甘酸っぱい54題

約束/この先何年経っても、あなたの変わらぬ道標になれたなら。
シロツメクサの花冠をこっそり飾ると、驚き顔で振り向いて「⋯⋯ありがとう」とはにかむ。

砂の城/まるで少年のようにはしゃぎ合う。
二人でトンネルを掘っていると、温かい体温に突き当たったのでぎゅっと握り返す。

満天/美しいものや楽しいことは真っ先に見せてやりたい。
キャリーケースを引き摺りながら夜空を見上げていると「危ないよ」と笑んだ声で言われた。

ホットミルク/平凡で温かみある日常を愛おしく思う。
似ている動物を聞いてみると、思案顔の後に「猫かな」と目を細めて笑う。

沈丁花/河川敷を抜ける風が声を攫ってしまう。
乱れた髪を正そうとすると、横から伸びてきた手がそっと耳に掛けて離れた。

銀木犀/あなたとの様々な初めてを覚えていたい。
初恋は叶わないと言うけれど、例外もあるのだといつか伝えたらどんな顔をするだろう。

朝焼け/あいつの輪郭を柔い光がなぞっていく。
コップ一杯の水を片手に、穏やかな寝顔を眺めるこの時は「世界で二人きりでいい」などと陳腐な台詞さえ言えそうだ。

花瓶/形あるものはいずれ壊れてしまう。
いつか離れるような運命であっても、見えない引力で惹き合う二人であれと願う。

木枯らし/言語化できない感情が増えることを嬉しく思う。
もたもたと魚の骨に苦戦していると「ん」と差し出される手に、甘やかされているなぁと擽ったくなる。

初恋/極彩色の光に掌をかざしてみる。
横顔ばかり見ていると「バレてるよ」と口パクされ、恥ずかしくなって俯いた。

ポラリス/僕らが居なくても世界は回っていくけれど。
拙くても、使い古されていても、愛を叫びたい瞬間があるのだ。

肉まん/わざと遠回りして家路をたどる。
一歩一歩脚を投げ出すような歩き方をしていると「何やってんの」と呆れたような声音で笑われる。

共同作業/手先に見惚れていると「手止まってるよ」と促される。
水っぽいパスタを「⋯⋯下手くそ」と柔く笑われながら完食する。

花火/隣りにいられる幸せを噛み締める。
空を見上げたまま偶然触れた小指を絡ませると、照れ臭くて同時に吹き出した。

指先/二人きりの思い出を積み重ねていく。
財布の底でくしゃくしゃになったレシートを引っ張り出すと、大昔一緒に食べた事が懐かしく、思わず見せに行く。

真夜中/ささやかな我儘を愛おしく思う。
均等な半分こに失敗すると「⋯⋯大きい方食べてもいいよね?」と無邪気に笑う。

サイダー/春は別れと出会いの季節だ。
人は声から忘れていくと言うので、飽くことなく他愛ない会話を慈しみたい。

以心伝心/ちょっと抜けている所も好き。
今考えてる事当ててやる」と意気込むのに乗ってみると、頓珍漢な回答をするので「よく分かったね」と頭を撫でる。

白い息/まっさらに生まれ変わっても再びあなたと恋がしたい。
整理整頓を手伝ってもらうと「物を捨てたって記憶がなくなる訳じゃない」と的外れな慰めをされ、思わず抱き着く。

宝石/虹彩の色合いを飽くことなく眺めていたい。
瞳や唇、手指の形一つとして同じ部分はないのだけれど、それが愛おしくて少しだけ切ない。

逃避行/新しい街に着いたら何をしようと楽しげに言う。
寂しくなるねと尋ねると、少し考えてから「独りじゃないからいい」と微笑まれ、汗を握った拳を緩めた。

絆創膏/壊れ物を扱うような触れ方は面映ゆい。
注意を怠り鍋から火を吹かせたのに、叱られるより先に「怪我はないか」と案じられ胸が締め付けられる。

ちよこれいと/買い物袋をプラプラさせて並んで歩く。
近所の階段に差し掛かり、小さい頃はじゃんけんで遊ばなかった? と懐かしんでいると「やる?」と悪戯っぽく聞かれる。

レモネード/天気予報によると夜から雨脚が強まるらしい。
何でもない風を装って雨宿りに誘うと「傘忘れたから」と逸される視線、鞄からチラリと覘く折り畳み傘。

青い春/CDショップで新曲をチェックする。
ヘッドホンを着けてやり「どう?」口パクすると頷くので、音量つまみを行ったり来たり悪戯すると、笑いながら肩を叩かれる。

クリスマス/限定のフラペ○ーノはかなり甘い。
怪しまれないようプレゼントの希望を探るため、タイミングを伺っていると「多分同じこと考えてる」と耳打ちされる。

半分こ/久々に二人で休日を過ごす。
部屋を片付けたらジェンガが出てきたので、負けた方がアイスクリームを奢ると決めて本気で遊ぶ。

メロンソーダ/喫茶店で珈琲を注文する。
甘いものは苦手だけれど、相手が好きなものが気になってひと口貰うと、やはり少しだけ顔を顰めてしまう。

テスト明け/ショッピングモールをぶらぶらと見て回る。
「眼鏡が絶対に似合う」と言うので見繕ってもらったフレームを試してみると、満足気な笑顔で頷く。

マフラー/突然遠出したくなって誘ってみる。
2月の海はまだまだ寒いが、風に煽られながら砂浜を裸足で歩いてみる。

初雪/どんな場所でも空は繋がっているなどと陳腐な台詞を思い出す。
夜になると雪が降り始めたので、何となく声が聞きたくなって、窓越しに眺めながら電話する。

温もり/泊まっていけば? と久しぶりに誘われた。
最寄りの一つ手前で電車を降り、手土産のビールを買い、思わず弛んでしまう顔をどうにかしなくては、とのんびり歩く。

春一番/貴方のくれる水を吸って生きたい。
生まれ変わったら何になりたい?と聞かれ、アオスジアゲハと答えると、何だそのチョイスと優しく笑う。

雨上がり/片耳ずつ音楽を共有する。
上機嫌の鼻歌が聴こえるので「いい事あった?」と聞くと「新曲がかなり良くて⋯⋯」とイヤホンを引っ張り出す姿が微笑ましい。

キャンパスノート/一緒にいる口実を探してしまう。
集めた課題を職員室まで運ぶから手伝って欲しい、と伝えると一瞬だけ驚き、破顔して頷く。

新緑/木洩れ日を受けた白いカーテンが風をはらむ
ノートの切れ端を回して絵しりとりに夢中になっていると、いつの間にか傍に立っていた先生に二人して叱られる。

扇風機/氷で冷やした素麺が美味しい季節になった。
麺を茹でながらふと見ると、まな板を使うのを面倒がって掌でトマトを串切りしているので、思わず吹き出してしまう。

照れ性/人差し指で両眉を下げてみせる。
何その顔と聞くと「困った時のお前の真似」と揶揄われたので、指で口角を上げ「俺といる時のお前」と言うと口をぱくぱくして赤面する。

十五夜/団子もススキもない月見酒をする。
月に一つだけ持っていけるとしたら何にする? と聞かれ、咄嗟にお前と答えそうになり、それはあまりに恥ずかしいので適当に誤魔化す。

練習/さくらんぼのヘタを蝶結びできる奴はキスが上手いという話を思い出す。
やってみると全然駄目で、二人並んで真面目にモゴモゴしているのが段々可笑しくなってくる。

ホットコーヒー/遠慮がちに家においでよと誘われる。
好きな匂いに包まれていると、秘かな緊張で凝った身体が少し和らぐ。

夜風/会えたことが嬉しくて話が尽きない。
自分の話ばかりしている事に気付き、ふと口を噤むと「続きは?」と柔く微笑まれ、心臓のあたりがきゅうと切なくなる。

桜並木/並んで歩くのが照れ臭いのか半歩前を行く。
靴紐が解けたので「後で追い付く」と告げて結び終えると、こちらを見守っていた顔が思いのほか優しく、咄嗟の言葉に詰まる。

朧月/深夜ほど食欲が増す。
コンビニ行くから着いて来いと言われたので、揶揄うつもりで「デートのお誘いですか?」と聞くと「そのつもりですが?」と返され思わず照れる。

赤ワイン/テレビで世界の観光地特集をやっていた。
旅行するなら何処へ行きたいかという話になり、人気の台湾もいいしヨーロッパも捨て難い、などとあれこれ想像する。

蝉時雨/炭酸が苦手だと明かすと目を丸くする。
「慣れると癖になるんだけどなぁ」と美味しそうに飲むので、思わず一口貰うと弾ける泡が舌を焼く。

イチョウ/見るとはなしに水筋を見下ろす。
欄干の上で組んだ腕に顔を埋めていると「はい」とだけ言って飲みかけの缶コーヒーを手渡され、そのまま交互に飲む。

ベンチ/二人して終点まで寝過ごしてしまう。
コンポタとお汁粉の缶をそれぞれ買って回し飲み、口の中がカーニバル! と笑っているうちに、体がぽかぽかしてくる。

キッチン/ゆっくりと熟れる時間を両手で包めたなら。
座ってれば?と促すと首を振り、カウンターに並べたアボカドを興味ありげに指で弾いている様を、微笑ましい思いで見守る。

微睡み/ソファに並んで座り、借りてきた映画を再生する。
いつの間にか寝落ちていたことに気付くが、寄り掛かる体温が心地いいので寝たふりを続けると、優しく髪を梳かれる。

好き嫌い/カウンター席しか空いておらず並んで座った。
無言で伸びてきた手が、苦手らしい茄子をせっせと皿へ運んでくるのを、文句を言いつつ嬉しく思う。

ギブス/怪我にかこつけて甘えてみる。
病人は大人しくしてな、と世話を焼かれて喜んでいると、理由がなくても甘えていいのに、と優しい口調でねだられる。

背中合わせ/刑事ドラマを一緒に見る。
もし俺が道を外れるような事をし出したら? と尋ねると「殴ってでも連れ帰る」と食い気味に言われ、自分の居場所を見つけた気がする。

ラッキーアイテム/朝からツイてないこと続きだ。
軒下で曇天を睨んでいると、よければ入ってく? と傘を差し出され、喜びと気恥ずかしさとがない交ぜになる。