の焼死体の上で踊りたい

雑踏のさざめきから逃れるように耳に押し込んだイヤホンで五月の蝿が今日もたぐいない愛を歌っている。愛、哀、相。しき君が今日も世界一不幸せでありますようにと祈りながらコートのポケットに両手を沈めた。

僕が君宛てのラブレターを書くならそれは、こんな一文から始まるだろう。

「君の焼死体の上で踊りたい」

君のその混じりけのない美しさを閉じ込めた黒い瞳もまっすぐ通った鼻筋も、十二月の教室で冬の透きとおる午後の陽射しの中、ゆっくりとページを繰る白い指も、みんなみんな燃えちまッて、残ったのは君を君たらしめる魂の抜け落ちたただの脆い固形だった。

少年Aの告白

浅ましい君を愛せる唯ひとりの僕

ああ、どうか君が卑しくありますように

正当性に溺れていく君の自己欺瞞、僕は込み上げる反吐を呑み込むのに精一杯だった

君のなかで真実に昇華されていった抜け殻たち

誰そ彼、君の虚言そらごとに騙されてしまった哀れな人たち

偽善と腐敗したヒロイズムと劣等種に抱く憐憫と

狂言に一滴の真実

「可愛い」を焦がれる君の疑いもしない澄んだ目、ああ憎らしい

すべては僕の胸裏のできごとなのですが

肉薄する発火点

少女Bの怠慢

雑駁した願望をどうか殺さないで

ああ、どうかあなたがいじらしくありますように

そんな喰い尽くすような眼で見るのなら、いっそ殺してくれても構わなかったわ

あなたの中で死んでいく涅色くりいろの言葉たち

薄明、あなたの瞳で燃えさかる憎悪

焦燥、衝迫、ただれた思想

愛憎に一滴の正気

「赦し」を乞うあなたのどこまでも黒く澱む瞳、ああ愛らしい

すべてはわたしの願望の見せる幻覚なのですが

これが僕らのハッピーエンド

醜く焼けただれた識別不可能な代物に僕はそっと口づけて、腐っていくその亡骸とワルツでも踊ってみせようか。負のエントロピーをもう二度と召すことはない、君の行く末をきっと笑ってみせるよ。

灰に塗れた骨の破片たち、両手に収まるほどの壺に納められて冷たい石の中に閉じ込められる哀れなかつて“人”だったもの、そんなつまらない代物に成り下がるくらいならいっそ、君の明日を僕におくれ。

肉の焦げる鼻をつく臭い、舞い上がる火の粉、君の細くなっていく悲鳴⋯⋯。惨劇の不詳を嘆く人々を横目に僕は今日も今日とてたゆみなく君を愛するのさ。

君の焼死体の上で踊りたい

虚言そらごと:本当ではない言葉

雑駁ざっぱく:知識・思想が雑然としている

涅色くりいろ:川底の泥のような茶みがかった黒色