死ねない怪物
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23時にコンビニで108円(税込)のパン買って、ヘンデルがポケットから零した石みたいに外灯のポツポツ照らす閑静な住宅街を歩き食べしているときに、ああ、死にたいなあって本当に思うんだよ。
継ぎ接ぎだらけの蠍の心臓
靴底に湖を飼っている
芸術的な割れ方をした黒い液晶で、歪んだわたしの顔がアシンメトリーな笑みを浮かべた
屈託のない懊悩
風に転がっていく空き罐みたいになりたい人生だった
安全ピンで開けたピアスホールの凝りみたいな感触を、そこに穴が存在することを確かめるみたいに気づけば触ってしまうの。
焼き増した言葉、使い古しの葛藤
止まない雨中、軒先で一時間もしてしまう雨宿りのような
黒焦げの心臓が悲鳴をあげている
安息を殺して免罪符を得る
ピアスの穴の数だけ「ああ、生きてる」って思えたんだよ
車の通り過ぎるときに立てる風が、土瀝青に叩きつけられる雨粒に白く波打つようにさざめきを与える。
無色透明のそこにあるだけで存在証明できるような、空気みたいな存在になりたかった。
左右非対称なものがひどく可哀そうに思えた夜
あんしんとかやすらぎとか、そういうもの
ふと「死にたい」って言葉が零れる時:薄暗いバスルームで頭を洗ってる時とか、見慣れた自分の顔と向き合って歯を磨いている時とか
毎夜枕を濡らしていました
ある朝床に貼りついていた私の熱帯魚
飽和気味のぼくの幸福容量
子どものころ、一生に人間が呼吸する回数は決まっていると聞いて、家族が寝静まった頃、なかなか温まらない布団の中で百秒間息を止めることを何度も繰り返していた。そしてこのまま永遠に寝息を殺せたらいいのに思っていた。
嘘じゃないよ、ほんとだよ
すべての言葉に「※個人の感想です」ってつけて生活したいじゃん
君が赤に染まった手首を投げ出していたバスタブで胎児のように丸まった夜
ノイズ雑じりの慈愛を飲み干して
ちょっとコンビニ行こうみたいなノリで心臓を止めたい
わんこそばみたいに皿に盛られた倦怠を平らげていく仕事
たぶんリセマラに失敗した僕の今世
子どもの時から最悪の条件のイメージを想像してしまう質で、例えば一時間ずつ何かしらの10gずつを提出しなくてはいけない部屋で、髪、唾液、排泄物、あらゆるものを絞り出した後にどの部位から切り落としていくべきかとか、そういうの。
死ねない怪物
アシンメトリー:左右非対称
飽和:最大限まで満たされた状態であること