旧校舎に位置する国語準備室が令和にして切れ掛けの蛍光灯の瞬きを許しているのは、この城の主が古きを愛する少し変わった性質をしているからだ。蛍光灯の光は冷たいけれど隙がある。黄熱灯のような柔らかさはないが、まばらな親しみがあった。けれど、それももうLEDの普及によって殆どが死滅してしまった。
黄昏の残光はブラインドの隙間に切り取られた光の刺繍をリノリウムの床に施していた。換気扇のカタカタと不規則な羽音や古いエアコンの低い唸り、そこに交じるページを捲るまばらな音、愛煙をのむ微かな呼吸音。この部屋に充ちている光や音、色はどれもが蛍光灯の明滅が引き起こす光のような恰好をしている。静寂とはほど遠いけれどどこか静謐さを秘めた気配。