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詩環の受肉もここらで産まれなおす
偽称する双眸をなぞる痛みすら
この世のすべての忘却をもうずっと磨耗と呼んでいた
ふしだらな色彩を撒いて道連れ
敬虔に縫い付けられたなれのはて
えんえんと降りそそぐ羊水の夢
まどろみを千切って失くしたものばかり
いつしかつぼみの輪郭もほつれたまま
失格を額に刻んで渇きも蠢いている
羽化の瞬間まで隠してあげる
黎明を手折るゆびさきに深遠の粒子を灑ぐ
今際の詩圏にて草臥れるまで喧嘩しよう
セロハンひとひら隔てたような壊死
わたしたちの刻印を塗りつぶす凶兆
祈れどももう戻れない地獄を踏みつける
地上のどこかの白雨を遠近法で弄ぶ
明け透けに芽生える赤を哀れなんて
花のようなくちづけを脊椎に
生まれたばかりで土にも還れないまま死んでいく
あの世の胎動もかつては剥き出しだった
その眼差しの色もわからないまま名前を呼べない
鏡の向こうには地中の亡骸も踊っている
いつくしき墓場にて非在の証明を
腐敗する水晶体じゃ嘘は見抜けない
燦然と箔押しされた花嵐を游ぐ
遣る瀬なき聖なる始源
十字架の沈むうなぞこに人魚の棲み家
肉薄に死のナイフがむきだした
手すさびに空白の終止符を定義する
六等星のシナプスでも切り分けて
情動になずむあなたの頬に銃口を
八つ裂きの深部が解けたとき
残り火も尽きたからもうおやすみ
てのひらの上でなお枯れてあやふや
ひとつの幕切れをくゆる八月
叙事を冷めたまま分け合う花々
繰り返す耐えがたい苛烈を撒く
未読のまま踏み荒らす帝王学
灼けただれた聖書にも似た硬質
ひとりきりでも灰になるにはまだはやい
背中合わせでひとつになるために生まれてきた
自らをまろびでて嘯笛も遠ざかる
刺さったままの甘い棘とその可塑性
祈りをこめて福音の鐘も燃えている
逆鱗の噛みあとには気づかないふり
かなしい魔物を殺めるまで
聖者の戴冠
忘れ去られたらそこでおわり
粗悪なひかりを愛すことは二度とない
星食いの最期の火
きっと不規則な拍動が小指をさらってしまうんだね
はだかのふしあわせにも泣かなかった
あなたの指はいちばん美しい裁き
透徹の森よ、まよえる虚ろを捧ぐ
信仰を均す手つきもつめたいだけ
渦巻いて噎せかえる詩のなか
あの場所で壊して置き去りにされた
ばらばらに捲れてすらいない秘密のいろ
はだかの傷跡を知らないふり
寄る辺ない観測地にてひとり
隙だらけの踝に咲く傷
あなたの呪いが世界で一番美しかった
バウムクーヘンみたいに層になった死のこと
やわらかな息の根が交わる
眠らない神の五指の救済もなく
落とした記憶の輪を数えている
今ならあれがお別れだったってわかる
焼き尽くす凍りのひばな
羽化と呼ばれる蹂躙についての記録
ぐずぐずの影すら美しい
ひとりしずかに産声を上げていた
花の骨と呼ばう薬指のかたち
いにしえの獣たちの夜
瓦礫だらけの楽園の終わりを見ていた
双眸に火をつける
ひとみに映る災禍の影
永遠の結晶はまだどこにもない
傷だらけの歪じゃままならない
そそがれる音楽にくちづけるみたいに
てのひらの中で終わる栄光
痛みですら贖罪で終わるのに
有限の落下速度でもかぞえていて
つま先の発火点で非対称
ああ君がため手折った花床かな
蹂躙するみたいに奪ってそんな終わり方
額のしるしはそろそろ錆びついてしまう頃
花隠しの冬に約束を忘れてきた
甘えたな追憶もいつまで踊り続けるか
千年を捧げて信仰を刻む
きみのために銀の牙を磨いてきた
映日をくべても燃え尽きない
煙草の火を吹き消すみたいなスコール
あなたの影で息づく宇宙
幾つもない理由を並べたただけ
凍りの砂嵐/炎雷の海鳴り
花の一生、まぼろし、境界線
水脈に抱かれる月長石みたいに
欠けない月とたましいたちの踊り
終焉の光で織った稜威
老いてはやがて森羅の国がひらかれる
いつくしき:厳か
映日(えいじつ):白い光の帯が見える現象
稜威(りょうい):天子の威光