六員環の燃え殻あるいは花の骸

光覚を失ってもまだ温い

手のうちのバイオスフィア

脈打つ本能がさめざめと囁く

月の軌跡をたどって腑分け

美しくもなければ救えない顕性

鮮少なやさしさをアルコールに浸す

夏を分解する指

ひと匙の虚実の証明

夜から朝にかけての曲線

名前のない星座を戴いた天秤

暮れなずむ天球の黄道をたどって

細胞ひとつまで白鯨の吐息で創られた

零のなり方も忘れたインプリンティング

月の巡りひとつで焦土にもなりえる

六員環の燃え殻あるいは花の骸

瞼の裏でだけ羽化する幻想

空白から遠ざかる孵化

傷跡に咲く永年草

きみと私のビオトープ

背骨に刻む熱と光の幾何学

たましいの可換体に火をともす

にんげんの皮を被って擬態している

かなしみの閾値を抱きしめたままでいる

嘘を見破るためのクロマトグラフィ

あなたの怜悧な眼差しの黄金律

昨日からつづく記憶の配列

濁音をはらむメソッド

最初にひとつ残響

花言葉を切ってわける

骸のように朽ちていくDNA

1グラムに切り分けたトパーズ

わからないまま終わりつづける分裂

ミリメートル先の闇にも優しくなれない

私たち歯牙を磨いても獣にはなれない

わだかまりに溺れたホメオパシー

幕引きを証明するための力学

フレスコいっぱいの真珠

たゆみなく共鳴する

くらやみの余熱

ろくでなしの潜性など知らずにいた

明日の密度には限りがあるから

楽園を紡ぐためのロジック

うつしよの共振でも奪っていて

空虚を閉じこめたシャーレ

二重螺旋に刻まれた原罪

六員環の燃え殻あるいは花の骸

バイオスフィア:生命圏

腑分け:解剖

顕性:優性

潜性:劣性

鮮少な:わずかな

インプリンティング:刷り込み

六員環:有機環

ビオトープ:野生生物の生息地

可換体:可換環、その乗法が可換であるような環

閾値(いきち):感覚や反応や興奮を起こさせるのに必要な、最小の強度や刺激などの量

クロマトグラフィ:混合物を分離、検出する分析法の一つ

ホメオパシー:類似したものは類似したものを治すという同種の法則

ロジック:論法、論理

メソッド:方法