灑ぐ夏の移り気は不条理に

五月、無垢の残像が君の向こうで揺らめいた

絶対零度の夏の吐息は気配

土瀝青アスファルトに散っていく濃灰のうかいの劣等感

曇天に飽く僕はすがめた片目に

あの日の君を白昼夢に見る

さざめく都会の狂騒は鼓膜をすり抜けて

僕だけが鮮やかな無彩色の世界を嘲笑う

君の声を忘れてしまいそうな愚か者をどうか

その手で罰してくれないか

馬鹿みたいな青を独り切り裂く飛行機雲

まなうらにじっと焼きつけて

六月、逃げ水は微かな匂いだけを残した

無味乾燥の昔日に手を振って

混凝土コンクリートの上に融け落ちるありさまは生々しく

炎天をむ僕はかざした掌の下、

頭上の碧空へきくうに押し潰されていく

無人の市街地に響く蝉の音は鼓膜を穿って

僕だけが鮮やかな無彩色の世界を嘲笑う

君の声を忘れてしまいそうな愚か者をどうか

その手で罰してくれないか

嗤えるくらいかそけく一筋の光芒こうぼう

指先でそっと触れたくて

世界は次第に静寂しじまに覆われて

白銀に彩られた幻像も薄らいでいく

ほどける現世うつしよの剥片に

僕はゆっくりと両つの目を閉じる

馬鹿みたいな青を独り切り裂く飛行機雲

まなうらに凝と焼きつけて

灑ぐ夏の移り気は不条理に

かそけく:微かな様

光芒こうぼう:一筋の光