五月、無垢の残像が
君の向こうで揺らめいた

四月、季節は桃色の憂鬱を携えて

五月、無垢の残像が君の向こうで揺らめいた

六月、混凝土コンクリートに咲く濃灰のうかいの花

七月、脳を圧迫するような濃薫のうくんに溺れた

八月、逃げ水は微かな匂いだけを残して

九月、鬼百合の花蕊かずいに宿る夏の夢

十月、黄昏が靴裏に積もっていく

十一月、散り花つぼみのまま枯れゆきて

十二月、息詰まりな極彩色から視線を逸らす

一月、この手に掴めない幻想ならば

二月、曇りなき虹彩に潮風を孕んだ

三月、君の薄れていく声音を反芻した

五月、無垢の残像が
君の向こうで揺らめいた

四月、桜

五月、蜃気楼

六月、アスファルトに散る雨粒

七月、梔子

八月、逃げ水

九月、小鬼百合

十月、銀杏樹(いちょう)あるいは金木犀

十一月、徒花(あだばな)

十二月、イルミネーション

一月、雪

二月、冬の海

三月、別れの季節

花蕊(かずい):花のおしべ・めしべの総称

徒花(あだばな):咲いても身を結ばない花