Example text

お題を使った文章の例です。内容は何でもありです。

こちらに限り一文単位の抜き出し可配布元明記必須です。

21

課である猫の餌やりももう五年ほど続いているだろうか。慣れた道筋、無心でサンダルを引きずって歩く。春の宵は花見帰りの浮ついた風に乗って来るという。華の金曜ともなれば、桜目当ての風流人で往来は行くも帰るも喧騒が絶えない。××はこの時期特有の生命力と幸福に満ち満ちた空気が苦手だった。吸って吐く息さえもピンク色に染まっている気がしてどうにも肩身が狭いのだ。それが羨望の反動かと問われれば、相手が疑問を抱いた事を恥じるまで叩きのめす所存である。そんなわけで××家きっての天の邪鬼は、踏みつけられ足掻きとばかりアスファルトに染みを残す花びらを見、こっそり溜飲を下げる日々を送っていたのだった。

22

は感情の欠如した無表情で、鏡台の母親の赤い口紅を1本ずつ折っていく。彼女の新しい若い恋人のために買い揃えられた口紅が一本、また一本と無惨な姿に変わっていき、結局母親に見つかって叱られ、バッグの化粧ポーチの折り忘れた赤いルージュが彼女の唇に塗られる。母親の口癖は「どうしてお前は兄のようになれないの。」

若い男と夜を過ごしに行く母親を玄関で見送り、目の前で閉まった扉を無言で見つめる弟。兄はそんな彼を背後から抱きすくめて「2人きりになっちゃった。お前の母さんは今夜もお前を守ってくれなかったね……」と、とびきり優しい声で囁く。

23

りを過ぎた桜は哀愁を誘う。すっかり色を落とし、艶やかさの面影もない。何となく感傷的な気分になった私は、立ち止まって先生を振り仰いだ。

「日々衰えていくっていうのは恐ろしいですね」

「それは花盛りを過ぎた僕への嫌味ですか?」

先生は片眉を器用に上げてみせる。

「遠からずってとこです。先生は若いうちに死にたいとか思わなかったんですか?」

「また唐突にそんな事を。××さんは死にたいんですか?」

「そうですね」

質問返しという悪手を打った先生は、相変わらず飄々として私を見返す。そしてゆっくり瞬きを一つ。

「君のいつもの癖ですね」

言い置いてすっかり興味を失ってしまったように、再び足を踏み出す。頭上では葉桜が風にざわめき、僅かばかりの花びらを散らしている。若くして死にたい、というのは本心だ。けれどそれが叶わない甘えであることを私は知っている。いや、叶えないのだ。その気もない夢を語っている。先生もそれを承知の上なので“癖”などと受け流してしまうのだ。

私は、大人になどなりたくない。けれど、日々を何となく繰り返しているうちにここまで来てしまった。寝て、起きて、食べて、排泄して、また寝て……のルーティンに多少の変化が加わったところで、老いが止まることはない。そして、青春と呼ばれる時間よりも、その先の方が何倍も長いのだ。ふと、過去の輝かしい数年を懐古しながら、この先ずっと無為に生き続けなければならないのかと想像した時、ぞっとした。ならばいっそ、青春というモラトリアムに、美しいままで死んでしまいたかった。

けれど先生は、そんな私のことを分からないと言う。分かりたくない、とも。きっと私に本当に死ぬ勇気などないのだから、先生の方が正しいのだろう。けれど、先生に「そうですね」と言ってもらえないことが、少しだけ寂しい。

その夜、夢を見た。満開の桜の下に先生が立っている。ある程度の距離を保って、私は歩みを止めた。足音を殺すことはしなかったので気付いているだろうに、先生は振り返らない。

「うん百年も咲き続ける桜だそうですよ。どうです、禍々しいでしょう」

私が黙ったままでいると、気にする風でもなく続ける。

「人の理解を超えた不変など恐ろしいものですよ。こいつの根元に屍体が何百と埋まっている、なんて言われたって僕は多分疑わない」

見上げる先生に倣って、重たげにたわんだ薄桃を眺めた。光を吸い込むような夜闇に、ぼうと浮かび上がる大木。先生が屍の話をしたからだろうか。一瞬、鉄錆の臭いが鼻を掠めた気がした。生きるものの血潮ではない、この世で役目を終えたものの死の香り。はっとして、先生を見た。相変わらず棒立ちの背を見つめていると、刹那、風がごうと唸る。何千、何万という白い花びらが巻き上がり、先生の身体を掻き抱く。私は弾かれたように駆け出した。先生が連れて行かれてしまう。頭の中には確信めいた予感だけがあった。

先生は薄桃の地面に倒れ伏せていた。震える手で仰向ける。血色の悪い頬に数枚の花びらが張り付いていた。強い手つきで払い落としても、ぴくりともしない。やはりあの鉄錆の臭いは先生からしたのだ。

頬に当てていた手を、首に滑らせる。そのまま両手に力を込め、ぎりぎりと締め上げる。額に汗が滲み、食いしばった歯がギシギシと鳴った。桜に攫われた先生を取り返さなくては。

先生の片脚が跳ね上がり、瞳がカッと開かれる。強ばった腕に爪が立てられる。ぎこちない動きで解放した首には、私の指の痕がはっきりと残っていた。先生は身体を丸めて激しく咳き込んでいる。美しくない、みっともないその姿は、花吹雪を背景に佇んでいるよりもずっと“生きている”と思った。

24

に行きたいと言われた。最後に家族と会わなくていいのか尋ねると、無言で首を振る。こちらも特に問題なかったので了承したが、ふと疑問に思い、なぜ海なのか聞いてみた。「何となく」という曖昧な答えが返ってきて、まあそんなものかと勝手に納得する。俺たちに、特別な幕引きなど必要ない。


海開きを迎えていない海岸は無人だった。普段はそこに居るだろう人々も、今は、速報で忙しないテレビの前で、大切な誰かと身を寄せ合っているのだろうか。ここまで運転して来た時も、出歩く人も車もとんと見掛けなかった。羽を伸ばせるという意味では、人の目が無いことはありがたい。六月の移り気な天気だけが気掛かりだったが、晴れ渡る青空を見る限り心配しなくて良さそうだ。

砂浜へと石段を降りて行く背を見やる。半袖の白シャツが、健康的な陽射しを吸い込んで目に焼き付くようだ。唐突に振り向いた彼が、眩しげに目を細める。

「何ボサっとしてんだよ」

「別に……今行く」

靴を脱いで砂浜に降り立つと、熱い砂が足の裏を焼く。波打ち際を歩けば、熱っぽい体が爪先から癒えていくようだった。柔らかい砂が指の間を通る感覚が気持ち良く、足で適当な模様を描いていると、突然、バシャッ!という音と共に水が顔まで飛んできた。振り返って睨むと、彼がへらりと笑う。

「お前!着替えないんだぞ」

「いいじゃん別に。困ることないでしょ」

「……それもそうか」

そんなやり取りを経て、二人して暴れ回る。息を切らして疲れ果てた頃には、海水を吸った服がずしりと重くなっていた。

時間だけはあるので、服を絞り、日向で乾かすことにした。砂浜に並んで座り、ぽつりぽつりと話をする。最近見た面白い映画、物足りない学食の日替わり定食、単位の危うい授業、バイト先の面白い先輩、反りの合わない家族。未来については一切触れず、過去を懐かしむように語る。熱気を孕む風が、濃厚な潮の匂いを鼻腔に運んでくる。高い陽射しに焼かれ、首筋を汗が伝うのを感じる。

ふいに、二人の間に沈黙が落ちる。言葉にはせずとも、同じ事を考えているのだろうとぼんやり思う。いくらテレビが叫べども、こんな穏やかな昼下がり、その平穏が崩れるなど如何して思えよう。

そっと隣に目をやると、彼はうつむき加減に手遊びしている。罪のない生命を毟りとる暴虐を、思考の片手間に許していた。彼の指先が丸い葉をぷつりと摘み、瞬間興味を失くしたようにぱっと離す。その手が今度は小ぶりな花へと掛かるのを、黙ってまま見る。朝顔のような形をしたピンク色の花。生命を手折られる瞬間を見守っていると、意外なことに花びらを撫でただけで指は離れた。葉は許せても花を毟ることに抵抗があるのだろうか。ぼうと眺めていると、ふいに頭を過ぎる記憶がある。ああ、そういえば、あの花は昼顔と言うのだったか。名を得たせいか、束の間の命拾いをした小さい生命を、より愛おしく思うようだった。

ああ、ああ、沈黙が重い。

今日、世界は終末を迎える。

25

理の兄と再会したのは、八月の残暑厳しい熱帯夜だった。後を追うように東京で就職して数年、それなりに忙しく、たまに連絡は取り合っていたものの、声を聞くのは久しい。待ち合わせた居酒屋で、

「好きなもの頼めよ」

と懐の広いことを宣う人は、酒が入る前から上機嫌のようだった。

互いの近況もあらかた語り尽くし、腹もくちてしまうと、時折、妙な沈黙が食卓を支配する。それは、空になった義兄あにのコップにビールを注いでいる時だったり、いつの間にか口許に付いた米粒を指摘された時だったりした。その不思議と熱っぽい空白を埋めるように、義兄は次々料理や酒を勧める。それに乗せられる形で、酒にさほど弱くもないはずが早々に酔っ払ってしまった。無意識に気を張っていたことも原因の一つだろう。

だからきっと、告げるつもりもない秘密を明かしてしまったに違いない。酔いによる気の緩みが、固く閉めたはずの錠を壊してしまった。

唐突な吐露を浴びた義兄はしばし固まっていたが、数度瞬き、ぎこちなく口を開く。

「お前は言わないつもりかと思ってた。……超えちゃ駄目な線だろそれは」

何となくそうではないかと想像していたが、やはり彼は勘づいていた。その上で、聞かなかったことにするつもりなのだろう。微かに震える指は、汗をかいたビール瓶を撫でている。空気を読まない店員がデザートのバニラアイスを置いていった。更に気まずい沈黙が降り立つ前に、待っててやるからさっさと酔い醒ませ、と義兄は一方的に締め括った。

一口目のアイスが運ばれるのを見守って、机に突っ伏す。食い下がる度胸もなく、それがとても情けなかった。向かいから、ふわりと安っぽい甘味が香る。目を閉じれば、香りに誘われ脳裏をくすぐる幼き記憶がある。

◆   ◆   ◆

暑い夏の日、庭の片隅で肩を寄せ合っていた。ホースで散々辺りを水浸しにした後、殺意溢れる陽射しから逃れようと、庭木の陰で身を休める。その時ふいに甘い香りが漂い、頭上を見た。どうやら咲き乱れる白い花が源らしかった。視線に気付いたのか、義兄が嗚呼、と言って立ち上がる。そして枝の一つをつまんでみせ、

夾竹桃きょうちくとうだよ」

と、こちらを振り返った。直後、何かを企むような悪い顔をして、いい事を教えてやろうと大仰しく続けた。

「こんな可憐な花だけどね、猛毒があるんだよ」

義兄に倣って嗅いでみると、白い花弁からは、店で一番安いバニラアイスの香りがした。思ったまま、

「バニラアイスの匂いがする」

と言うと、彼はあっ! と声を上げ、冷凍庫の底に隠しといたんだった、と目を輝かせる。

「食べに帰るぞ」

と、決定事項のように告げた彼に手を引かれ、庭を横切る。蝉の音が降り注ぐ真夏日に、義兄の背がなぜか大きく見えた気がした。

◆   ◆   ◆

長い回想を経たところで、現実は変わらない。お前は可愛い弟だよ。そうやって一線を引かれたのだ。続柄も世間体も全てを蹴散らし、“可愛い弟”では満足ならないのだと叫べたら、どんなに幸せだろう。お上品に締められたネクタイを掴まえて、澄まし顔を貼り付けた彼にこう言ってやるのだ。嗚呼、お前が見て見ぬふりをしてきた俺の気持ちは、無様に独りきり、こんなにも肥大してしまった。今更なかった事には出来ないだろう。釣った魚に餌をやらなかった罪を一生かけて償ってくれ。そう言ってしまえたら。

けれど、そんな意気地はもうない。甘えた顔で許されるには、責任を知らず生きるには、大人になり過ぎてしまった。あの夏の片隅、甘いバニラの香りが酷く遠く、懐かしい。この先ずっと、あの刹那だけを胸に飼い、見果てぬ夢を見続けていくのかと思い至れば、ただひたすら遣る瀬無い。

酔いはとうに醒めている。けれど、アイスを食べ終えた義兄が声を掛けるまで、突っ伏したまま、雷に怯える子供のように自らを両の腕で抱いていた。

26

下茎のように、着々と憎しみを張り巡らせて生きてきました。そう告げると、先生は何のことだか分からないとでも言う様に、あどけない表情で首を傾げてみせる。

◆   ◆   ◆

長く空き家だった処へ人が越してきたのは、土筆つくしが膨らみ始めた如月のことだった。狭い田舎なので噂は直ぐに回り、誰もが新しい隣人への興味で浮き立つ。まだ幼かった私には、大人達の言う“さっかだいせんせい”や“てんちりょうよう”が何を指すのか分からなった。けれど、娯楽に飢えた閉鎖的な生活に突如降ってきた非日常は、私の心を掴むには充分だった。

新参者は“先生”という呼称で浸透していった。先生はお手伝いさんとたった二人で、あの広い家にいるらしかった。そして、定期的な来客があるようだった。お手伝いさんとは違い、先生を外で見掛けることは殆どない。滅多に外出しないのは病弱なせいだろう、と誰かが言った。いや、相当な人嫌いに違いない、とまた別の誰かが言う。

ある日、学校から帰ると、台所で忙しげにしている母が丁度いいところに、と声を掛けた。

「これ、たけのこ煮たやつね。お隣に持って行ってあげて」

今ちょっと手が離せないから、と大きな鍋から灰汁を取りながら言う。家の敷地に密生する竹林から採れたものだ。茹でた筍をご近所に持って行くと、とても喜ばれるのだという。キヨさんに話はしてあるから、と背を押され渋々向かった。隣の門を潜るのは初めてだった。私は逸る鼓動を抑えながらおとないを告げた。お手伝いさんを呼んだものの、しんとして人の気配が感じられなかった。無防備に開け放たれた玄関から、薄暗い家の中が窺える。出直そうか迷っていると、ぺたりぺたりと足音が聴こえた。やがてかまちに裸の足が、次いで戸口からひょいと顔が覗いて、私を見下ろした。どうしたのと声を掛けられ、風呂敷包みを渡しながら、この人だ!と確信する。つるりとした頬も黒い髪も、勝手に思い描いていた“先生”よりずっと若く、軽い衝撃を受けた。

先生はねぎらいの言葉を掛けた後、お茶でもどうぞ、と抑揚に欠けた調子で私を誘った。遠慮すると、少し空白を設けてから、歳は?と聞く。十二と答えると、やはり無感動に、もうそんなに大きくなったのか、と呟いた。

先生がここに越してきてから、六年の月日が経っていた。

◆   ◆   ◆

季節は三度巡り、私は十五になった。最近は学校から真っ直ぐ先生の家に向かうのが日課になっている。初めは良い顔をしなかった母も、キヨさんに宥められ、お目こぼししてくれるようになった。篤実なお手伝いさんは、長年拗らせた厭世家に懐く存在を、喜ばしく思ってくれているようだ。

先生の方は相変わらずだった。私の一方的なお喋りに、感情の乏しい声音でああとか、うんとか相槌を打つ。そしていつ来ても、大量の紙と積まれた本にうずもれている。“作家大先生”の呼称は大袈裟ではなく、過去に××賞を取ったとかで、それなりに名が知れているらしい。というのも、活字嫌いな私は授業以外で本を読まないので、あまり実感がわかなかった。

そんな大先生の私生活はというと地味なものだ。ひたすらキーボードを叩いているか、印刷機から紙を吐かせているか、お茶菓子で一息ついているか、猫を構っているか、庭を散歩しているか。最低限の日課で成り立っている。痩せ気味ではあるが不健康そうには見えないので、元々の性質なのだろう。

私がもっと幼かった頃、不躾にも聞いた事があった。先生はどこか体が悪いのですか、と。すると、悪いと言っちゃ悪いけど体ではないよ、と謎掛けのような返答をした。外には出ないのですかと聞くと、あまり好きではないと言った。先生が言うのだから、そういう事なのだろう。以来その話には触れていない。そして勝手ながら、私は、外界と先生とを繋ぐ役目を担ったつもりでいる。だから今日もこうして色々と話して聞かせるのだ。

学校でのあれこれを語り終え、煎茶を一口含むと、私はあっと声を上げそうになる。今日はこの話をしようと意気込んできたのに、すっかり頭から抜け落ちていた。置かれた境遇も歳も異なる私達に、共通の話題はとても貴重だ。咳払いを一つして仕切り直す。

「そういえば、うちの畑で土筆を見掛けたんですよ。すらーと伸びて、傘もまだ熟れていないやつ。たんぽぽの綿毛もそうですけど、土筆を摘んでふーっと吹くと胞子が舞うでしょう? 私、毎年あれが楽しみで仕方ないんです。でも、いつの間にか現れて、直ぐに杉菜すぎなに変わっちゃうから、まめに見に行かないと駄目ですね。先生のお庭ではどうですか?」

先生は、縁側で猫を撫でていた手を止めて、土筆か、と呟く。

「いや、今年はまだ。うちの庭は、雑草の類いは抜いてしまうから、もしかしたら見当たらないかもしれないね。それはちょっと、惜しいかな」

そう言って、また猫を構い始める。

「惜しいかな」で済ませてしまう諦めの良さは、先生の専売特許だ。私はそれが少し歯痒い。きっと彼は、何年土筆を見なくても気にしない。それどころか、溢れんばかりの想像力を駆使すれば、違和感ひとつない土筆の物語でさえ書けてしまうのだろう。それは一体、喜ばしいことなんだろうか。私は、もう一度興味を引こうと試みる。

「勿体ないですよ。うちの畑なら幾らでもふーっと出来ます。隣だからきっとばれません。のんびりしているうちに、可愛げ無い杉菜に成長しちゃいますよ」

「それは少し、魅力的なお誘いだなあ」

のらりくらり躱され、暖簾に腕押しだ。ふと、何かに気付いたように、そういえば、と口を開く。

「土筆と杉菜が同じ植物だとよく知っていたね」

私は得意気に胸を張ってみせた。淡黄色の茎が成長し、やがて緑の葉に変わるのは、田舎の子供達にとっては常識である。すると先生は、悪戯が成功したかのように、ほんの僅か口角を上げた。

「いや、少しだけ違うかな」

先生が語るには、土筆が成長して杉菜になる訳ではないらしい。どちらも地下茎で繋がっているが、別ものなんだそう。土筆は春が過ぎれば枯れてしまうが、遅れて生えてくる杉菜は秋頃まで生い茂っている。

「杉菜が枯れた後も、地下茎はずっと成長し続ける。見えない所で年々領土を広げているわけだよ」

知識を披露し終えると、そう締め括った。私は感心して、先生は物知りですねと褒め上げた。彼は今さら恥ずかしげに目を逸らす。

「昔取った杵柄だよ。これでも物書きの端くれなんでね」

照れる先生は珍しいが、こちらも引き下がれない。そんなに詳しいなら、土筆の命が短いのも知っているでしょ? 一緒に見に行きましょうよ。せんせい、ね、お願い。

この先一生見れなくていいんですか、と少し語気を強めて詰め寄ると、先生は困ったように頬を掻く。子供の我儘にどう付き合うべきか、分かりかねるといった風だった。そして、

「先のことは分からないけれど、もし見れないなら、それもきっと運命さだめだろうね」

とこちらを見て、目尻を緩める。そんな慰めにもならない言葉を貰い、思わず苦虫を噛み潰したような顔をしてしまう。長年を先生と過ごし、私は、“運命・・”という言葉が彼の口癖であることを知ってしまった。

◆   ◆   ◆

瞬く間に月日は流れ、私はもうすぐ十八になる。もう無垢な子供ではない。けれど狡猾な大人にもなり切れない。中途半端に広がった視野を持て余し、最近は先生の言う“運命”という言葉をぼんやり思うことが多くなった。“なるようになる”とでも言いたいんだろうか。けれど、私はそのどちらにも明るい意味を見出せない。少なくとも先生は、諦念以外の意を含ませているようには考えられなかった。これも運命、それもまた運命……。そうやって、彼は様々な可能性を諦めてしまうのだろう。それは何だか、寂しいように思う。

先生に、沢山の美しいもの、面白い話、楽しいことを教えたい。そして出来れば、私と同じ世界を見てほしい。そんな風に思うのは、私の利己心でしかないのだろうか。若気の至りと一蹴されてしまうのか。答えの出ない想像ばかり、自問自答している。

先生は今日も、縁側で早春の斜陽を浴びている。私は、後ろ手に隠していたハンカチを二人の隙間に置いた。先生の目が興味深げに細められているのが、見ずとも想像できる。ひらりと包みを開くと、覗き込んだ先生が、土筆? と妙に澄んだ声を出す。白い布の真ん中に瑞々しい茎が三本、刈り取られた命を晒している。先生の指が内のひとつを摘み、久しぶりに見たなあと、僅かに弾む声音で言った。その瞬間、私の胸は、なぜか泣き出す寸前のようにぐっと詰まる。

気づかれぬよう深呼吸一つして、「せんせい」と努めて丁寧に呼ぶ。

「先生、私は、地下茎のように、この数年間着々と憎しみを張り巡らせて生きてきました」

まるで土筆のように。先生は何のことだか分からないとでも言う様に、あどけない表情で首を傾げた。

ねえ、先生。これからする話を聞けば、あなたはきっと、気の迷いだと瞳を泳がせるのだろう。臆病なあなたは、もうここには来るな、と言って遠ざけようとするかもしれない。

でもね先生、私は「惜しいかな」と様々なものを諦めていく姿を、これ以上見ていたくないんです。若気の至りだとか、歳が離れて過ぎているだとか、そんなものは些細な問題だ。あなたが諦めてしまった、想像では補えないような絶景、時に刃ともなる言葉たち、交わって色を変える人の情。そういうものを、私は、全て魅せてやりたい。あなたが嫌がるなら、外へなんて行かなくていいです。私があなたの目や、手脚となって何処へでも行き、全部語って聞かせます。それには時間がいくらあっても足りないでしょう。私より早く逝ってしまうあなたの運命・・が憎くて憎くて、仕方ない。

先生、私は一生かけて、その運命・・とやらに復讐してみせます。決して裏切ったりなんてしませんから、ちゃんと待っててくださいね。

27

に当たって跳ねる雨粒が、子気味よい音を奏でる。××が冷たい硝子に掌を這わせると、手形に沿って白く曇っていく。

今朝の天気予報通り、曇天からは気まぐれな五月雨が降ったり止んだりしていた。

◆   ◆   ◆

休日の夕方に加え、恵まれない空模様も関係しているのだろう。訪れたファミレスはほぼ満席だった。ウェイトレスが窓際の席を案内して去っていく。座りしな、早く本題に入れとばかり、○○の鋭利な視線がこちらを射抜いた。出会った頃はその鋭さにたじろいだりもしたけれど、悪気はないと知った今は慣れたものだ。

「話って何だよ」

「そう焦んなよ。喉も乾いたろ」

何か頼んでからにしようと促すと、渋々といった体でメニューを広げる。昨晩、××が思わせぶりなメッセージを送ったせいだろう。何か心当たりでもあるのか、いつもより落ち着きがない。

先日、とある頼まれ事をされた。初めは断ろうとしたが、はたと思い留まり、結局引き受けることにした。そして今、任務遂行のため○○を呼び出すことには成功したが、さて、どう切り出すか。まどろっこしい話は嫌いだ。それは恐らく彼もだろう。

××が意を決して顔を上げると、こちらをずっと見ていたらしい黒い瞳とぶつかった。真っ直ぐ見透かすような、意思の強い眼差し。一秒、二秒……と目を逸らすタイミングを失っていると、珍しく○○の方が先に動揺をあらわにした。考えるより前に言葉が突いて出る。

「なあ、お前って△△のこと好きなの?」

その瞬間の彼といったら見ものだった。ぶわっと音がしそうなほど一気に血が通い、顔どころか首筋まで可哀想なくらい赤くなっている。思わず、へぇと声を漏らす。身構えずつついた藪から大蛇を出してしまった。

真っ赤になった○○が、見んな!と言ってお絞りを投げてくる。××は軽く躱しながら、面倒なことになったな、とぼんやり思った。

ようやく顔色の戻った○○が言うには、気づいたら△△のことを目で追うようになっていたそうだ。初めは感じのいい子だな、というありきたりな印象だったのが、共に過ごす時間が増えるほど気持ちに色が乗っていった。恥ずかしげに言葉に詰まりながら、そんな告白を洩らす。

一方、××は、耳を傾けつつ自分の気持ちが沈んでいくのを自覚していた。○○のすっかり俯いた頭が揺れる度、黒い髪が艶を見せる。伏せた瞼に覆われて、切れ味鋭い眼差しは鳴りをひそめている。テーブルに置かれた手が、神経質そうに何度も指を組み換える。××は、男を構成する要素一つ一つを冷めた目で観察する。そうでもしないと、平静を装える気がしなかった。

満足いくまで気持ちを吐露すると、まあそんな感じ、と○○は切り上げる。伏せていた顔をやっと上げた。黒曜の瞳がじっとリアクションを待つ。××は、はぁと溜息を落とした。

「何だよ、そういうのは言えよ」

「そのうち言うつもりだったんだよ」

××が拗ねてみせると、○○は不本意そうにする。そして、俺ちょっとトイレ、と席を立った。

◆   ◆   ◆

残された××は、ここにはいない△△の顔を思い浮かべる。

水曜日、二限の空きコマで△△にあるお願い・・・をされた。この時間、○○は授業があるので別行動だ。いつものように大学のカフェテリアで課題と格闘していると、△△が迷いがちに、あのさ、と口を開く。相談に乗ってほしいと言うので頷くと、自分は○○が好きなのだと明かした。その上で、○○の気持ちをそれとなく探ってくれないかと頼まれた。

「男同士の方が遠慮なく本音を言えると思って」

裏でこそこそするのは筋が通っていないのは分かっているけれど、と苦しげに眉根を寄せる。強ばった肩がひどく華奢に見えた。

××が頼まれ事を了承したのは、△△のいじらしい態度に心動かされたからではない。もっと個人的な打算が働いたからだ。“男同士”という言葉が脳裏を巡った。ある意味大義名分を得た今なら、堂々探りを入れてよいわけだ。こちらも疚しい思惑があったので、渡りに船とばかり、持ち掛けられた相談に乗った。

まさか、話の糸口のつもりだった一発目からアタリを引いてしまうとは。いや、××にとってはハズレか。あーあ、と自嘲する。知りたくない秘密を知ってしまった。

これほど隠し事が下手な人ならば、公然の秘密になるのも時間の問題だろう。周りから揶揄われ真っ赤になりながら、愛しいあの子の反応が気になって、ちらと目を呉れるのだろうか。そして、一瞬絡んだ視線にまた照れて、パッと顔を背けるのだ。一部始終をありありと想像でき、思い浮かべた光景にさらに傷ついた。

どうして気づかなかったのだろう。どうして、要らぬ好奇心など起こしてしまったのだろう。

五月雨はまだ止む気配を見せない。硝子に叩きつけられた雨粒が軽やかに跳ねている。やがて重力に負けてゆっくり下っていく様を、見るとはなしに眺める。ふと、冷たい窓硝子に掌を這わせると、手形に沿って白く曇っていく。

曇天と止まない雨がまるで失恋した己の心のようだ。そんな、どこかの誰かが歌にしていそうな文言が浮かび、××は皮肉げに口を歪めた。○○が戻って来たら。優しい友人の顔をして「応援している」と言ってやろう。××の葛藤など、きっと彼は欠片も気づかない。

だからどうか、束の間この時だけは感傷に浸るのを許してくれないか。苦悩も憂いも寂寥感も、五月雨が全て洗い流してくれればいいのに。そんなどうしようもない事ばかり、祈るように思っていた。

28

が降る日、街は灰色に沈む。目にうるさい歓楽街でさえ、色を吸い取られて何処かよそよそしい。ひと月ぶりに訪れた歌舞伎町は、知らぬ場所のような顔をして余所者を迎え入れた。××は隣を歩く男に気取られぬよう、行き交う人の群れに目を走らせる。濃紫の傘と霧雨は、無粋な視線をうまい具合に隠してくれる。今日も灰色の街を睨んでいるであろう黒い影。××が探しているのはただ一人であった。

29

えた雑踏の中、女は体を縮こませた。濡れた髪の先で膨れた水滴が、重力に負けて地面へと消えていく。赤い靴先と白い靴下が泥にまみれていた。女は俯き限られた視界を睨めつけている。そうでもしないと、湧き上がる震えを誤魔化せそうになかった。

黒い革靴がぬかるんだ地面をにじる。頭上から舌打ちが降ってきた。恐る恐る見上げた先、火の消えた煙草を銜えた男が、苛立たしげに往来へ視線を滑らせる。真っ黒い制服は乾いているところを探す方が難しいだろう。彼の右肩はすっかり雨に打たれるがままで、差し出された傘は役目を果たしていなかった。女はもう少し距離を詰めるべきか思案したが、結局その場に留まった。男の近くに寄るなど、想像だけで恐ろしく感じられた。

30

イヤの形に汚れた雪がやけに惨めらしく映ったからか、それとも子供が作ったらしい溶けかけの雪だるまが感傷を誘ったからか。ぶり返すような寒波に吐く息が白すぎたからとか、こんな日は橋の下のおでん屋で熱燗片手に大根でもつまみたいと思いを馳せたからとか、理由は何だってよくて、何にでもなれた。

この街に××はおらず、(認めたくはないが)あの男の気配を感じないことが僅かに寂しく思われる。

31

窓を流れる景色を眺めていた。曇天はぼんやりと照り返しを閉じ込めて発光し、雲の切れ間から天使の梯子が降りてきやしないかと望んでいたけれど、それは一向に見当たらなかった。風があるのか雲の流れが速いようだったが、動き出す列車の流れに飲まれてやがて分からなくなっていく。そこここに命を刈り取られた跡地が冷えた土の色を晒しており、疎らな民家がその中へぽつぽつと建っていた。手前を速い速度で過ぎ去っていく枯れ木が細い黒々とした枝を伸ばしており、木枯らしの伊吹が感じられそうな死の匂いをまとっている。見るからに生き物の気配の絶えた、冷たい冬の景色だった。

対して列車の座席の足元では暖房が焚かれ少し暑いくらいだったので、押し付けていた足を少し離した。ひざ掛けにしていた黒いマフラーがずり落ちたため、もったりとした手つきでそれをかけ直す。ガタガタと窓が風に圧される音を立て、再び顔を上げる。先程より雲が濃くなっているようだった。雨傘の存在を失念していたので鞄には入れていない。彼は傘を持ってきただろうか。

この列車はどこまで僕らを運んでいくのだろうか。切符を買って適当に電車を乗り継いでここまで来たけれど、はたして終点にたどり着いたとき僕らをこんな所まで連れてきた暗い衝迫は、行き場のない怒りに似た情動は、少しでも収まりが着くのだろうか。

彼は僕に凭れて眠っている。肩に乗った頭の重みが今は心地よかった。シャンプーの残り香だろうか、頬に触れる髪の匂いを愛おしく思う。

朝、突然「遠くまで行こうか」と告げた僕に「どうして」とは聞かなかった彼に救われた。僕はこうして何度も彼に救われてきた。学校をサボってひたすら列車に揺られている気まぐれを許してくれる人を手放せないと思った。

十八歳は通過点であり、その先の方がずっと長い。そうとは分かっていても永遠の言葉に縋りたくなる僕は滑稽だろうか。お互いさえいればいい、今は。隣りの熱に寄りかかって、僕は静かに目を閉じた。

32

夏の死に遅れの蝉が途切れがちに鳴いていた。空は抜けるように青く、遠くに積乱雲が望めて、残暑に引かない汗が後から後から額を滑り落ちていく。喉が渇いていた。先ほど、ストレートのアイスティーを殆ど飲まずに出てきてしまったことに思い至り、舌を打ちたい気分だった。氷の沢山入ったガラスのグラスに入ったそれは、汗をかいて見るからに涼しげだった。アスファルトを踏みしめる足が照り返しで下から焼かれるようだ。時刻は十四時頃、一番日が高い時分かもしれなかった。どこからか子供の笑い声が聴こえてくる。人気の途絶えた住宅街に、それはよく響いた。

先ほどから無言で歩いていた。いや、店を出たときからずっと互いに口にする言葉を失っていた。けれど、意識は常に互いの上にあった。べったりとこびり付いたように離れないのは、店で投げかけられた言葉だった。グラスを持つ指はほっそりと爪先まで磨かれ、左手には細い銀色の輝きがあった。ベージュの服に身を包んだ女はよく笑い、愛想良く相槌を打っていたが、彼が発した言葉を聞いた途端、血の気の失せた顔で能面のような表情をした。

「お母さんのせいなの? だから女が駄目になったの?」

問いは問いの形をせず、鋭い一撃となって二人を貫いた。昨日、この女に会いに行く話をしながら、二人の関係を認めてもらえるかもと夢を語った記憶が、引き裂かれて粉々になった。

なんと言って店を出てきたか分からなかった。目を見開くだけだった彼の代わりに、強い語気で何かを言ったことは覚えている。店を飛び出して駅に向かうまで、彼の手を引いていた。

消去法のように互いを選んだのではなかった。一番近くにいたから、気づけば欠けてはいけない存在になっていたのだった。あの女には、それが分かっていなかった。他人に理解される関係ではないということをどこか忘れかけていた。彼があまりに嬉しげだから、彼女なら、という期待を抱いていたのだった。

無言で隣りを歩く彼をチラと見やった。無表情で俯きがちに歩く彼にどんな言葉を掛けるべきか、逡巡した。分かり合えない価値観を知った喪失感が、二人の上へ重く垂れ込めていた。

33

伽噺で大人になったふたりが結ばれるのは結果論でしかない。

あの時僕は強くなって正々堂々迎えに行くという考えしかなかった。結果的にそれは間違った選択だった。僕らはお互い離れ離れになる運命を享受してはいけなかったんだ。あの時、未熟でもみっともなくても、僕は彼を追うべきだったんだ。手放してはいけなかったんだ。

34

の丈に合わない店に入る。躊躇なく扉を押し開けたところへ、兄が胡乱げな目を寄越す。金の宛はあるのかという事らしかった。が、気付かないふりを決め込むと彼はすんなりと従う。人の金で美味いものが食えるならわざわざ気難しい猫を逆なでする必要もないのだ。

愛想笑いを浮かべた店員が、カウンターに並んだ華奢な椅子を示す。腰掛けると文字通り地に足の届かないそれは、なんとも言えぬ居心地の悪さを与えた。

35

はもう、


呼吸を止め、ぬくもりを失い

喜びも哀しみも怒りも怯えも忘れ

醜いもの、美しいものにも瞳を塞ぎ


老いることもない

裏切ることもない

過去や今を悔いることもない

熱や痛みを覚えることもない


何も失わず、誰にも傷つけられず

人を信じる不安にも、

人に信じられる期待にも、

心臓を脈打たせなくていい


ああ、これでやっと、

君を永遠に愛してあげられる

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というものは不思議なものだね、なぜ神はこんなものを人に与えたと思う。

聞いておきながらまるで答えに興味がないような声色で言う。


血は、


遠い昔 天地創造のとき、

泥の塊に息を吹き込まれたアダムの血管を流れ、

彼の肋骨から生まれたイヴの身に通い、

神の子から流れ出てぶどう酒となり、

やがて私たちの心臓に廻る。


この温かな鎖に縛られて

私たちは痛みを感じ、苦しみに喘ぎ

血のつながりという定めにより

親と子、同胞と異端という立場に括られている。


お前が苦痛に呻くとき、

鮮血が傷口から溢れ足元に染みをつくるだろう。

お前に与えられた赤い液体は、罪を戒めるためのものか?

時には親愛を、時には憎しみを、

決して裏切れない束縛を授けるためのものなのか?

血は、

裁きの名の下に振るわれる刃に滲み、

息の根を止めた老人の中で朽ちるときを待ち、

小さな命を赤く染めて産声を上げさせる。


今日もどこかで悲鳴と共に流れ、

見る者に恐怖を植え付ける。

その身を流れる赤色を見るとき、

お前はその毒々しい警鐘を聞くだろう。

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なたは既に僕の経歴を全てお調べになったでしょうし、この際だから腹を割って話しますよ。

僕はね、この21年生きてきて、それなりにどうしようもない事もしましたし、いい事も悪いことも何となく、それこそ文字通り泥水啜るような生活も、黙っていても食事が運ばれてくるような恵まれた環境も、それぞれ体験して、人並みか、それ以上の物を沢山見てきました。

それでね、なんの取り柄もない僕にも一つだけ自慢出来る事があって、ここまで誰一人殺さずに生きてきたことです。間接的にはどうだか知りませんが、直接手を下したことがないんですよ。これはね、大きな違いですよ。誰しも他人に殺意を抱くことはあるでしょうけれど、殺人者と非殺人者の間には埋められない深い溝があるんです。抱いた殺意を表層に現すか否か……僕はまだその一線を越えたことがないんです、ね、すごいことでしょう。