貪婪に濡れた火を動脈で飼いならす


さよならだけを手のひらで弄ぶ

貪婪に濡れた火を動脈で飼いならす

ぬばたまを編んで透きとおったその双眸

みぎわを游ぐ夢の輪郭

この煉獄には仮初めの暗澹

夜の胎動を掠めたら螺旋の先を

ほどけることのない紗幕しゃまくで隠したら

遠い日が匂う かの明滅が消えてくれない

おまえの舌の根でも手折っていてよ

夜溜まりを睥睨して行き止まり

肺を満たすあなたの呼気で

きわどい仮死を撫でる

夏の暮夜に色づく部屋は蒼然としている

この指は降り頻る星屑で汚れている

不滅をなぞる五指は禁忌を孕む

貪婪に濡れた火を動脈で飼いならす

みぎわ:汀

紗幕(しゃまく):薄い布