する悪意

仮称、艶めく

神聖さの抽出

裁きの夜更け

瞬間のすべて

不揃いな比翼

通じ合う右手

尾を噛み合う

けだるい体温

隘路より告ぐ

みだらな横顔

俎上の謎解き

肉薄の三秒間

めざめの寝息

涙色に溶けて

海に沈む星々

宵色に染まる

07

月下に愛を抱け

花を散らす粧い

交錯する目配せ

頸椎をたどる指

土星の知恵の輪

嘯く夜の呼び方

シーツの海鳴り

夜毎にひしめく

たまゆらの水泡

研ぎ澄ます美学

化石に肉づけよ

まつられる奇譚

射止める発火点

あかつきを呑む

透明な吐息だけ

ひたむきな略奪

立ちすくむ灯台

赤銅いろの純真

右心室の焼き印

燐光のしつけ糸

マルクスの眷属

拝啓墓の底より

油をそそぐ饒舌

左心房の展開図

ニコラスの饗宴

光芒を射止める

はしたない裸足

細胞に宿る記憶

72時間の攻防

なまくらな盲目

四隅に宿る宇宙

定まらない薬指

心臓に芽吹く蝶

縷々として黎明

空白を埋める白

昔日に火を灯す

地獄まで道連れ

エメラルド都市

水面みなもに焦がれて

08

星の最期と猜疑心

凍てつく脈動に欲

砕け散る星の音色

知らないくちづけ

隔壁に火をつける

洗い流せない呪い

晒せないメダイユ

たましいの黄金比

がらんどうの水槽

誰もしらない細部

明けない夜の構造

追憶と妄想の境界

やがて重なる鼓動

まだらに響く琥珀

もう燈らない灯台

さすらいの花屋敷

初めから黒でいい

麝香猫の揺りかご

しるしをください

永遠に醒めない病

繰り返す夜々の話

翠の眼の化けもの

かじかむ人差し指

ためらうくちづけ

ひと口で平らげた

てのひらの星くず

たった五分の贖い

背中合わせの孤独

灰色に紅を垂らす

南より便りふたつ

スクランブル憂鬱

ラズベリーソルベ

09

満天の鎖で花を編む

綱渡りのカノープス

結末には肉片になる

抱えきれない着火点

ねむれない夜のこと

やがて消えゆく水滴

不死の瞳は翡翠いろ

今は思い出せぬ痛み

未明にゆらぐ廃都市

栄華の褪せた展示室

地獄まで続く薔薇園

ゆくてには愛がある

二度と還らない救済

今日は鱗粉が降る夜

埋まらない数センチ

枯れおちた花に祈る

ふたり分のしがらみ

劣等をほしいままに

あなたの名前の神秘

呼気をたしかめる掌

神さまでさえ祈る夜

連なる夜の波間より

展翅板に刻を留める

灰色の百合を燃やせ

君しか知らない鼓動

にせものの嘘は何色

きみの獣性をあいす

雨のやわらぐ夢の跡

みずからの牙を折る

失くした右目が痛む

君の影に棲まう面影

波止場、物憂い夜半よわ

10

修惑しゅわくのまにまに零れ花

唇ひとつじゃ誓えない

踏青とうせいをふちどる創あと

歳月をって月とする

無貌の楽園で夜に遊べ

かつて天使だった肉片

やわい爪で傷付けたい

パーマネント・ブルー

この両手にはあり余る

散々かき回しておいて

もとより奪われた異心

浅き眩暈に沈んでいく

あなたに夏を奪われた

右頬に刻まれた喪失感

一寸の闇を嗅ぎ分ける

自ら掘った穴に埋まる

レディ・メイドの憂鬱

コバルトブルーの祈り

誰よりも愛おしい贋作

凪いだままで涙が出る

累々と満ちていく絶望

月の扉は開いているか

やわいままで夢を見る

神の涙が凍土をとかす

夜がもつれて朝になる

烟る狂騒に吼えていけ

蝶々結びに名を連ねる

儚いと烙印を押される

残り香の推移をたどる

夜の息吹に鴉がとまる

一昨日のほむらをいだ

藍青らんせいをやどす神の吐息

末路まで呪われた安寧

今夜ばかりは傍にいて

さくらは青い夢をみる

野辺の草花より烈しい

地獄の月はいつも円い

肉体の介在を恐れる夜

背中の裂傷に口づける

あなたの眼差しが怖い

耳をすます潮騒のおと

輪郭のやわらぐ傷あと

この結晶には棘がある

まるまると肥えた欲望

わたしの喉もとの硬骨

つめたい指さきの記憶

秘密めいた指先あそび

世界をまたぐ鬼ごっこ

ラッキーセブンスター

明日24時に待っていて

11

コインロッカーと花隠し

さりとて融解する円周率

夜の結び目にくちづけた

棘だらけの耳たぶ携えて

炭酸の抜けたような声音

月の潮を泳いでいきたい

迷えるたましいの染色体

消耗品の名など呼べない

ここには思考も花もない

あなたと私の最大公約数

結ばれぬまま散っていく

形容できない七つのおと

かつて抒情詩だった世界

不夜にしか居場所がない

サファイアを縫いとめる

明日は闇に色めいていく

いびつな春を縫いとめる

なんにもなれないひかり

季節の淵より鈴を鳴らす

今日は右頬が欠けている

やがては無名の化けもの

幾星霜、漕ぎゆくままの

二度とは満ちない可換体

しらじらと明けていく夜

海鳴りさえ白けていく街

欠けゆく右手のシグナル

あと一粒の痛みしかない

名もなき朝と夜の腑分け

いびつな夢に鍵をかける

黄金のゆめに蜜をかけて

累月のたもとより紐解く

魂の三分の一をください

ほろほろと煮崩れる諦念

名も知らぬ花が賛美する

明日のためのエチュード

剥落する天使だった記憶

やわらぐ薬指に毒を刺す

あるいは遠い創造の記憶

この泥濘で傷を舐め合う

あなたの汚いうつくしさ

彼はやわらぐ夜の支配者

指先をあなた色に染めて

毒舌的エクスペリエンス

12

無垢を模した羞らいを食む

天使になれない肉塊のこと

怪物をねむらせてしまう毒

夜の閑静をひとみに刻もう

神さまの血潮は透明らしい

ぼくの真名は誰もしらない

まばたきひとつで殺す精神

錆びゆく明日を憂いてみよ

居場所をなくした心の在処

白でも黒でも生きられない

ペトリコールを引き連れて

たましいの輝きごとの啓示

ほんの靴先のディストピア

正気のまま置いて行かれた

冴え冴えした瑠璃を摘まむ

ちだまりに沈む明日の明星

ただよう孤舟が涙でみちる

うちがわから透けている嘘

わたしを構築する五つの欲

まぶたに宿るひかりの粒子

たましいは再生不可のもの

春雷に撃たれて真名を戴く

船着き場には私の席がない

クローゼットに満たす安堵

てんしさまも夜はねむたい

隘路には諦めが満ちている

憶えていよう灰になるまで

ぼくの血潮には火がやどる

君のために永遠になりたい

君の落としてしまった記憶

この祈りは月まで届かない

もう思い出せないかの名前

電子レンジで温めた言の葉

この謎かけは空っぽのまま

不平等な明日を駆けていく

この街に沈む夕陽は正しい

新しい明日を盗んでしまえ

いばらの冠をあげましょう

残り火に腕を翳して彩った

オフィーリアと余暇の微睡

13

たおやかなまま溺るるはらわた

紅き穂先で描くさびしい一線

深窓の匂いと何も掴めない手

水溶性の静謐を綴じこめる瞳

死の国の王座は千年空のまま

あなたの瞼に青が透けていた

濃紫の国では陽はのぼらない

夜溜まりでは吐息は凍らない

あなたの醜い切っ先を愛そう

この終幕は残酷だから美しい

しょせんは泥から生まれた子

心臓にルージュで別離を綴る

ひび割れた体躯を引きずって

ぐらぐらしながら生きている

かたちのないまま死んでいく

あなたの言の葉をかがり縫う

紙を泳ぎ文字を食べるさかな

あなたの呼気に降りつもる海

飽き性なかみさまが創った星

海底にあしあとを残していけ

昨日に刻まれたままの消失点

儚いまま散っていくよろこび

エメラルドの羽はひどく脆い

メロウなダンスじゃ踊れない

舞い散る灰を編んで夜にした

肋骨のかけらから春が芽吹く

透きとおる最果てに届きそう

とどめなく痛みが引き攣れる

捨て台詞が喉仏にこだまする

たましいの縫合あとは何色か

八月の記憶ばかりを忍ばせた

眠れる街に深々と気配が降る

はじまりの泥濘にて、幕開け

夜明けを飼っている眼裏にて

魂のじっとしていられない夜

残響さえ昨日を憶えていない

未明の波打ち際に忘れてきた

明日の感傷は檸檬色のひかり

君の忘れてしまった花の名前

ピジョン・ブラッドの類似品

紺青だけを食んで眠りにつく

曇りないまなこで謎をかける

彷徨ううちに今日を失くした

つま先ではらわたに線を引く

この夜に惑ったまま帰れない

お前の燃える瞳を星にしたい

14

知らなすぎた罪業たずさえはなむけ

殉なる啓示にまみれた髪の香り

夕暮れにはまやかしも骨も遠い

レプリカさえ艶めく午前二時半

臆病者の手のひらで孵る幸福論

綾なす創生には白皙も口を噤む

恋路に溺れやがて錆ゆく終焉を

揺れる影法師を捲る指のはなし

寝台の熱伝導率と白百合の吐息

白波のまるい輪郭と秘めた体温

からっぽの匣で熟れていく時間

眦にこびり付いてきらめく純情

黄金の果実を夢みる明日の泡沫

夜の嗚咽は誰がなぐさめるのか

この泥濘はひどく生ぬるいから

ケルキスの錨はくちづけで眠る

ガラス張りの心室にかがやく紅

ちょっと窮屈な窓枠に腰かけて

心臓に埋める造花を選びなさい

フラスコの底から結末を考える

ここは限りなく透明な円環の上

あなたには決して届かない咆哮

あまりにも淋しいゆくえ知らず

三センチくらい浮いているひと

誰にも知られず腐っていく楽園

季節の境目には星が流れてくる

幸福は箱のなかで熟れていくか

けものみちを通って異形になる

あなたの哀しみを匿ってあげる

あなたを埋める穴を掘っている

月の見えない夜は惑ってしまう

ぼくの心臓には蔦が絡んでいる

虚実の放つひかりはひどく弱い

あなたの嘘は赤銅色のまま沈む

飛べた頃の記憶を刈り取られた

仕方がないものだけを愛でる指

何ひとつ正しさなど知らぬまま

額に葉っぱを乗せて生きている

今宵の秘密にはいまだ手つかず

フリックひとつで消される存在

あなたの瞳に混じるジャムの色

檸檬が爆弾なら林檎は何だろう

15

やわらかく曖昧も紐とけない春雨

ひそかなる倖いを射止める忘れ物

掠めるだけの数センチの遠隔性よ

憂鬱の満ち引きと喉元に迫る鋭利

嬋娟せんけんが刻まれた肖像を縫いとめて

輝かしい道徳ですら甘えたな傷口

ぬくもりを纏う周波数をまさぐる

花雨のまんなかで縋りつくからだ

白地図はめざめないまま今を失う

青い波のまにまに彼のおもかげを見る

天使の死骸は凍ってしまうらしい

死の国でも一緒になれないらしい

月光を浴びてただれていく六員環

満ち足りたかったみずうみのこと

原始の記憶をひとみに宿したまま

一錠分のやさしささえ欠けている

不器用なナイフ遣いで切り分けて

あなたの眦に宿る理由を知りたい

ことばを食べても空腹は満ちない

地獄には月が二つあるって本当?

俎上で裁かれるときを待っている

あなたの心臓にラベルをげよう

胸の裡に花弁を携え祈りを捧げよ

夜を揺らしてしまう星のざわめき

かたく結んだ靴紐はもつれたまま

月の満ち欠けとともに膨らむもの

16

失えど憎めず、暴かれてもなお愛し

円環をなぞる指さきは青褪めていた

比喩に隠す罪悪感からは辿れない暁

ひかりかがやく獅子の目蓋は黄金か

37℃の焦燥と無味めいたサイレン

無色透明のまま形を失っていくもの

あなたのくびすじに飼い慣らす無垢

とめどないシナプスの銀河で踊って

しんしんと降りつもる詩篇のかたち

未熟な真理をいたぶって刹那に踊る

春の嵐がすべてを浚ってしまうこと

ゆびさきの甘い痺れを遊ばせていく

眠れ、たましいの咆哮を打ち捨てて

陳腐な結末にはくちづけがお似合い

無謬むびゅうの色あいを祈りと名付けていた

痛がりな私の皮膚は一等やわらかい

祈りのミルクは琥珀いろをしている

食べごろに棄ておくなんて人でなし

あなたの言葉の残滓を抱いてねむる

ぼくの地獄に天使は讃歌をうたうか

これは名前を持たない五線譜の呪い

屑かごは四角く余った思考の行く末

ばらばらの嘘に混ぜても重ならない

17

花冷えに懐いもまなざしも置いてきた

目が合えば溢れてくるものと弾けた春

息絡む偶然をひとみ眇めて待っていた

胸先三寸掠めた因業に聞こえないふり

それなりの爪あとと悼ましい引掻き傷

赦されるまでひとしれず傷痕をなぞる

焦がれる果ての壊死でさえ輝いていた

君のたましいの有限性を紐解くために

真珠のような孤独を君の瞳に見つけた

あえかなのこり火呑み込んで灰に帰す

やわらかな棘を懐いて彼女の夢を殺す

あなたの心の凍土に淡紫のばらを捧ぐ

かつての貴方のなきがらを掻き抱いて

拝火をいだき虚栄を燃やせ異端どもよ

決して冷めない微熱を携えて夜に踊る

うつわを満たす薄明の花びらをほどく

あなたの黒いひつぎを百合で満たそう

天の川で一番うつくしい星をください

薔薇だけを食めば天使になれるらしい

はじめから三角にうまれ落ちたかった

わたしの知らないわたしを飼っている

かつてこの国を満たしていた花片たち

黄金の火にみちてかの夜を越えていけ

あなたに初めて呼吸の仕方を教わった

水溶性の哀しみに砂糖を混ぜてみたら

18

白い肌に爪を立て正しさを寓話にした街

人魚の髪飾りくらいの対価でも語れない

手ずから葬り去るピリオドの成れの果て

肋骨を数えて散る花の息吹も暴かれたい

さめざめしい蛍光灯の囁きと夜の秘め事

機械仕掛けのサーチライトが燃えている

エメラルドグリーンの翳りをくちずさむ

不完全になり損なったにせものと影踏み

あたためられた星屑を食べても足りない

しかたがないものを集めて口ずさむ調べ

継ぎ接ぎの硬度もほどけぬエイトビート

鳴り止まない遺伝子の海と臆病な我が儘

貪婪なほころびを添えて終わらぬ催花雨

蹌踉そうろうとして彷徨う夜は罪にも背を向ける

無涯むがいをわたる足跡は煮崩れた月光のよう

すべらかな穢れ携え胸の虚に耳を傾けよ

せいひつだけを閉じこめた森に棲みたい

希釈したところで愛の重さは変わらない

でたらめなところに口づけて咽いでいる

星座のまなざしは三十五度に傾いでいる

ありあまる言葉ばかりが捨てられていく

19

海鳴りの都市には散らばる亡霊の影がある

わざとかけ違えた釦を一つひとつたどる指

拙さをかき消して一輪の悪夢を魅せてくれ

4分の5孤独を孕むまなざしは濡れている

お揃いの残香にあの日の熱帯夜をほどいて

おおよそすべての虚妄に値札をつけ終えた

やわらかい皮下に隠した真理が芽吹くころ

ゆうべの傷跡を燃やして天秤に指を掛ける

一度きりの花葬に洗いたての永訣を捧げよ

すべての始まりが一縷のひかりだったなら

濁世の裏側で倦んでいくふたりぶんの祈り

どうしようもなく輝き方を忘れた星の末路

縫合した夜を焦がして不埒な色彩と戯れる

あなたの告げるさよならが最もうつくしい

寂滅にふたりきりならきっと生きてゆける

土星の輪をくさびのように繋いでしまった

この庭の土にはあなたの骸が埋まっている

ふたしかな泥濘で裸のかかとが冷たかった

原始、ひかりの国とやみの国がありました

何処までたどってもこの地獄はふたりきり

君に捧ぐ言葉はすべて終着駅に置いてきた

かたく閉ざされた楽園は取りつく島もない

土曜日は暮れ落ちゆく陽の中で人待ちする

バラの花びらだけを食べて生きていきたい

20

ただならぬ恋路にゃ毒を飲んでも目は醒めぬ

夜汽車から見る彗星の行き先は誰も知らない

にせの箱庭で剥がれかけた欠落とふたりきり

霍乱かくらん目合まぐあいにはどうしようもなく抗えない

君が夜を匿うなら僕は夜明けの埋火うずめびを愛そう

時と雨と勿忘草を編んだ炎色をまぶたに飾る

倦んでいく夏の狭間に君のまぼろしを忘れた

引掻き傷にこれっぽっちの無垢を飼い慣らす

あなたの視線が標本室のひかりと混ざりあう

この夜をつくる因子をすべて食べてしまおう

とめどなく溢れていく絶望にこころ奪われた

みずからを死とは知らずに生まれてくるもの

宝石は夜に生まれ、そして未明に死んでいく

21

炭酸水の底にてけぶる感情がガラクタに成りゆく

なんだって自分の持ちうるもの以上を使えない

総べても昏き穴倉でひとり朽ちていく喜劇かな

亀裂を湛えて傷づく心臓に芽吹いた雪消ゆきげの兆し

かじかんだまま薄紙を剥がす指さきを見詰める

朝と夜のコラージュから生まれるひかりの惑い

シーツの海を泳いで銀色の海ぞこで真珠を拾う

くらやみのヴェールを被ってお祈りしましょう

ぬるい夢も醒めてしまって何処にも行けないな

22

みじかい夏だけじゃ抱えきれない脚本の向こう側

あたらしいなぞ解きには原初の痛みもどこか甘い

むかしむかしの終末を凍てつく心臓に捧げさせて

冴えたる月光を編んで真夜中のヴェールにしよう

あなたの21 gの容れ物がなぜかこんなに愛おしい

ろくでなしばかりが生命の輝かせ方を知っている

独りぼっちの昨日よりふたりぼっちの今日がいい

23

ただしいことを飲み干す過程で抜け落ちていくもの

戯画的に微笑んで人差し指の羞らいも忘れてしまう

紺青を漕ぎゆく方舟はこぶねのその行く末を暗ずるまじない

あてもなくたどる沿岸からは薄水色の気配だけがちかしい

たしかにあの夜、僕はゆうれいとシガレットキスをした

26

脆くひびわれた体躯を引きずって生きても死んでもいない

永遠の残す爪痕はきっと透明だからひと目には分からない