Untitled

窓を流れる景色を眺めていた。曇天はぼんやりと照り返しを閉じ込めて発光し、雲の切れ間から天使の梯子が降りてきやしないかと望んでいたけれど、それは一向に見当たらなかった。風があるのか雲の流れが速いようだったが、動き出す列車の流れに飲まれてやがて分からなくなっていく。そこここに命を刈り取られた跡地が冷えた土の色を晒しており、疎らな民家がその中へぽつぽつと建っていた。手前を速い速度で過ぎ去っていく枯れ木が細い黒々とした枝を伸ばしており、木枯らしの伊吹が感じられそうな死の匂いをまとっている。見るからに生き物の気配の絶えた、冷たい冬の景色だった。

対して列車の座席の足元では暖房が焚かれ少し暑いくらいだったので、押し付けていた足を少し離した。ひざ掛けにしていた黒いマフラーがずり落ちたため、もったりとした手つきでそれをかけ直す。ガタガタと窓が風に圧される音を立て、再び顔を上げる。先程より雲が濃くなっているようだった。雨傘の存在を失念していたので鞄には入れていない。彼は傘を持ってきただろうか。

この列車はどこまで僕らを運んでいくのだろうか。切符を買って適当に電車を乗り継いでここまで来たけれど、はたして終点にたどり着いたとき僕らをこんな所まで連れてきた暗い衝迫は、行き場のない怒りに似た情動は、少しでも収まりが着くのだろうか。

彼は僕に凭れて眠っている。肩に乗った頭の重みが今は心地よかった。シャンプーの残り香だろうか、頬に触れる髪の匂いを愛おしく思う。

朝、突然「遠くまで行こうか」と告げた僕に「どうして」とは聞かなかった彼に救われた。僕はこうして何度も彼に救われてきた。学校をサボってひたすら列車に揺られている気まぐれを許してくれる人を手放せないと思った。

十八歳は通過点であり、その先の方がずっと長い。そうとは分かっていても永遠の言葉に縋りたくなる僕は滑稽だろうか。お互いさえいればいい、今は。隣りの熱に寄りかかって、僕は静かに目を閉じた。

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