Untitled

年もとうとう金木犀が満開になったという。怠惰な日常には風情もなければ、忙殺されるような出来事も無い。本来なら、まるで栞のない本のように黒々しい日々を連ねていただろうに、茫洋とした時間は何の感慨もなく頭上を通り過ぎていくばかりである。しかし幸か不幸か、××は鼻がよかった。二月はしゃなりと気取った梅の花、五月は毒のように危うげな梔子。十月は、熟れた夏の甘みを閉じ込めた金木犀。一年ごと巡る嗅覚の記憶が、折に触れてマーカーを引いたように過去の出来事を呼び覚ます。そして、意思とは関係の無いところで、脳に刻み込まれた匂いは時として警鐘を鳴らすのだ。早くどこかへ行かなければ。早く早く、どこか、誰も自分を知らないところへ。金木犀の香りは、一抹の寂寥感と焦燥感を引き連れてくる。強迫観念にも似た何かが、とろりとろりと脳を圧死させていく。早く逃げなくては……そう、○○のいないところへ。

This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

⋯⋯ tags details

marker[[マーカー]]:マーカー

strong[[太字]]:強調

b[[太字]]:太字

code[[<script>]]:<script>

pre[[xxx]]:
<script>
console.log($1);
<script>