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何百、何千という黄色い命火が光の筋となって、まるで星空に届こうとするかの様に立ち昇る。遥かな頭上には天の川が横たわり、そこかしこの草むらで明滅する蛍たち。周囲をぐるっと光の粒で囲まれて、俺たちはさながら小さな宇宙の中に立っているようだった─…

膨れ上がった水滴が重力に負ける様を見ていた。割れた前髪の隙間に触れる窓ガラスは、とっくに生温くなっている。雨粒に映りこんだランプのせいで、ガラス越しを赤い水が伝っていくようだ。重苦しく横たわる時間を皮肉って、進まない車の列は苛立ちを乗算させ…

鼻腔を掠める潮の匂いにこんなものだっただろうかと記憶を擦り合わせる。これに似たものを幾つか知っているが思い出せないような、雑多で生々しい匂いだ。 「おーーーい!」 真っ青な空と、色…

今年もとうとう金木犀が満開になったという。怠惰な日常には風情もなければ、忙殺されるような出来事も無い。本来なら、まるで栞のない本のように黒々しい日々を連ねていただろうに、茫洋とした時間は何の感慨もなく頭上を通り過ぎていくばかりである。しか…

家を出るとき「今日は××の姓も長男も次男も捨て去ってまっさらな二人きり」とルールを課して、青春18きっぷ握りしめその日限りの逃避行が始まった。一日散々楽しんで帰り道、家が近づくほど虚しさ募る。ぼくら世間体とか後ろめたさとかで勝手に自滅して、…

昔、一度だけ死体を見たことがある。 大家族ゆえ家計はいつも火の車で、夏休みに家族旅行など夢のまた夢だったが、どういう経緯か両親が突然「山に行こう」と言い出したのだ。×つ子を育てる弊害かどこかぶっ飛んだ親なので、…

呑めぬ酒に飲まれて橋から落ちたとか、水面に映る己が顔に見惚れて足を滑らせたとか。噂は尾ひれをつけて人の口を好きに泳ぐ。殺しても生き返りそうな成りして、呆気なく死んだ馬鹿な奴。どうして許してやれようか? 秋も暮れ、心の臓が凍るような冷や水から…

日課である猫の餌やりももう五年ほど続いているだろうか。慣れた道筋、無心でサンダルを引きずって歩く。春の宵は花見帰りの浮ついた風に乗って来るという。華の金曜ともなれば、桜目当ての風流人で往来は行くも帰るも喧騒が絶えない。××はこの時期特有の生…

弟は感情の欠如した無表情で、鏡台の母親の赤い口紅を1本ずつ折っていく。彼女の新しい若い恋人のために買い揃えられた口紅が一本、また一本と無惨な姿に変わっていき、結局母親に見つかって叱られ、バッグの化粧ポーチの折り忘れた赤いルージュが彼女の唇に…

お題:【春】の季語である「花吹雪」を使った青春もののお話です 盛りを過ぎた桜は哀愁を誘う。すっかり色を落とし、艶やかさの面影もない。何となく感…

お題:【夏】の季語である「昼顔」を使った「遠い街へ逃避行する」お話です 海に行きたいと言われた。最後に家族と会わなくていいのか尋ねると、無言で…

お題:【夏】の季語である「夾竹桃」を使った「酔って過ちを犯す」お話です 義理の兄と再会したのは、八月の残暑厳しい熱帯夜だった。後を追うように東…

お題:【春】の季語である「土筆」を使った「復讐がテーマの」お話です 地下茎のように、着々と憎しみを張り巡らせて生きてきました。そう告げると、先…

お題:【夏】の季語である「五月雨」を使った「相手の秘密を知る」お話です 窓に当たって跳ねる雨粒が、子気味よい音を奏でる。××が冷たい硝子に掌を…

雨が降る日、街は灰色に沈む。目にうるさい歓楽街でさえ、色を吸い取られて何処かよそよそしい。ひと月ぶりに訪れた歌舞伎町は、知らぬ場所のような顔をして余所者を迎え入れた。××は隣を歩く男に気取られぬよう、行き交う人の群れに目を走らせる。濃紫の傘…

冷えた雑踏の中、女は体を縮こませた。濡れた髪の先で膨れた水滴が、重力に負けて地面へと消えていく。赤い靴先と白い靴下が泥にまみれていた。女は俯き限られた視界を睨めつけている。そうでもしないと、湧き上がる震えを誤魔化せそうになかった。 …

タイヤの形に汚れた雪がやけに惨めらしく映ったからか、それとも子供が作ったらしい溶けかけの雪だるまが感傷を誘ったからか。ぶり返すような寒波に吐く息が白すぎたからとか、こんな日は橋の下のおでん屋で熱燗片手に大根でもつまみたいと思いを馳せたからと…

お題:【冬】の季語である「枯れ木」を使った「お互いさえいればいい」お話です 車窓を流れる景色を眺めていた。曇天はぼんやりと照り返しを閉じ込めて…

お題:【夏】の季語である「残暑」を使った「分かり合えない価値観を知る」お話です 晩夏の死に遅れの蝉が途切れがちに鳴いていた。空は抜けるように青…

御伽噺で大人になったふたりが結ばれるのは結果論でしかない。 あの時僕は強くなって正々堂々迎えに行くという考えしかなかった。結果的にそれは間違った選択だった。僕らはお互い離れ離れになる運命を享受してはいけなかった…