日課である猫の餌やりももう五年ほど続いているだろうか。慣れた道筋、無心でサンダルを引きずって歩く。春の宵は花見帰りの浮ついた風に乗って来るという。華の金曜ともなれば、桜目当ての風流人で往来は行くも帰るも喧騒が絶えない。××はこの時期特有の生命力と幸福に満ち満ちた空気が苦手だった。吸って吐く息さえもピンク色に染まっている気がしてどうにも肩身が狭いのだ。それが羨望の反動かと問われれば、相手が疑問を抱いた事を恥じるまで叩きのめす所存である。そんなわけで××家きっての天の邪鬼は、踏みつけられ足掻きとばかりアスファルトに染みを残す花びらを見、こっそり溜飲を下げる日々を送っていたのだった。